負債を使った様々な買収スキームもあります。恐くなるようなスキームもありますが、代表的なスキームを紹介します。
まず有名なのがLBO(レバレッジドバイアウト)です。
買収元は買収資金として借入を行いますが、この際の担保は買収相手の借入余力です。
この際に買収相手の内部留保が大きければ、買収後にその内部留保を配当などで吸い上げて返済に充てれば、自己資金なく買収することが可能です。
企業倫理的には問題あるでしょうが、PBRが1未満の会社をLBOで買収し、資金を吸い上げて返済に充て、価値がなくなったところで放り出せば、計算上は買収前より多くの資金を手にすることすらできます。
この仕組みだと、LBOを使ったライバルつぶしも発生しえます。
もう一つ、投資ファンドのExitの1つとして、借入をして配当することががあります。
企業を買収した後でその企業に借入をさせ、その借入で配当させて資金回収してしまうというものです。
もともとの買収に借入を使うわけではありませんが、買収先の借入余力に注目して資金の早期回収をするので、広い意味では負債を使ったスキームといえるでしょう。
LBOにせよ借入による配当にせよ、買収された側の資本構成は様変わります。
純資産が減り、負債が増え、その分だけ資金を吸い取られることになります。
負債を使った買収スキームは恐ろしい感じもします。こういう買収を仕掛ける人を快く思わない人も多いでしょうし、本当に倫理的に問題があるケースもあるでしょう。
とはいえ、特に今の日本社会にとって、負債を使った買収は悪だと断言はできません。
少子高齢化で働き手が減る中、企業の生産性を上げていくことは日本経済の重要課題であり、アベノミクスもコーポレートガバナンス・コードの策定もその流れの中にあります。
過剰資本となっている企業が資本構成を見直し、ある程度の負債を負ってROEを上げていけば経済全体でも成長力が高まります。
端的に言えば金めぐりが良くなるわけです。
LBOなどの買収スキームは、過剰資本の企業に半強制的に負債を負わせ、資金を別のところに配置しなおす効果があります。
吸い上げられた資金が生産性の高い企業に投資され、過剰資本だった企業は負債のプレッシャーを感じながら筋肉質な会社に変わっていくのであれば、社会全体ではプラスと言って良いのではないでしょうか。
長らく安定経営が身上だった日本企業が急に変わることも簡単ではありません。
また、買収される当事者にとってはたまったものではありません。
しかしながら、上場企業には常にそのリスクがついて回るわけですから、そういう目に合う前に自力で資本構成を見直すことを求められているのでしょう。
少なくとも、安全のために内部留保をたくさん持つことが逆に別のリスクを高めてしまうということは念頭に置くべきといえます。
文:株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.37 2016.09.23)より転載