トップ > スタートアップ > ベンチャーM&A >創業139年のヤマハ、オープンイノベーションで「音」の可能性を拡張

創業139年のヤマハ、オープンイノベーションで「音」の可能性を拡張

alt
左から 横浜市 経済局ビジネスイノベーション部イノベーション推進課 係長 小川 哲 氏 ヤマハ株式会社 執行役 新規事業開発部長 北瀬 聖光 氏  ヤマハ株式会社 新規事業開発部 TRANSPOSEグループリーダー 倉光 大樹 氏  ストライク 舩津 朗 

ストライク<6196>は4月13日、横浜市のスタートアップ支援拠点「YOXO BOX」でイベント「第55回 創業139年ヤマハのオープン・イノベーションの加速」を開催した。ヤマハ株式会社 執行役 新規事業開発部長の北瀬聖光氏らが登壇し、2025年4月に社長直下に新設した新規事業開発部「TRANSPOSE」によるオープンイノベーション戦略や、横浜・みなとみらい発のエコシステム構想について語った。会場・オンラインには、スタートアップや事業会社の担当者のほか、老舗企業や地方自治体関係者など、多様な参加者が集まった。

横浜市が描く「起業がワクワクするまち」― YOXO BOXを核にした人材循環

冒頭では、横浜市 経済局ビジネスイノベーション部イノベーション推進課 係長の小川 哲 氏が、都市が抱える人材・産業面の課題認識と、エコシステムづくりの方針を説明した。

横浜市 経済局ビジネスイノベーション部イノベーション推進課 係長の小川 哲 氏
横浜市 経済局ビジネスイノベーション部イノベーション推進課 係長の小川 哲 氏

小川氏は「地域ぐるみで多様な主体と連携し、起業家の事業化・事業成長を後押ししていく」「人材が他地域に流出してしまう中で、横浜に戻ることができる会場を作る」「横浜市が、まちぐるみで起業を応援するまちに、もっとワクワクするまちにしていきたい」と強調し、学校・団体・企業・行政が交わる「YOXO BOX」への参加を呼びかけた。

起業家だけでなく、大企業の新規事業担当者や、第二創業に挑む老舗企業も「戻ってこられる場所」を用意することで、人材の循環と挑戦の再チャレンジを支える狙いである。

なぜ今、ヤマハは自前主義からオープンイノベーションへ舵を切るのか

第一部のトークセッションでは、ヤマハの新規事業開発部長・北瀬聖光氏が、これまでのキャリアとともに、ヤマハがオープンイノベーションへ転換した背景を語った。

北瀬氏は、1993年にNECへ入社し、文教・科学分野の営業や事業開発、戦略スタッフ、コーポレート事業開発、米国dotData,Inc.取締役、BIRD INITIATIVE代表取締役、ヘルスケア・ライフサイエンス事業責任者などを歴任し、計9件のカーブアウトやCVC設立(約200億円規模)に携わってきた経歴を紹介した。

そのうえで、「売上や利益といった数値責任を背負いながら新規事業をやるのは相当しんどい。だからこそ、新規事業に専念できるチームをつくり、新規事業“だけ”を担う、新規事業開発に関わる行動をしない理由を作れない体制にした」と、これまでの経験を踏まえた組織設計の考え方を振り返った。

ヤマハ株式会社 執行役 新規事業開発部長 北瀬 聖光 氏
ヤマハ株式会社 執行役 新規事業開発部長 北瀬 聖光 氏

ヤマハはこれまで、アクセラレータープログラムやスタートアップとの連携をほとんど行わない「自前主義」の企業だった。

「世界中どこへ行っても、『子どもの頃にヤマハの音楽教室に通っていた』という声が出てくるくらい、ブランドやものづくりを大切にする文化は大きな強みだ」と北瀬氏は語る。一方で、「ものづくりやブランドを優先するあまり、事業としての成長や収益性への意識が相対的に弱くなりやすい面もある」と、その文化が持つ強みと課題の両面を指摘した。

そのうえでヤマハは、「2028年3月期までに新規事業売上50億円、10年後には10%を新規事業に切り替える」という定量目標を設定している。「3年で1億と50億では、取り組み方が全く違う。定量目標を掲げないと実行力あるアプローチを選べない」と北瀬氏は語る。

専任制と“つまらない仕事をさせない”―二つのOSを両立させる新規事業組織

組織づくりとマネジメントの観点で北瀬氏が繰り返し強調したのが、「専任制」と「二つのOS(既存事業の経営OSと新規事業開発の経営OS)」の設計である。

「営業と新規事業を兼務すると、決算期が近づくにつれてどうしても売上などの業績評価が気になり、新規より既存を優先してしまう」と北瀬氏は指摘し、「だから、新規事業担当は専任にして、兼務の“逃げ道”をなくす。その代わり、社内調査といった事務的な業務は、できるだけ現場に負担をかけないよう、マネジメント側で引き取るようにしている」と述べ、現場のメンバーが新規事業に集中できる環境づくりを意識していると語った。

既存事業と新規事業という「二つのOS」をどう両立させるかについては、研究所から事業部への橋渡しの際に起こる「受け皿不在問題」を指摘する。

「研究所の技術が事業化フェーズに入っても、成功するか分からない段階では既存事業ライン側で受け取りにくい。投資も必要でリスクも高いからだ」「どこまでを新規事業チームが担い、そのコストをどう配賦するのかを、事前に制度として設計しないと、『うまくいったらお金を出します』では間に合わない」と語り、コスト設計と説明責任を明確にするガバナンスの必要性を示した。

これは、大企業だけでなく、中堅企業や地域の事業会社が新規事業に踏み出す際にも共通するハードルである。

「TRANSPOSE Innovation Challenge」―サウンド×他産業の共創プラットフォーム

2004年入社以来、カジュアルオーディオの商品企画のほか、歌って会話するコミュニケーションロボット「Charlie(チャーリー)」や、音声合成技術を活用した「なりきりマイク」など、多くのプロダクトやサービスを生み出してきたのが、ヤマハ株式会社 新規事業開発部 TRANSPOSEグループリーダーの倉光 大樹 氏だ。現在は社内外ビジネスコンテストと新規事業開発を統括している。

ヤマハ株式会社 新規事業開発部 TRANSPOSEグループ リーダー 倉光 大樹 氏
ヤマハ株式会社 新規事業開発部 TRANSPOSEグループ リーダー 倉光 大樹 氏

倉光氏が中心となって立ち上げたのが、スポンサー参画型のグローバルビジネスコンテスト「TRANSPOSE Innovation Challenge」である。初回となった2025年度は、「サウンド×プレイス」「サウンド×ウェルビーイング」といった、音と他産業の掛け合わせをテーマに実施された。

「63カ国から314件の応募があり、日本からの提案は約8%。アジア・北米・ヨーロッパ・アフリカまで、本当にグローバルな応募をいただいた」と倉光氏は振り返る。

最終審査は横浜・中区の倉庫スペースを会場に開催。生バンドをステージに招き、「サウンドストーリーテリング」と称して、登壇者が生演奏に合わせてビジネスとエモーションを同時にピッチするという、ヤマハらしい演出を行った。

「スタンダードなやり方ではなく、ヤマハらしさをどこに出せるかを考えた」「音楽的素養のある参加者が多いので、生演奏とピッチで呼吸を合わせる場を作ることで、『もっと一緒にやりたい』という熱量を引き出せた」と倉光氏は語る。

次回開催は2027年2月を予定しており、現在スポンサーも募集中だという。倉光氏は、こうしたプログラムを起点としたオープンイノベーションの重要性についても言及した。

社外から気付かされた「ヤマハの良さ」―自分たちが自分たちの価値を知らない

かつてコミュニケーションロボット「Charlie」などを社内リソース中心で立ち上げてきた倉光氏は、「社内リソースだけで完結させようとすると、対応していないリソースまで無理に引っ張ってきてしまい、結果として非効率だった」「若いメンバーに同じ苦労をさせたくない」と振り返りながら、自前主義から外部との共創へと舵を切った心境の変化を語った。

TRANSPOSEを通じて外部のスタートアップやスポンサーと向き合う中で、最も大きな気付きは「外の期待値の高さ」だった。

笑顔で語る ヤマハ株式会社 北瀬氏(左) 倉光氏(右)
笑顔で語る ヤマハ株式会社 北瀬氏(左) 倉光氏(右)

「ヤマハ人間からすると、『ヤマハに対する期待なんてこの程度だろう』と無意識に思っていた。でも実際には、外の方が持ってくる期待値の方が高かった」「自分たちが自分たちの良さを一番知らない、と痛感した」と率直に語る。

印象的なエピソードとして紹介されたのが、音楽教室の遊休資産活用だ。日中は空いている教室に新サービスを導入する案が、ピッチのQAの中から自然に生まれたという。このように、外部の視点を借りることで、既存アセットの新たな使い方が見えてくることは、大企業・中小企業を問わず多くの企業に共通する示唆である。

AI時代の新規事業――人間の役割は「意思を込めた構想設計」

セッション終盤では、AI時代の新規事業における人間の役割についても議論が及んだ。

北瀬氏は「大きな社会変化としてAIがある。アイデアづくりも生成AIを使えば、かなりの数を簡単に出せる時代になっている」と認めつつ、こう続ける。

「AIを使いながら人ができることは、意志を込めた大きな構想を描くこと」「理屈で正しいことを、その通りに実行できる人はほとんどいない。いいプランを作っただけでは事業にならない。人を理解し、巻き込み、実装していく力が必要だ」と指摘した。

未来を見据えたオープンイノベーションの可能性を語る北瀬氏
未来を見据えたオープンイノベーションの可能性を語る北瀬氏

そのうえで、「音楽だけでなく、映像、半導体など、いろいろな産業のプレイヤーと会話しながら市場・社会を描いていくことが、AIには代替できない価値につながる」と語り、産業横断のオープンイノベーションの重要性を強調した。

音×ウェルビーイング領域で2社がピッチ

第二部では、「音×ウェルビーイング」領域の海外スタートアップ2社が登壇した。イギリスのMoodsonic Services Ltd.は、ジェネレーティブ・サウンドスケープと環境センサー、クラウドソフトを組み合わせ、オフィスや医療機関、ホテルなどの音環境をリアルタイムに最適化するプラットフォームを紹介。ドイツのCynteract GmbHは、スマートグローブやストラップ、クッション型デバイスを通じて、脳卒中やパーキンソン病患者らのリハビリをゲーム感覚で支援するソリューションを提案した。いずれも「音」を回復・集中・ウェルビーイングと結びつける実装事例として、参加者の高い関心を集めた。

【M&A速報、コラムを日々配信!】
X(旧Twitter)で情報を受け取るにはここをクリック

【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック

NEXT STORY

ストライクのM&Aプラットフォーム 「SMART」

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5

ストライクのM&Aプラットフォーム 「SMART」