これまでのM&Aは、ディール専門チームが交渉を行い、契約締結後に事業部門や管理部門に引き継いでPMIを進めるという流れが一般的であったように思います。ディールに求められるスピード感、情報流出のリスク等を考えると、妥当なアプローチです。しかし、M&Aの高度化を少しでも加速するためには、買収後のカギとなる、買収先経営者に関する検討を深めるべく、より早いタイミングから、人事機能をディールに関与させることは重要と考えます。
これまで日本企業の売却案件は、事業承継上の問題を抱えたケースをはじめ、救済や身売りに近い形が多く、売却にはネガティブなイメージがつきまとっていました。しかし、売却というのは決してネガティブなことではなく、この先事業を組み替えてより強くしていくためには、必須となる取り組みです。売却なくして、買収のみ進めていくことはできないでしょう。
また、自社にとっては不要であっても、買いたい意向を持っている他社にとっては有用なビジネスであり、より多くの投資を得られることも珍しくありません。売却される従業員にとってもメリットがあることがも多いのです。
そういった観点からは、現時点では、主に買い手になっている日本企業は、ディールを通じて接点を持つ、海外売り手企業から学ぶことは多いと思います。
彼らがどのように売却の事前検討をし、準備しているか、そのためにどのように社内の情報を集約し、開示しているか、また売却される従業員に対してコミュニケーションをしているか等を目にすると、気が付くことは多いはずです。(次回へ続く)
インタビュー・編集:M&A Online編集部
マーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門プリンシパル
SAPジャパンを経て現職。国内外の企業のM&Aに伴う組織・人事全般のコンサルティングに従事。 近年のクロスボーダーM&A案件ではデューデリジェンス、経営者報酬・リテンションおよび報酬ガバナンス、従業員コミュニケーションやグローバル人材マネジメントに関わる支援多数。
著書に「人事デューデリジェンスの実務」中央経済社(共著)、「M&Aを成功させる組織・人事マネジメント」(日本経済新聞社、共著)、「合併・買収の統合実務ハンドブック」(中央経済社、共著)がある。
国際基督教大学教養学部卒、London School of Economics and Political Science (LSE)組織心理学修士(MSc.)