「これはハラスメントにあたりますか?」
研修現場でよく聞かれるこの問いに、明確な線引きはありません。後編では、グレーゾーンにどう向き合うか、そしてリモートワーク時代に増える“リモハラ”の実態と対処法について取り上げます。
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小林:ここで、ぜひ村上さんにも意見を聞いてみたいですね。これまでの話、どう感じられましたか?
村上:ありがとうございます。グレーゾーンに関する研修では、受講者から「これは大丈夫ですか」という、個別具体的なご質問をよくいただきます。グレーゾーンの境目を知りたいのだと思いますが、理由を理解して応用をきかせる事とは真逆の部分があると感じます。グレーゾーンに明確な境目はないので、判断軸を養うことがカギになると考えています。
小林:「私はその言葉を使ってるけど問題ないですよ」という人もいるかもしれません。でも、本当に問題がないかどうかわからないし、その人が判断することではないですよね。相手が嫌と言えない雰囲気もありますし、仕事なので、少しでもダメな可能性があるなら、やめた方がいいと思います。
他者が不快に思う可能性があるなら、他に言いようがあるし、言わなくてもいいことがほとんどです。そして本当に言わなきゃいけないことならば、「誤解されるかもしれないけれど、私はこういう意味で言っています」と説明するべきだと思います。
村上:不用意な発言に気をつけるというのは、社会人としてのリスク管理の基本ですよね。
ちなみに、先ほど心理的安全性の話が上がっていましたが、私からお二人にお聞きしたいことがあります。ハラスメントがない職場をつくることと、心理的安全性の高い職場をつくること、その二つの違いは何でしょうか?
私としては、両者はイコールではなく、同じ線の上で「マイナスから0に持って行く作業」がハラスメントのない職場づくり、「0からプラスに持って行く作業」が心理的安全性の高い職場づくりなのかなと解釈しました。まずは不用意な発言やハラスメントをしないことが、スタートラインかと。
小林:質問の答えになっていないかもしれませんが、「心理的安全性」という言葉は少し誤解されやすいなと感じています。僕個人としては「心理的安全性が高い」というのは、職場にいる人が安心・安全を感じるだけでなく、そうした環境の中で高いパフォーマンスを発揮し、成果を出せる状態のことをさしているのだと思っています。
それに対して「ハラスメントのない職場」の意味を考えると、マズローの欲求五段階説じゃないけれど、安全欲求や社会的欲求といった低次の人間の欲求が満たされていないという問題を解決した状態をさしている。
両者を比べると、前提としている段階がだいぶ違うと感じます。
村上:生理的安全とか、社会的安全とかはそうですよね。
小林:心理的安全性が担保された職場は、ハラスメントがないことを前提として、管理職がやりがいなどをサポートする、ということだと思います。
(マズローの五段階説でいえば、「承認欲求」や「自己実現欲求」を満たす必要がある)
安西:私も認識としては、小林さんと同じです。お客さまから「心理的安全性の研修をやりたい」というご要望が多いですが、その段階に至ってない企業も結構多い印象です。よくよく話を聞いてみると「そもそもハラスメント防止の研修を先にやる必要があった」というケースもあります。それらは地続きでつながっている概念ですが、心理的安全性を高めるには、土台があってこそだと思います。
小林:最後にリモートハラスメント(リモハラ)について話をしたいと思います。これは、内容は他のハラスメントと一緒なので、シチュエーションの問題ですね。セクハラ的なリモハラは「化粧してないの」みたいな発言、パワハラ的なものだと勤務時間を過ぎても連絡や指示をしてくるなど。
それ以外だと、ペットが映り込んで必要以上に叱責される例などもあります。
リモハラしてしまう人の傾向として、関わりが減った寂しさの余り、久しぶりに話せた喜びからついサービス精神旺盛になり、行き過ぎた発言に至ってしまうケースがあります。
安西:悪気なく、余計なことを言ってしまうんですね。
小林:そして受け取る側も、全員ではないけれど、リモートの環境で許容力が下がっていると問題が大きくなりやすいという、不幸な構図もあるように思います。
安西:それはありますね。対面だったらハラスメントに該当しないようなことでも、リモートが故のトラブルが発生してしまうことはあると思います。
小林:先ほど「ついうっかり」不用意な発言をしてしまう件について話しましたが、言われた側の受け止め方も大事だと考えています。もちろん、ひどい発言ならしかるべき対応を取りますが、うっかりグレーゾーンに入ってしまうことは誰にでもあります。
ある時は失礼なことを言われた側も、次はうっかり不用意なことを言ってしまう可能性も十分にありますので、ある程度はお互い様ということで、相手が反省をしていたら寛容に許すことも大事です。
安西:確かに年齢や性別を問わず、誰でも失言する可能性はあります。そこをみんなが理解した上で、指摘を受けた人が間違いに気づいたら、周囲も許容することは必要ですね。逆を言えば、同じことを繰り返す人は「この人は言っても改めない」と思われるでしょうし、対外的な場合は炎上する可能性もあります。なので、周囲が許すと同時に、自分も指摘されたら改められるよう、みんなで時代に合わせた意識のアップデートをしていきたいですね。
村上:意識や価値観のアップデートは、ハラスメント防止のカギですね。ただ、言動を改めるとか、そのための考え方を身につけるとか、幼少期に当たり前のようにやっていた「今の言い方よくないよ」「ごめんなさい」という、素直で謙虚な受け止めが難しい人もいます。
またビジネスの現場においては、周囲も指摘はするが改善を促すまでは難しく、ハラスメント防止を実現しにくい要因の一つなのかなと思います。研修だけではなく、職場内での根気強い働きかけが、ハラスメントに向き合うために必要な要素だと改めて感じました。
株式会社インソース より