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当事者が語る女性キャリア・性&多様性「女性キャリア・ダイバーシティについて考える」DEI講演会レポート

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女性のロールモデルに縛られず自由でいること

兒玉 久実氏

VISITS Technologis株式会社
コーポレート部長兼取締役

銀行勤務を経て青年海外協力隊に参加し、ミクロネシア連邦に赴任。帰国後、現・有限責任監査法人トーマツに入所、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に転籍し、企業再編業務などを経て国際開発業務に従事。様々な社会課題に直面し、グラミン日本の立ち上げに参画。また現在はスタートアップ企業で管理部門を総括。

大塚 泰子

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー

総合系グローバルコンサルティングファーム、外資系ITコンサル企業を経て、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。17年超にわたり、新規事業戦略策定、中長期の成長戦略策定、ビジネス・デューデリジェンス、経営統合支援といった領域に携わる。2022年から1年間、前職にて米国ニューヨーク州本社勤務。京都大学経営管理大学院准教授(現職)。

羽場 俊輔(ファシリテーター)

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアマネジャー

大手エネルギー会社・米系コングロマリットにおいて、IoT関連新規事業立ち上げや大型回転機械の状態監視システムの設計・導入などに従事。米系コンサルティングファームを経てデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。製造業、建設・不動産業、防衛宇宙産業など向けの戦略策定支援、中長期・超長期ビジョン策定、ESG戦略策定などに従事。

羽場:第1部「女性の働き方」をテーマにディスカッションをしていきます。はじめに、“女性であること”がお2人のキャリアにどの程度影響がある、またはあったのでしょうか。

大塚:私は正直、あまり影響を感じていません。それは、自分の能力・スキルに一定の自負を持てているからかもしれません。仮に女性であることがキャリア・仕事にマイナスに働くことがあれば、信頼できる上司に相談して自身の避難場所を確保することで、自分を守ることが大切ですね。

兒玉:私が新卒で入行した地銀では、男性と女性とで任せてもらえる業務が異なり、「銀行業って男性の職業なのかな」と思ったことはありましたね。ただ、地銀を飛び出して男女差の少ない様々な環境も経験してきた現在は、「性別に対してフラットな環境に自分の身を置くこともできる」とも感じています。

大塚さんのキャリアを見て「キラキラしている」と感じる女性も多いかと思いますが、ご本人としてはどのように捉えていますか。

大塚:実際には浮き沈みが激しいですよ(笑)。自分の思い描いたキャリアをなかなか実現できない時期もありましたし、プライベートでも上手くいかずに苦しむことは多くありました。私に限らず、例えば“いい大学を出て、結婚して子供もいて、順調に昇進を重ねている”というような女性でも、お酒の場では「今、すごくしんどい」と吐露する人は少なくありませんよ。

羽場:当たり前かもしれませんが、1つのロールモデルのお手本のような女性でも、現実にはもがきながら生きているのですね。

大塚:ロールモデルという単語が出ましたが、世の中にはワーキングマザーや事実婚の方、パートナーが女性の方など、本当に多様な女性がいます。世間が提示する女性のロールモデルに縛られ過ぎず、もっと自由でいることも大切だと感じています。

羽場:兒玉さんもキャリアの浮き沈みはあったのでしょうか。

兒玉:私も結構山あり谷ありですね。新しい世界に飛び出したはいいものの、慣れるまでは自己嫌悪に陥ることもしばしばありました。ただ、たとえ辛い状況であっても、目標を達成するまではその場所から逃げずに努力してきましたね。そして、その場で花を咲かせられたと判断したら、次の環境へ挑戦するようにしています。

羽場:その場から逃げずにやり遂げることを大切にされてきたということでしょう。

兒玉:これは経験則ですが、与えられた場所で花を咲かせられれば、絶対にそれを見ていた人に新たな道を開いてもらえるのですよね。自身の環境の粗探しをする前に、まずはやれることをやることが大切だと考えています。

ダイバーシティな人材登用をしないこと自体がリスク

羽場:ほかの女性のキャリアやプライベートと比較して、悔しい・羨ましいと感じてしまうような、ネガティブな感情との付き合い方はどうなさっていますか。

兒玉:隣の芝生は青く見えるものだと思います。私は独身で、やりがいのある仕事をしてお金や時間の自由度も比較的高い。そのため、仕事をしていなかったり、子供がいたりする人たちからは「いいね」と言われることもあるのですが、逆もまた然りなのですよね。ほかの人たちと比較してどうこう感じているというよりは、「色々な人がいる」と思うようにしています。

羽場:最後に、女性含め多様な人が活躍するダイバーシティの重要性について、思うところをお聞かせください。

大塚:もはや現代は、多様な人材を活用しないこと自体が企業リスク増大につながると考えます。象徴的なエピソードとして、5年ほど前に「ヨーロッパ企業へ白人男性だけでプレゼンに行ったら、『ダイバーシティのわかっていない企業と取引するつもりはない』と追い返されてしまった」という話を身近な人間から聞いたことがあります。

加えて、「同質性の高いチームより、多様性のあるチームの方が優れた成果を出した」という実験結果もありますよね。このように企業リスクの低減に加えてパフォーマンス面からも、性別・人種・年齢・価値観などとらわれない、多様な人材の登用が必須だという認識を持つべきだと思います。

兒玉:地銀退職後、青年海外協力隊に参加して赴任したミクロネシア連邦では、日本人とは全く違う考え方・行動をする人々と交流を深めました。この経験から、自身と異なる環境には「自分とはそもそものベースとなる考え方が異なる人がいること」を実感しました。そのため、ダイバーシティを推進するためには、まずは相手を理解することが重要であると考えています。

プライド=自己肯定感を持つことの大切さ

ブルボンヌ氏

女装パフォーマー・ライター

早稲田大学在学中の1990年にゲイのパソコン通信ネットワークを設立。ゲイ雑誌『バディ』主幹編集者、女装パフォーマンス集団の主宰を経て、ライター・タレント活動を開始。NHK『阿佐ヶ谷アパートメント』『ハートネットTVフクチッチ』『ラジオ保健室』などテレビ・ラジオにレギュラー出演中。『オレンジページ』などの雑誌・WEB連載、ドラマ『ファーストペンギン!』監修、全国自治体や大学・企業においてジェンダーや多様性に関する講演活動、全国のLGBTイベントでの司会など多方面で活躍中。

第2部では、外部講師で女装パフォーマー・ライターであるブルボンヌ氏に講演をしていただきました。講演の冒頭、「皆さんは目の前にいる人が男性か女性か、どのように見分けていますか」と尋ねるブルボンヌ氏に、会場は「そんなこと考えたことがなかった」という雰囲気になりました。「肉体で判断する方が多いかと思いますが、肉体には個別差があるうえに、性別適合手術やホルモン投与を受けた人は相当な肉体的変化があります。さらに生まれつき両性の肉体的特徴を持っている方もいますね」と言及。肉体のほか、性染色体や装い・振る舞い、戸籍の続柄、性的指向といった男性と女性を見分ける様々な項目を提示しながら、これらの項目からなる性に関して、自身を次のような「性分表」として表します。

  • 性染色体:「XY(男)」
  • 装い:(仕事時は)女性
  • 振る舞い:中間的
  • 戸籍:長男(男性)
  • 性的指向:男性

性にまつわる複数の項目からなる性分表は、人間の性は単純に「男性」と「女性」にきっぱり分けられるのではなく、多様な要素で構成されていることを示しています。このことをブルボンヌ氏は「性はグラデーション」と表現していました。

続いて、性はグラデーションであることを示す言葉として、ブルボンヌ氏は「SOGIE(ソジー)」という言葉を紹介しました。SOGIEは「LGBTQ」含めて全ての人間が持つ「性的指向(Sexual Orientation)」「性自認(Gender Identity)」「性表現(Gender Expression)」を組み合わせた単語で、性について3つの項目をパラメータで表現するそうです。「知らない方にはぜひ覚えていただきたいですね」と強調していました。

ジェンダーに関する昨今の動向についても説明がありました。具体的には、Apple社CEOであるティム・クック氏は自身がゲイであることをカミングアウトしていることや、台湾の前デジタル担当相オードリー タン氏が以前から自身がトランスジェンダー当事者であることを告白している事例を挙げ、「自身が性的少数者であることを隠さない、という姿勢が世界ではどんどん広がっている」と語ります。

一方の日本の現状については、ジェンダーギャップ指数の順位(146か国中125位)や国会議員の女性比率の低さなどを挙げ、諸外国と日本の差を嘆いていました。とはいえ「日本が何も動いていないわけではない」として、「同性パートナーシップ制度の人口カバー率が約85%に上るのですよ」とも補足していました。

講演の終盤には講演活動において性にまつわる話をする思いについても語りました。「性的マイノリティの実情を知ってもらいたいという気持ちもありますが、何より『自己肯定感を持つことの大切さ』を伝えたい」とブルボンヌ氏。自己肯定感が低いと他者との比較ばかりをするようになり、自己否定につながりかねないためだそうです。「諸外国と比べて日本の若者の自己肯定感が低い」とする内閣府の調査を紹介しつつ、「私たち性的マイノリティは『同性を好きになるのはおかしい』『その振る舞いは変』などと言われ、自己肯定感を持ちにくい環境にいたからこそ、ずっと前からプライド=自己肯定感が大切だと考えてきました。私はぜひ、より多くの日本の皆さんにプライド=自己肯定感を持っていただきたいと願っています」とメッセージを送りました。

DEI推進の意義と多様性への理解を深める機会として

イベントの最後には、DTFAパートナーの永津英子が登壇し、「それぞれの個性を最大限に引き出すことがとても大切なことであり、会社の戦略としても必要なことだと再確認できました。こうしたイベントを通して、皆さんと一緒にさらに多様性についての理解を深め勉強し続けていきたいという思いです」と締めくくりました。

多様性についての学びを継続しながら、DEI推進という大きなテーマと向き合う重要性を考える好機となり、参加者にも一体感が生まれるイベントとなりました。今後の取り組みも期待されます。

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