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第15回 「ロゴ&スローガンの選定と展開イメージを考える」ワークショップを終えて

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シティプロモーションの旗印を形にするまで

江島 成佳

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ディレクター

ブランディングのコンセプト開発・企画立案からトータルディレクションおよびマネジメントの実行責任者を歴任。金融、IT、不動産、自動車メーカー、運輸、病院、教育、流通・小売業、飲食業など幅広い業種のブランディングに従事。VI開発やプロダクト、サービス開発、空間設計、コミュニケーション施策なども手掛ける。2021年5月より株式会社シー・アイ・エー代表取締役社長に就任。現デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 シー・アイ・エーチームのリード。

長谷川 知栄

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアマネジャー

三次元CAD関連企業、外資系コンサルティングファームを経てデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。営業支援・CIO支援などの組織や業務に係る支援、新産業創出・業界再編などの行政案件、M&A戦略・実行に係る支援、海外進出・JV設立支援、知財戦略に係る支援などに従事。直近ではブランディングの観点にて様々な業務に従事。

――まずはDTFAのお2人にお聞きします。2023年11月から第1回・2回のワークショップを経て、今回の第3回を終えての感想、今後の期待についてお聞かせください。

長谷川:昨年度(2022年度)、四国中央市からシティプロモーション戦略策定の依頼を受けました。市民、特に高校生、そしてクライアントである市役所の方々の未来への想いをつなぎ、形にすることが重要だと考えました。そこで、今年度(2023年度)は具体的なアクションにつなげる「つなぎの年」と位置付け、ワークショップを通して市民が一丸となって未来へ向かうための旗印となるロゴとスローガンづくりを企画・開催しました。四国中央市がこれから大きな転換点を迎えていく中で、市民の皆様が旗印を作っていく場に関わることができ、社会アジェンダに取り組むブランダリーグループのテーマにも合っており非常に意義深く感じています。

DTFAとしては、戦略策定という「構想」段階の支援は数多くあっても、「クリエイティブを活用して旗印をつくる」という「造形」の事例はこれまで数少なかったと思います。四国中央市のシティプロモーションのように、少子高齢化、地域創生、地場産業のさらなる成長などの社会アジェンダのテーマにおいて、戦略に基づいて旗印をつくり、市民の活動につなげていくといった一連の活動に伴走し支援していく経験はこれからのDTFAにとっても転換点となりますし、今後も同様の社会的ニーズに応えていきたいと思っています。

江島:四国中央市は、豊かな自然と紙産業をはじめとする強い産業基盤を併せ持つ特異な環境にあります。自然と産業の調和、そして市民の活力といった四国中央市ならではの価値をより多くの人に知ってもらうことが重要です。

「日本一の紙のまち」と呼ばれているようにほかの地方都市とは異なる強みを活かし、未来に向けてどのように魅力を引き出していくのか、ブランディングといった視点で私たちがどういったスタイルで貢献できるのか、試行錯誤しながら携わっています。

昨年度の第1回「18っ祭!」では現地でイベントのポスター貼りを手伝うなど、高校生や市職員の皆さんと一緒に汗をかいて活動する場面もありました。四国中央市のシティプロモーションは、DTFAとしても「戦略を実行に移していく」という新たな試みになったのではないでしょうか。

――nae社とワークショップに取り組むことになった経緯をお聞かせください。

長谷川:もともとDTFAブランディングアドバイザリーチームやCIA(Creative Intelligence Associates)チームでは、外部のデザイナーやクリエイティブファームの方々とお付き合いがありました。nae社とも取引があった中、代表取締役の篠原由樹さんが偶然にも愛媛県、しかも四国中央市出身であると伺いました。

出会いは偶然でしたが、一度地元を離れて東京で活躍を続け、地元へ貢献する篠原さんのような人材は、シティプロモーションの文脈にも合致しています。実際、nae社の参画によって、市民や市職員の方々が、シティプロモーションという本取り組みに、より親近感を持ち、積極的にプロジェクトに参加しやすくなったのではないかと感じています。一方で、nae社にとっても地元とのつながりが新たにできたことで大きな転機となり、さらに興味深いプロジェクトになったと思います。

江島:こうしたシティプロモーションに取り組む際、何度も地域に通ってお手伝いしたとしても、外からまちを見る以上、どうしても市民とは一定の距離感があります。しかし、市の外側から見る私たちと、内側から見る市民や市職員との間に篠原さんという市出身者が入ることで、まちの外部の視点と内部への理解を持ち合わせた貴重な存在が生まれたのです。

市民や市職員とのコミュニケーションにおいても、私たちが知らない地元の話で盛り上がると皆さんの緊張が解けて場が和み、表情が明るくなるシーンを目にしました。nae社のおかげで双方向のコミュニケーションが活発化し、より説得力のあるシティプロモーションになっていると思います。

――ワークショップの運営を含めシティプロモーションではどのようなことを心がけていますか。

長谷川:まず、四国中央市のシティプロモーションにおいて重要視しているのは「どうやって市民のみなさんが主体的に活動していけるか」です。行政主導ではなく市民が主体的に参加することで、より愛着と誇りを持てるまちづくりを目指す仕組みづくりが必要だと思っています。 

ワークショップは、市民がまちづくりに積極的に関わる絶好の機会です。今年度は市と所縁の深いnae社の協力も追い風となり、地域の未来を考えるひとつのきっかけになったと感じます。DTFAとしても昨年度から継続的に取り組むことで市民との信頼関係を築き、より深い議論につなげることができました。

江島:シティプロモーションを成功させるためには、まず市民に理解してもらい、地道な取り組みを継続しながら根付かせる視点が重要です。そのためには、時間をかけて丁寧に活動を続けて行く必要があります。ある意味、市民をはじめ行政関係者にとっても忍耐が求められるものです。

市役所、市民、そしてDTFAと、それぞれで異なる立場や時間感覚を踏まえたうえで、長期的な視点と短期的な成果をバランスよく達成し、持続可能なシティプロモーションを実現していけたらと思います。

今回のワークショップには2つの目的があります。1つ目は今回制作するロゴとスローガンを判断する基準を理解すること、そして2つ目は、次回に向けて、ロゴとスローガンの方向性を絞ることです。

それぞれの視点で議論できる場の重要性を再確認

――シティプロモーションの旗印を決定するプロセスを市民と共有する面白さと難しさなど、第3回のワークショップ中のエピソードがありましたらお聞かせください。

長谷川:第3回ワークショップは、"I Love New York"(アイ・ラブ・ニューヨーク)をはじめ、国内外の他市のロゴの活用例を紹介し、市民と作成した旗印の活用方法を話し合う内容でした。

手間暇かけて作り上げた旗印を、高校生であれば日常生活で、企業であれば事業活動で、市職員であれば行政の実務や市民との関わりで活かせるかが重要です。当事者の立場ならではのユニークな視点が次々と登場し、活発な議論が行われました。

江島:高校生、市職員、企業という3つのステークホルダーが話し合う中で、共通する視点と相違する視点が明確に現れており、非常に面白い議論となりました。

特に、ロゴ制作をテーマに実施した第2回ワークショップでは、参加者をステークホルダー別にシャッフルしてグループ分けを行いました。1つのグループに高校生や市職員、企業の方々を数名ずつまとめた形です。

最初は高校生が大人に遠慮して発言を控えるのではないかと心配していましたが、いざ議論が始まると積極的に意見を出し合い、時には議論をリードする姿も見られました。まちの未来に向けたロゴを考えるというテーマが、若い世代の感性を刺激したのかもしれません。若者の可能性を感じたワークショップでもありました。当日、ワークショップをサポートしたnae社の存在も大きいと感謝しています。

ワークショップを通して、世代や立場を超えて共通する四国中央市の魅力が浮き彫りとなりました。一方で、世代や立場による意見の違いも明白となり、有意義な議論になったと思います。「紙のまち」というイメージが強い四国中央市ですが、豊かな自然や四国の交通の要衝といった紙産業以外の魅力も可視化されました。

――ここからは、nae社の篠原さんに伺ったワークショップ後の感想と今後の展望について紹介します。

まちづくりに不可欠なクリエイティビティ

篠原 由樹氏

nae株式会社
代表取締役

愛媛県四国中央市出身。女性の課題に関する10年以上の支援経験を持ち、「女性のウェルビーイング向上」や「環境・社会のサステイナビリティを高めること」をテーマにメーカーや自治体とワンチームで社会変革に挑戦している。女性の課題に関するプロジェクトを中心に家電、自動車、医薬、ホテル、素材や宇宙まで、幅広い業界の事業開発を支援。東北工業大学「ユーザーリサーチ論」非常勤講師。東京都女性ベンチャー成長促進事業 APT Women メンター。

――篠原さんには、今回のロゴ・スローガンを考えるワークショップの中で、第2回・第3回と連続して講師を務めていただきました。今回開催したワークショップの全体を通じた印象を教えてください。

篠原:色々なところでロゴなどに関するワークショップ講師は務めていますが、高校生が参加しているというのが初めてで、面白い取り組みだと思います。なんといっても、大人よりも固定観念がない分、高校生の皆さんは柔軟な発想をしている感じがうかがえました。

――今回市の職員、企業の方、高校生という多様な属性の方が参加されたワークショップでもありました。参加者の属性による特長などを感じたことがあれば教えてください。

篠原:市の職員は非常にワークショップに慣れていると思いました。市で開催されるイベントなどをはじめ、このようなワークショップへの参加経験も豊富なのではないかと思います。企業の方は、ロゴの具体的な活用場面を想定した視点が入っているので、例えば会社のスポーツのサークルで使ったらどうか、自社製品にどう掲載するか、などの意見交換が活発で、ゴールが明確であると感じました。高校生は、お金を使わずにできることを中心に想起しているように見受けられた一方で、大人顔負けに四国中央市に詳しい参加者もいて、豊富な知識をベースに充実した意見交換が実施されていたと思います。

――第3回では、ロゴやスローガンの展開を考えていこうというワークショップでした。ワークショップで出た意見やアイデアをもとに、どのように実際の展開に活かしていくことが重要でしょうか。

篠原:グッズを作ること自体は簡単かと思いますが、その先が重要だと考えています。「どのようにそのグッズを使い続けてくれるのか」「どのような場にロゴやスローガンを掲示すれば皆さんが見続けてくださるのか」ということを考え続けていくことが大切ではないでしょうか。

あわせて、サービスや取り組みにロゴを折り込むことで、つながりを感じられる機会の提供なども大事ではないかと思います。例えば、スローガンのキーワードである「おりなす」をテーマとしたイベントを開催し、イベントの参加を通じてロゴやスローガンに込められた想いを体感していただくような取り組みから周知を行うことで、ロゴやスローガンの本来の目的が伝わっていくのではないかなと思います。

――いまのお話を伺っていても、篠原さんのワークショップは、ただ参加するだけでなく、根本的な考え方を学べる場であるように感じました。ワークショップを行ううえでこだわっている点などはありますか。

篠原:ワークショップでは、根本の判断軸を整えることを大切にしています。皆さんが生きてきた中で出来上がった判断軸でそれぞれが考えてしまうと、様々な意見を強引に反映する場になってしまう可能性があります。そうするとデザインとして体現するときに、色々な要素をただ詰め込んだ混沌としたロゴになってしまったり、誰にも刺さらないスローガンになってしまったりと、本来の目的からかけ離れたアウトプットとなってしまうので、「良いロゴとはどんな要素を持っているか」「ロゴやスローガンの展開時にどんなことに留意すべきか」といった判断軸を整えるための考え方や視点を学んでいただくことを心がけています。

――実際のワークショップに同席していても、そのお考えは非常に感じました。参加した方が本質的な考え方を学ぶことができるので、例えば別の機会でロゴを考える際にも今回のワークショップで学んだことを活用できるのではないかと思います。

篠原:そのほかに、緊張感を解くための空気づくりとしてアイスブレイクにもこだわっています。このアイスブレイクも、その後に実施する本題のアクティビティにつながる内容となることを意識して企画しています。そのため、アイスブレイクを経てアクティビティに入るのか、アイスブレイクを行わずアクティビティに入るのかで空気感が全く変わると思っています。今回は開催時間の都合で、アイスブレイクに参加したグループと参加しなかったグループがありましたが、両グループの意見交換の活発さに明確な違いが出ていたように感じました。

このような多様な属性の方が参加するワークショップというのはなかなかないと思います。その分色々な意見が集まった場となったように感じますので、実務的な目線を有する企業の方や、市民としての目線を持つ市職員、そして市の未来を担う高校生のアイデアや意見を取り入れながら、四国中央市にとってより良いロゴ・スローガン、また展開方法につながるよう引き続きデザインや企画を行ってまいります。

――多様な意見が交わるワークショップというプロセスを経て、どのようなロゴ&スローガンが完成したのか。次回は、その成果についてお伝えします。

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