ヴァージニア会社の歴史に見る米国起業家精神の「もう一つの原点」|間違いだらけのコーポレートガバナンス(10)

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ヴァージニア会社をビジネスデューデリジェンスしてみよう

以前、東インド会社について、そのビジネスモデルを簡単に整理した。ヴァージニア会社についても、簡単に「ビジネスデューデリジェンス」をしてみよう。

■ヴァージニア会社は、純然たる民間事業
ヴァージニア会社は民間企業である。東インド会社も含め、初期のイギリスの植民事業会社は、基本的には民間事業だ。王室はこれに「勅許状」を与えているという形で関与している。勅許状とは、事業許可証であり、独占権の付与証書であり、その見返りとしての税の取り決めなどが定められた証書である。
リスクの高いベンチャー投資をするために、投資家は事業の成果を独占できることを強く望んだ。ロンドン会社とプリマス会社は1606年にジェームズ1世から勅許状を得た。ロンドン会社はヴァージニア北部、プリマス会社はヴァージニア南部の独占権を獲得した。

■初期プロダクト仮説=金の発見と貿易
初期東インド会社のメインプロダクトが香辛料であったのに対し、ヴァージニア会社の初期プロダクト仮説は「金(ゴールド)」だった。これはおそらく、英国に先行して南米大陸を植民地化したスペインやポルトガルが、先住民族から大量の金を略奪した前例があったからだ。
南米に金があるなら、北米にもあるはずだ。それがヴァージニア会社の初期プロダクト仮説だったと思われる。「南米に続いて北米までスペイン、ポルトガルに取られるわけにはいかない」という国家的な重要テーマでもあっただろう。

■着いていきなり「ウルトラハードピボットに直面(事業転換)」
以前考察したように、初期東インド会社の主力事業だった香辛料貿易が、会社設立の100年以上前から様々なPoC(試行錯誤)を繰り返して成功確率を高めたビジネスだったのに対し、ヴァージニア会社の金ビジネスは非常にリスクの高いものだった。「たぶん、金はあるだろう」と思って行ったら、「残念、なかった」という結末。最悪である。
実は彼らの思惑通り、北米大陸にも金はあった。しかし、それが発見されゴールドラッシュが起きたのは、ヴァージニア植民から200年以上も後だった。金鉱脈の場所も、東海岸から遠く離れた西海岸だったのだ。

■宝くじで資金調達
「ヴァージニアに金はないらしい」。ヴァージニア会社は必死でその事実を隠したが、英国投資家の間で瞬く間に失望が広まった。そして、シードラウンドの調達資金が底を尽いたヴァージニア会社は、レスキューラウンドの資金調達で悪戦苦闘する。
現在のシリーズA*など遠い先の話。生きるか死ぬか、ギリギリのタイミングで一つの大胆なアイデアが実行された。
なんとそれは、宝くじの発行による個人投資家からの資金調達である。1612年、ヴァージニア会社に対して、王室から第3回目の勅許状が発行された。この中で同社が資金調達のために宝くじを発行することが許可されたのだ。
 *ベンチャーキャピタル投資家の出資を受けて、最初に株式を発行する段階。シリーズA優先株式は、株式公開や企業売却などで普通株式に転換されることが多い

筆者は宝くじによる資金調達の史実を知ったとき、ある種の既視感を覚えた。現代でもベンチャーキャピタルなどのプロ投資家からの資金調達に苦戦したスタートアップが、ICO(Initial Coin Offering)のようなリスクが高い仮想通貨などで個人から資金調達して、なんとか生き延びようとする風景を思い起こさせるからだ。

誤解を恐れずに言うならば、筆者はスタートアップがこのような行動をとることを責める資格は誰にもないと思う。挑戦して、失敗して、それでも生き残らなければならない場合、きれいごとは言っていられないからだ。

もちろん、現代において投資家は保護されなくてはならないし、虚偽の情報による募集は犯罪だ。が、生き延びようと頑張るその姿勢自体は、誰も否定できるものではない。400年前、まさにヴァージニア会社はこのような状況に直面した。そして、宝くじの発行を認めさせて資金を調達し、なんとか生き延びようとした。

当時のイングランド南部では、この宝くじが「民衆の不健全な射幸心を煽っている」との批判も強かったようだ。そのような点も含め、ヴァージニア会社の宝くじによる資金調達は現代においても示唆に富むエピソードである。

文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)

西澤 龍 (にしざわ・りゅう)

IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー

投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員

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