ビズサプリの辻です。
梅雨の真っただ中ですね。最近、雨の降り方がかなり変わってきていることを感じている方が多いのではないでしょうか。100年に1回、200年に1回という豪雨が毎年どこかで起きています。私自身も先日名古屋に出張した際に、新幹線が丸一日大雨で止まってしまい帰京できなくなるという目にあいました。
このような異常気象による水害・土砂災害をもたらす豪雨は、人間の活動によって大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことが要因だということが指摘されています。(国土交通省白書2022-地球温暖化の状況-より抜粋)
本日は、環境問題、特に気候変動に関する取り組みや開示について触れてみたいと思います。
先日、テレビで「人類が繁栄した1950年後の時代を象徴する地層を、地質学的に「人新世」という新しい時代区分にするかどうか検討するため、世界中の候補地の調査が行われている」という報道を見ました。ミルフィーユのように積み重なっている地層に、それぞれに「ジュラ紀」とか「白亜紀」とかいう名前があることをお聞きになったことがあるかと思います。あの地層の一番新しい層に「人新世」という区分ができるのではないか、ということでした。
正確には地質は、大区分の「代」、中区分の「紀」、小区分の「世」と分けられるとのことで、現代のいま私たちが生きているのは、約1万1,700年前から始まって現在に至る「新世代・第四紀・完新世」で、その「完新世」が終わりを告げているのではないかということでした。人類の急激な人口の増加(=人類の繁栄)が地層に影響を与えているとなると、少し恐ろしい話です。
ちなみに人新生の地層には、何が含まれているかというと、コンクリート、石炭、マイクロプラスチック(特に化学繊維に使われているもの)とのこと。日本の調査地である大分県の地層からは、少量のプルトニウムも検出されたとのことでした。
このように聞くと、なんだか暗い時代に感じますが、人新世時代、皆さんもご存じの通り人類は大変な繁栄をしています。病気を医薬の力で克服し、農薬や遺伝子組換などを駆使して効率的に食料を生産できるようになりました。また、地下資源を使って多くの産業を発達させました。人類が誕生してから世界の人口が25億人となる1950年(人新世の始まり)まで十数万年かかっていますが、そこからわずか50年余りで人口は70億人を超え、2050年には100億人に迫る勢いです。まさに種として繁栄を謳歌しているさなかです。
一方で今は生物の大絶滅時代とも言われているようです。人新世に入ってから生物種の約70%が死滅をしてしまっていて、第6の大量絶滅と呼ばれているそうです。現在の大量絶滅は人間活動による影響が主な要因だそうで、現在もたくさんの生きものたちが危機に瀕しているそうです(環境省生物多様性センターHPより)。
梅雨時によく見かけたカタツムリも絶滅の危機だとか。人類が繁栄する一方地球全体の生物は大量絶滅時代になっているとは、なかなか実感できないものですよね。
ちなみに、現代は、地球上の全生物の重量約1兆1,000億トンと、人間が作り出した人工物(コンクリート、ガラス、金属、プラスチックなど)の総重量が現在ほぼ同じになっているそうです。そして、さらにこのままの勢いで増え続けると、2040年までに約2.2兆トン、生物の総重量の2倍以上になると予測されているそうです。地球がどこまで我慢してくれるか心配になってきます。
このような状況を鑑みて、企業も単なる経済成長だけではなく、持続可能性(サステナビリティ)や生物多様性に配慮し、そしてその課題を自らの成長戦略に活かしていくことと同時にこのような活動や成果を積極的に開示していくことが求められています。
環境はサステナビリティで考慮する重要な要素の一つで、2021年改訂のコーポレート・ガバナンスコードにおいて、特にプライム企業については気候関連開示の国際的枠組みであるTCFDの提言に基づいた、またはそれと同レベルの開示が求められました。(補充原則3-1 .3)TCFDでは、具体的にはガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標を開示推奨項目としています。
株主・投資家は、その情報に基づいて投資先企業の気候変動に対しての対応力を判断し、中長期の投資先としてふさわしいかを見極めることとなります。
ちなみに3月決算の会社はこれから株主総会シーズンですが、今年度は90社の株主提案がなされており過去最高の件数だそうです。その提案の中には、増配や自己株式取得など直接的な株主還元を求めるだけではなく、企業の環境対応やサステナビリティに対する戦略に関する提案も出てきています。株主・投資家にとって、環境は単なるCSR視点ではなく、企業の生き残り、成長という意味でも最大の関心事です。
とはいうものの、具体的に何をどこまで開示をすればよいのか手探りの企業も多いかと思います。この点、金融庁は、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため、「記述情報の開示の好事例集」を公表しています。
特に、「サステナビリティ情報」については、今年度より新たに開示項目として追加されることから令和5年1月31日に「記述情報の開示の好事例集2022」(サステナビリティ情報等に関する開示)を公表しています。好事例集なので先進的な取り組みを行っている会社の開示も多いですが、いわゆる超大企業だけではない事例が掲載されています。(https://www.fsa.go.jp/news/)
また、TCFD開示については、TCFDコンソーシアムからTCFDガイダンス3.0が公表されています(https://tcfd-consortium.jp/news_detail/22100501)。これは、コーポレート・ガバナンスコードの補充原則3-1 .3を元に、多くの会社がTCFD提言に基づく開示を実施する必要が生じるところ、これまでTCFDが発表しているガイダンスは、最先端の論点の記述が多くこれから開示に取り組む企業の多くにとっては、ハードルが高いという課題がありました。
この課題を踏まえて、TCFD 提言に基づく開示への取り組みの拡充途上にある企業を主な対象として、コンパクトにして読みやすさを向上させるとともに、「業種別の開示推奨項目」及び「開示事例集」が別冊にありより具体的に理解できるものとなっています。
有価証券報告書や統合報告書による開示を検討するにあたって参考になるものと思います。
なお、ビズサプリでは7月26日にサステナビリティ情報開示の最新事例分析のオンラインセミナーを実施いたします。こちらも是非ご参考ください。https://biz-suppli.com/seminar/
このように企業活動にサステナビリティの概念が加わり、それが開示されたとして地球が救われるかどうかはまた別問題のようにも思えます。経済成長を続けながら環境負荷を減らしていくことは非常に困難を伴います。例えばデンマークにある環境食品省環境保護機関の計算によると、同じエコバックを35回以上使わない限りはレジ袋より環境負荷が掛かってしまうそうです。(ちなみに、オーガニックコットンバックはなんと2万回以上利用しないと環境負荷は減らないそうです)。
色とりどりのエコバックやおしゃれなブランドのオーガニックコットンバックが様々販売されている風景はなんでも商品化していく資本主義としては当然の風景ですがなんとも皮肉なものです。企業の持続可能性と地球の持続可能性は両立するのか、誰もが考えないといけない大きな問題と言えそうです。
文:辻さちえ(公認会計士・公認不正検査士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.175 2023.6.23)より転載