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農業ベンチャー初の上場からSOMPOとのTOBへ。農業総合研究所・及川氏が語る「流通アップデート」の本質

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株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO 及川 智正  氏
株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO 及川 智正 氏

ストライク<6196>は2026年5月28日、麻布台ヒルズ(東京都港区)の「Tokyo Venture Capital Hub」で、スタートアップと事業会社の提携促進を目的としたイベント「第57回 S venture Lab.」を開催した。今回は、農業スタートアップとして初の上場を果たし、SOMPOホールディングスによるTOB(株式公開買い付け)で話題を呼んだ、株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEOの及川智正氏が登壇。理想の農業を実現するため、大企業の傘下に入ることを決断したその真意と、日本の農業流通をアップデートする壮大なビジョンを語った。

「良い作物を作っても儲からない」流通構造への問題意識

トークセッションは、及川氏のキャリア紹介から始まった。東京農業大学を卒業後、商社勤務を経て和歌山県で3年間きゅうり農家を営み、その後大阪で青果店で勤務した経歴を持つ。

「農家時代、自分が作ったきゅうりが誰に食べられているか全く見えず、消費者の声も聞こえなかったため、物足りなさを感じていた」と及川氏は振り返る。さらに、生産者と販売者の利害の不一致を体感するとともに、農業界特有の矛盾である「豊作貧乏」を痛感した。野菜が豊作になると市場に商品があふれ、供給過剰によって価格が大きく下落する。すると、たくさん出荷しても人件費のほうが多くかかり、結果として農家の利益が減ってしまう。これが農業界でいう「豊作貧乏」だ。

及川氏は、日本の農業の問題は「作れないこと(生産技術の不足)」ではなく、「必要な量を、必要な場所へ、適正価格で届ける仕組み(流通構造)」にあると考えた。そこで18年前、現金50万円で農業総合研究所を設立。「作るところから消費者の口に入るまでを総合的に変革したい」という志から、生産者がスーパーマーケットの中で自ら価格を決めて直接販売できる「都市型直売所」のプラットフォームビジネスを構築した。

株式会社農業総合研究所の「事業内容」について語る及川氏
株式会社農業総合研究所の「事業内容」について語る及川氏

既存組織からの抵抗と、事業を飛躍させた「メディア掲載」の転機

新しい取り組みを進める及川氏は、既存組織からの抵抗も受けた。地元の農業関係者からは「お前のような若造が来るから地域社会が乱れる」と面と向かって言われることもあったという。しかし、及川氏は「新しいことをやれば抵抗があるのは当たり前だ。むしろ『叩かれる杭は硬くなる』と考え、組織を強くすることができた」と語る。

事業における最大の転機は、創業3年目にメディアに取り上げられたことだった。ほぼ一人で事業を回しながら年間売上1億2000万円を達成した実績がメディアの目に留まり、大きく報道されたことで社会的な信用を獲得。これを機に、営業をせずとも農家やスーパーからの問い合わせが急増し、何より「自分もやりたい」という現在の経営陣を含めた優秀な仲間が集結する最大の契機となった。

なぜIPOの次にM&Aを選んだのか――上場の「功罪」と自己評価「60点」

その後、同社は取扱高100億円を達成し、農業ベンチャー初の上場企業として全国から大きな注目を集めた。及川氏は、企業経営において上場もM&Aも「理想の農業の世界を作り上げるための手段でしかない」と言い切る。

上場を目指した最大の目的は、地方において圧倒的に不足している優秀な人材の確保と、事業拡大のための資金調達だった。上場でブランド力を背景に狙い通りの人材が集まり、資金調達も実現した一方、及川氏の自己評価は「100点満点中60点」と冷静だ。

上場で大きな成果を得た一方、短期的な株主評価を意識せざるを得なくなり、中長期的な売上成長(トップラインの拡大)のために、大胆な先行投資を仕掛ける、といった経営判断がしにくくなった。この制約がデメリットだったという。

企業経営において上場もM&Aも「理想の農業の世界を作り上げるための手段でしかない」と語る及川氏
企業経営において上場もM&Aも「理想の農業の世界を作り上げるための手段でしかない」と語る及川氏

SOMPOとの共通認識は「生産」ではなく「流通」

流通総額1兆円という高い目標を達成するため、自力での成長には30〜40年かかると算段していた及川氏。その道のりを大幅に短縮し、より自由に資金を活用して農業の需給バランス問題を根本解決するための選択肢として選んだのが、SOMPOホールディングスによるTOBの受け入れ(グループ入り)だった。

多くの大企業から声がかかる中で、なぜSOMPOだったのか。モデレーターの松本氏がその核心に迫ると、及川氏は決め手となった「課題認識の共有」を挙げた。

「多くの大企業は『どう作るか(生産)』に注目し、自社の技術で良い作物を作ろうと参入する。しかし日本の農業は、良いものがたくさんできてみんなが貧乏になる構造だ。SOMPOさんは、農業の本質的な課題が生産ではなく『どう売るか・どう需給を合わせるか(流通)』にあると深く理解してくれた。そこに強く共感した」と明かした。さらに、フロント(交渉窓口)を担当した大企業の担当者が同年代で、驚くほど気が合いスピード感があったことも大きな要因だという。

TOB価格の決定に関しては、第三者委員会が独立して交渉を進め、納得のいく価格提示がなされたため意思決定に至った。TOBが成立してから3カ月が経過した今、人材派遣など手厚いサポートを受けながら、次の期(9月1日)からの本格的な相乗効果(シナジー)創出に向けて準備を進めている。

農業を「作る産業」から「需給を最適化する産業」へ

今後の展望として、及川氏は自社を「流通の会社」と定義する。「自分で生産を始めれば農家と競合し、自分で販売を始めればスーパーと競合してしまう。その領域には絶対に行かない。代わりに、生産そのものには参入せず、種苗、肥料、データ活用など周辺領域でのM&Aを進める。さらに、JAや卸売市場といった『本流通(既存の巨大流通網)』のインフラに直接入り込んでいく」という方針を示した。

例えば白菜は、国内の年間生産量が約88万トンある一方、実際の消費量は約41万トンにとどまる。つまり、需要を無視して作る前から供給過剰が起きている状態だ。この課題に対し、同社はプラットフォームの出口であるスーパーマーケットの購買データから逆算して需要を測り、供給をコントロールする「流通最適化」の仕組みを大企業の資本力とアセットで構築していく考えだ。

「既存の業界を破壊するのではなく、アップデートすることが大切。このままだと10年後、20年後に新鮮な野菜が買えない世の中になってしまう。働く人がしっかり稼げて豊かになれる、ビジネス化された農業界に変えていくことに大きなやりがいがある」

今の時代はチャンスに溢れた素晴らしい時代だという『良い時代認識』を持って挑んでほしい」と熱いメッセージを送る及川氏
今の時代はチャンスに溢れた素晴らしい時代だという『良い時代認識』を持って挑んでほしい」と熱いメッセージを送る及川氏

最後に、これから参入を志すスタートアップに向け、「農業は儲かりにくいマイナススタートの業界。だけど、やり方は無限にある。18年前にみかん売りから始めた会社がここまで来られた。今の時代はチャンスに溢れた素晴らしい時代だという『良い時代認識』を持って挑んでほしい」と熱いメッセージを送り、セッションを締めくくった。

第2部:先進的なアグリテックに挑むスタートアップによるピッチ

第2部のピッチセッションでは、科学技術や独自のソリューションで農業の構造的課題に挑む新進気鋭のスタートアップが登壇した。

株式会社WAKUの代表取締役CEOである姫野亮佑氏は、抗酸化物質「グルタチオン」を用いて猛暑や乾燥などの環境ストレスから作物を守る、農業用途に特化したバイオスティミュラント(植物刺激資材)の開発と拡販について発表した 。

株式会社WAKUの代表取締役CEOである姫野亮佑氏
株式会社WAKUの代表取締役CEOである姫野亮佑氏

また、株式会社NEXTAGEの取締役CAOである佐久間麻守氏は、気候変動や担い手不足で生産量が激減する日本伝統の「本わさび」を植物工場で持続的に安定生産する、コンテナ型の自動栽培ソリューションとグローバルな展開について発表した 。

株式会社NEXTAGEの取締役CAOである佐久間麻守氏
株式会社NEXTAGEの取締役CAOである佐久間麻守氏
左から株式会社ABAKAM 代表取締役 松本 直人 氏・株式会社NEXTAGE 取締役CAO 佐久間 麻守 氏・株式会社WAKU 代表取締役 CEO 姫野 亮佑 氏・株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO 及川 智正  氏
左から株式会社ABAKAM 代表取締役 松本 直人 氏・株式会社NEXTAGE 取締役CAO 佐久間 麻守 氏・株式会社WAKU 代表取締役 CEO 姫野 亮佑 氏・株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO 及川 智正 氏

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