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「過去最多」のその先へ、エミン・ユルマズ氏らとデータで読み解くM&A市場の構造変化

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写真左から、ストライクグループの荒井 邦彦代表、エコノミストのエミン・ ユルマズ氏、M&A Online副編集長 大澤 昌弘、フリーアナウンサー佐田 志歩氏

ストライクグループは4月27日、Webライブ配信でM&A Onlineセミナー「データで紐解く今後のM&A予測」を開催した。第1部では、エコノミストのエミン・ユルマズ氏、ストライクグループの荒井邦彦代表、M&A Online副編集長の大澤昌弘が登壇。上場企業のM&A件数が2025年も過去最多を更新したという事実を起点に、国内M&A市場の先行きと日本経済への影響を多面的に議論した。

過去最多の件数は、単なる記録更新ではない

今回のセミナーの出発点になったのは、上場企業のM&A件数が5年連続で過去最多を更新しているというデータだ。しかも、件数だけでなく、2025年は金額も前年から大きく膨らんだ。第1部では、この伸びを一時的な活況として眺めるのではなく、なぜここまで市場が広がったのか、何が今後の持続力になるのかを、制度・企業行動・マクロ環境の3つの視点から読み解いていった。

議論のベースとして使われたのは、『M&A年鑑 2026』(M&A Online編著、ダイヤモンド社刊)だ。M&A Onlineが2008年から蓄積してきたデータをもとに、上場企業の買収・売却やTOB、海外M&Aなどを横断的に整理したもので、登壇者たちはこのデータ基盤を土台に話を進めた。件数の増減だけでなく、本書では買収目的や買収理由が把握できる。

進行役を務めた フリーアナウンサー 佐田 志歩 氏
進行役を務めた フリーアナウンサー 佐田 志歩 氏

フリーアナウンサーの佐田 志歩氏の進行で展開された第1部は、件数データを起点にしながら、マクロ視点でM&A市場の動きを捉え直していく構成となった。単なる記録更新にとどまらず、いま起きている変化をどう読むべきかという問題意識がセッション全体を貫いていた点が印象に残った。

「お金が動く社会」への転換がM&Aを押し上げる

エコノミストのエミン・ユルマズ氏は、M&A市場の拡大を資本市場全体の変化と結びつけて説明した。エミン氏の言葉を借りれば、日本はようやく「お金が動く社会」になってきたということになる。

エミン・ユルマズ氏
エコノミストのエミン・ユルマズ氏

株主価値や資本効率を意識して資金を動かす時代へ。エミン氏は、こうした流れの中で企業が「動かざるを得ない」環境になっていると述べ、現在を「M&Aの黄金時代」と位置づけた。かつてはM&A提案自体を企業側が敬遠することも多かったが、今では市場や株主、東証からの圧力もあり、企業側の受け止め方が大きく変わっているという。

この視点は、M&Aを単なる企業売買ではなく、資本が適切に再配置されるプロセスとして捉えるものでもあった。企業価値向上の手段としてM&Aをどう使うかが、いまや一部の大企業だけの論点ではなくなっていることが伝わる内容だった。

件数増加の背景にあるのは「環境」と「意識」の変化

M&A Online副編集長の大澤は、2025年までのM&Aを長期データから説明した。増加要因として挙げたのは大きくは2つ。ひとつは環境整備、もうひとつは経営者の意識変化だ。

M&A Online副編集長 大澤 昌弘
M&A Online副編集長 大澤 昌弘

環境面では、低金利が長く続いたことに加え、事業承継問題の広がりを背景にM&A仲介事業者が増え、案件化のインフラが整ってきたことが大きいという。さらに制度面では、2014年以降のスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの浸透に加え、2023年の東証による「資本コストや株価を意識した経営」の要請が転機になったと整理した。

PBR1倍割れの改善や企業価値向上への圧力が強まり、企業が事業ポートフォリオの見直しを避けにくくなっているとも指摘。M&A件数の増加は、景気循環だけで説明できるものではなく、日本企業の経営行動そのものが変わり始めた結果として見るべきだというわけだ。

東証改革が買い手と売り手の双方を動かし始めた

荒井氏は、M&Aを支援するストライクグループを率いる実務の最前線という立場から、市場感として足元で「売り買い双方の相談がかなり増えている」と語った。特に影響が大きいのが東証改革だという。荒井氏は、いわゆる「グロース100億円問題」に触れ、時価総額100億円を下回るグロース市場上場企業が相当数存在している現状を挙げた。その一部は上場維持のために、買い手としてM&Aを活用し、規模拡大や時価総額向上を目指そうとしているという。

エミン氏とM&A市場について語る 株式会社ストライクグループ 代表取締役社長 荒井 邦彦 氏
エミン氏とM&A市場について語る荒井氏

この指摘は、非上場企業の側から見ても示唆に富む。従来、上場企業による買収といえば大型案件や周辺事業の補完が目立ったが、今後は成長を急ぐ上場企業が、非上場企業を取り込む動きがより活発になる可能性があるからだ。荒井氏は、こうした企業が買い手になる局面では、売却を考える非上場企業にとっても「非常に良いチャンス」が来るとの見方を示した。

さらに終盤では、年間2〜3社の買収が一般的だった日本企業の中から、年間10社以上を継続的に買う企業が出てきたことにも言及した。ロールアップ型の成長戦略が現実のものとして広がり始めていることは、日本のM&A市場が次のフェーズに入ったことを感じさせる。

高止まりするプレミアム、鮮明になる売り手市場

セッションでは、足元のバリュエーション環境についても踏み込んだ議論があった。荒井氏によれば、上場企業が売却対象になる際には、市場株価に一定のプレミアムが乗るのが一般的で、10%、30%、場合によっては50%超となるケースもある。過去には300%超のプレミアムが付いた事案もあったという。

従来は、株価が低い局面ほどプレミアムが高く、株価が高い局面ではプレミアムが低くなることで、M&A価格はある程度均される傾向があった。だが荒井氏は、ここ2〜3年でその関係が崩れ、株価が高いにもかかわらずプレミアムも高止まりしていると指摘した。買い手が競り合い、価格を押し上げる事例も見られるという。

エミン氏もこの見方に同意し、売り手にとっては今がかなり好条件の市場だと整理した。一方で、来年さらに高く売れるかは分からないとも述べ、市場タイミングの読み切りは難しいとくぎを刺した。

ロボティクスとフィジカルAIが次のM&Aテーマに浮上

2025年のM&Aランキングから今後のテーマを探る場面では、エミン氏がソフトバンクによるABBロボティクス事業の取得に注目した。半導体設計のArmを擁するソフトバンクが、AIの「頭脳」だけでなくロボットの領域まで射程に入れ、垂直統合を進めようとしているのではないかという見立てだ。

大澤はこの動きを、Androidのようなプラットフォーム戦略になぞらえた。フィジカルAIの領域は、スマートフォンよりも対象産業が広い。もしプラットフォームを握る企業が現れれば、その収益機会は非常に大きくなる可能性があるというわけだ。

M&Aの市場感について大澤氏(手前)に語るエミン氏(奥)
M&Aの市場感について大澤(手前)に語るエミン氏(奥)

荒井氏も、日本企業の強みとしてロボット技術や、特定部品で高い世界シェアを持つ「隠れた優良企業」に言及した。一般には知られていなくても、サプライチェーンの重要部品を握る企業は多い。そうした企業群が今後のM&A対象として注目される可能性はありそうだ。

M&Aは、企業価値向上のための「経営の標準装備」へ

セッション終盤、荒井氏は、継続的な買収で成長する企業が日本でも増えつつあることを「明るい兆し」と表現した。エミン氏も、買い手として成長を狙う企業だけでなく、コア事業への集中を進めるために一部事業を売却する企業にとっても、今の市場環境は活用余地が大きいと語った。

笑顔で語り合う エミン氏(左)荒井氏(右)
笑顔で語り合う エミン氏(左)荒井氏(右)

さらにエミン氏は、GoogleによるYouTube買収や、FacebookによるInstagram買収を引き合いに出し、企業の非連続成長におけるM&Aの重要性を強調した。オーガニック成長だけでなく、適切なタイミングでの戦略的買収が企業価値を大きく押し上げる。だからこそ本来は、すべての企業がM&Aを検討する専門機能を持つべきだという問題提起にもつながった。

今回の第1部で浮かび上がったのは、M&Aがもはや一部企業だけの特別なイベントではなく、資本効率、事業ポートフォリオ、成長戦略を考えるうえでの標準的な経営手段になりつつあるという現実だ。過去最多という数字の背景には、制度改革、市場圧力、企業意識の変化、そして新しい産業テーマの台頭が折り重なっている。データから始まったこのセッションは、M&A市場の熱気を伝えるだけでなく、その熱がどこから生まれ、どこへ向かおうとしているのかを示した。

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