ーファミリービジネスならではの課題もありそうですね。
昨年12月に事業承継のある学会で「事業の承継と人的資本の一体化」をテーマにお話しさせていただきました。後継者問題が叫ばれて久しく、M&Aを活用した第三者承継の道も開けています。その一方で、人の承継には課題が残っていると感じています。日本では同族企業というと、保守的で時化た古臭いイメージが想起されますが、海外に目を向けるとコロナ禍で勝ち残った企業の多くがファミリービジネスだったという研究結果が発表されるなど、世界的にも再評価されています。
代々続く老舗企業は殊更、地域特有の文化を継承し続けて欲しいという地元の期待に応えることが求められています。日本では中小企業を中心とする事業承継の分野の学術研究は盛んですが、ファミリービジネスの承継についてはまだ未発展です。「経営者の妻をどう選ぶかが大事である」とか、そんなシンプルなことが学会の研究テーマになっているのかと今更ながら驚きました。
ー印象に残るケースはありますか。
特定の話だと守秘義務があるのでお話しできないのですが、最近の傾向として、ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得するなど意欲的な若い方々が、人生の取り組みの一つとして、職場や身近な関係から結婚する道ではなく、お見合いで選択肢を広げたいと考えているように思います。
たまたま跡取りに継ぐ気持ちがなかっただけで、本当は廃業しなくてもいい会社、畳んでしまったらもったいない会社が国内にはたくさんあります。こうした会社に自分の持っている力を役立てたいと考える若い世代が増えています。お婿さんを探しているけれど、無理なら(娘の)私が社長をやりますという方もいます。
ー起業のための買収ならぬ、起業のための結婚という側面もありますね。
あるカップルですが、お見合いの場で家業の話をずっとしているのです。最終的には二人で経営の役割分担まで決めて、ご両親に結婚の承諾を得たというケースもあります。
ー今後の展開は。
結婚相談所として一般的な縁結びもしていますが、「事業承継婚」をもっと加速させていきたいと考えています。ゆくゆくはこの活動が事業承継支援の対策費に含まれるようになってほしいです。
また、経営者妻スクールを定期的に開催しているのですが、そこでM&Aの勉強会をしたいと考えています。言うまでもなく、M&Aはファミリービジネスにとっても自社の発展や成長の手段となり得ます。私たちにM&Aの知識があれば、いざという時、夫の決断を後押しするセカンドオピニオンとして役に立つのではないかと思っています。
◎村田 弘子さん(むらた・ひろこ)
しあわせ相談倶楽部代表。神奈川県藤沢市生まれ。東京女子大学卒。和光勤務を経て村田会計事務所の2代目に嫁ぐ。ファミリービジネスの事業承継や結婚のコンサルティングに携わり、日本相続士協会などでセミナー講師も活発にこなす。著書に「事業承継結婚という家族戦略」(ラーニングス刊)。
聞き手・文:M&A Online 松本ひでみ編集委員
中小企業の思い切った業態転換や新事業への進出を支援する「事業再構築補助金」。東京商工リサーチの調査によると、採択企業6万社のうち、昨年12月末までに63社(0.12%)が倒産していた。