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日本サッカーの成長戦略:ビジネス視点から見る未来の可能性

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サッカービジネスを取り巻く環境に新たな潮流が生まれています。有望な選手獲得のためには年俸だけでなく「サポート体制の充実」も重要視されるようになり、また移籍金ビジネスや高校サッカーのビジネス化なども注目されています。今回はデロイト トーマツで元サッカー選手の鈴木伸貴とスポーツビジネスグループの小谷哲也が「サッカー × ビジネス」をテーマに対談を行いました。 (聞き手:編集部 川端)

サポート体制の充実も所属クラブ選びのポイント


―サッカー選手が所属クラブを選ぶ際、どのようなポイントが重視されるのでしょうか?

 小谷:サッカー選手が所属クラブを選ぶ際の選定ポイントの一つとして、食環境やクラブハウス環境などを含めた「サポート体制の充実」が重視されている印象です。

 鈴木:おっしゃる通りです。もちろん、自分がどれほどチームに求められているかの指標としての「年俸」や「出場機会」は変わらず重要である一方で、サポート体制の充実度を重視する選手は多くなっています。具体的には、食堂やジム、お風呂の有無、食事管理体制の充実などクラブの施設や環境を気にする選手は少なくありません。

 ―Jリーグのスカウトは自由競争が前提だと思いますが、クラブ側もサポート体制の整備に力を入れているのでしょうか?

 小谷:その通りです。ドラフト制度を採用するプロ野球と異なり、Jリーグのスカウトは完全自由競争です。だからこそ、他クラブとの差別化要素の一つとしてサポート体制の整備を図るインセンティブが強いのでしょう。

 鈴木:そうですね。例えば資金力が必ずしも豊富ではないクラブでも最近では、お弁当は支給していますね。スカウトする側のクラブも食環境やトレーニング環境などを整備する意欲は高いと感じています。

伸び代の大きい日本サッカーの移籍金ビジネス

―クラブ経営において、サポート体制の充実が求められる背景には、どのような要因があるのでしょうか?

 小谷:クラブ経営を取り巻く環境も、サポート体制の充実を促す方向に変化していると思います。実は、2024年度よりJリーグは「移籍金収入」をクラブ経営の開示項目として追加しました。これは「移籍金収入を重視する」というJリーグの姿勢の表れではないかと推測できます。すると、クラブは将来大きな価値を生み出す可能性のある選手を早期にスカウトして育成する必要がありますが、そのためには金銭面だけでなく「食事面のサポート」や「整備された練習環境」などを選手に積極的にアピールする必要がありますね。

 鈴木:おっしゃる通りです。また「選手を適切に評価して正しい市場価値(=移籍金)を提示できるクラブ担当者やエージェントが、日本ではまだ多くない」という背景も、スカウトと育成の重要度を押し上げる要因になるかと思います。

 ―海外クラブと比較すると、Jリーグの移籍金収入にはどれくらいの差があるのでしょうか?

 小谷:J1クラブの2024年度移籍金収入は1クラブあたり平均約4億円 です。一方、Jリーグが目指す売上200億円規模の海外クラブの移籍金は桁が違います。例えばスコットランドの「セルティックFC」の移籍金収入は30億円程度、オランダの「アヤックス・アムステルダム」も120億円程度です。セルティックやアヤックスは5大リーグに選手を送り込むリーグという側面はあるものの、それらのクラブと比べてJリーグの移籍金収入はまだまだ低く、日本サッカーの移籍金ビジネスの伸び代は大きいと考えています。

 高校サッカーのビジネス化の動きに注目

―元プロサッカー選手の視点から、注目しているサッカービジネスのトレンドはありますか?

鈴木:海外クラブのトライアウトを支援するエージェントビジネスの需要はより増していくのではないでしょうか。プロを目指す日本選手が増えている一方、日本のJリーグクラブの数は「60クラブ」と狭き門だからです。肌感覚ですが、「プロになりたいから日本のクラブだけでなく、海外クラブも視野に入れている」という選手は増えていると思います。とくに近年は、高校生や大学生が海外へトライアウトに挑戦するケースがよく見受けられますね。

 小谷:日本サッカーのグローバル化も背景にあるのでしょうね。

 鈴木:そうですね。そのほか「高校サッカーのビジネス化」の動きにも注目しています。少子化を背景にサッカー人口の絶対数の減少が懸念される中、高校サッカー部としては一定の活動費用を集めなければなりません。そこでJリーグの地域密着経営のようなイメージで、地域に根ざした取り組みを通じて、活動資金を稼ぐモデルが生まれてくるのではないでしょうか。

アスリートのセカンドキャリア問題”のキーワードは「アントレプレナーシップ」

 ―「アスリートのセカンドキャリア問題」についても多く議論されていますが、どのような視点でこの問題を見ていますか?

 鈴木:私はサッカー選手を含むスポーツ選手の強みは「アントレプレナーシップ」だと考えています。アントレプレナーシップとは、簡単に言うと「物事の問題・課題を先取的に発見し、その解決策を見出し実行する力」ですね。「起業家精神」とも訳されます。

現在もまだ企業からは「スポーツしかやってこなかった」と捉えられかねないスポーツ選手ですが、スポーツ選手が持つアントレプレナーシップの活かし方のメソッドが確立してくれば、そのような企業の捉え方も変わることでしょう。その結果、スポーツ選手からビジネスマンへのキャリアチェンジがより一般化していくと思います。それはひいてはスポーツの価値向上にもつながっていくのではないでしょうか。

 小谷:アントレプレナーシップを活かすメソッドの確立は、人手不足の解消にもつながりますね。

 鈴木:世に言う人手不足は「人手の数がいないのではなく、欲しい人手がいない」という側面もあると思いますが、企業が欲しいと思う人材の一つが「アントレプレナーシップを持つ人材」ではないでしょうか。その意味でも、おっしゃる通りメソッドの確立は人手不足解消に寄与するものと考えます。

 ―ちなみに、サッカー選手には特にアントレプレナーシップを持つ人が多いと聞きますが、それはなぜだと思いますか?

 鈴木:仮にそうだとすれば、サッカーはその瞬間・瞬間の判断と実行が求められるスポーツだからかもしれません。「パスかドリブルかシュートか」「走るのか止まっておくのか」「誰にどんな指示を出すのか」などの判断を一瞬のうちに行い、自身の責任のもとで実行に移します。そうした判断と行動の積み重ねが、アントレプレナーシップの醸成につながっているのかもしれませんね。ただ、繰り返しにはなりますが、どのスポーツであっても多くのスポーツ選手は一定のアントレプレナーシップを持っていると思います。それがゆえに、ビジネスのフィールドでも戦っていけるのです。

一方で、文字通り、学生時代から「スポーツしかやってこなかった」スポーツ選手については、選手を引退してから1からビジネスを学ぼうと思っても厳しい現実が待ち受けていることも多く、それが現在の「セカンドキャリア問題」の根本課題となっています。この根本課題を解決していくための仕組みづくりも重要であると考えています。

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