転職判断に際して、最もよくないのは「このままでは、会社が危ないのではないか、待遇が悪くなるのではないか」といった漠然とした不安から転職を決めることだという。弓代表は転職で失敗しがちな人の傾向を次のように説明する。
「なんとなくマズイな、という周囲の雰囲気に流されて、真っ先に条件のよいと言われる会社に転職する人は、うまくいかない傾向があります。同時に、転職で失敗する人は自分のキャリアは会社がどうにかしてくれる、とどこが他人任せの傾向があると思います」。
逆に、転職でうまくいく人の傾向はどのようなものだろうか。「M&Aという社内環境の変化を、よい『きっかけ』と捉えている人は、その後のキャリアも順調なことが多いと感じます。例えばM&Aを機会に独立したり、やりたいことにチャレンジする人などです。前提として仕事観や人生観がしっかりあり、人生を自分の責任で歩んでいるということです」(弓代表)。
つまり、自分自身の価値観を軸にした仕事観を持ち、条件に流されずに転職するのであればよいが、雰囲気に流されたり隣の芝生が青く見えて、転職する人は失敗しがちだということらしい。
さらに弓代表は、企業名や役職といった外部から見た「外的キャリア」とは別に、自分の価値観によって捉えるキャリアを「内的キャリア」として、転職判断の際に見つめ直すことを勧める。
「『内的キャリア』を軸にキャリアを考えるほうが仕事へのモチベーションが維持しやすいはずです。『外的キャリア』にばかり目を奪われていると、自分が満足する本当のキャリア形成にはつながらないケースも多いのです。転職すると一見、外的キャリアがアップするように見えますが、本当に自身が望むキャリアなのか、周囲の変化にさらされた時こそ、改めて考えてみる必要があります」。
これらのアドバイスは、M&Aだけでなく、転職に迷っているという人にも共通のものとなりそうだ。なんとなくこのまままではマズいという漠然とした不安感や、条件面の優劣のみで転職を考えている人は、もう1度踏みとどまって、自分の仕事観や人生観を整理してみるのもよいかもしれない。
次回は、M&Aで起こりがちな、新会社における旧組織間の対立についての処方箋をお届けする。
取材・文:M&A Online編集部