【キャリア危機への処方箋(1)】M&Aで社内は大混乱。賢いビジネスパーソンは転職すべき?

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自社が買収/合併されるらしい―。この重大な局面で従業員はどのように行動すればよいのだろうか。
企業における従業員のキャリア相談から法人向け研修まで幅広く活動するキャリアバランスの弓ちひろ代表と、自身も会社員としてM&Aに直面した経験をもつ、同社取締役の赤堀吉昭氏に話を伺った。第1回は社内が混乱している際の転職判断についてお伝えする。

リストラ宣告や元同僚からのヘッドハンティングで
社内は騒然

M&Aが実施された場合、従業員は予期せぬ変化に見舞われることもある。合理化によるリストラや出向などがその最たるものだ。大手商社へ新卒入社して3年目に自社が同業他社と合併し会社名も全てが新しくなるという経験をもつ

赤堀氏は、当時の社内の様子をこう振り返る。

「早期退職や子会社への出向を促される人、その前に辞めていく人もいました。会社に直接、外資企業からヘッドハンティングの電話がかかってくることもあったうえ、その話に乗った人からの転職の誘いもありました。並行して新会社も新規採用を行うなど、明らかに社内は騒然としていましたね」。

M&Aが実施されるとなると、このほかにも勤務地の移動、勤務条件や評価軸の変更など、従業員はさまざまな環境の変化に直面することになる。このような状況に陥ると、今、自身がリストラや出向を促されたわけではなくても、「自分も動いた方がいいだろうか?」と、身の振り方を考える方も多いだろう。そのときに道を誤らないためにはどうすればいいのだろうか。弓代表は次のようにアドバイスする。

自分だけの「仕事観と人生観」で転職を判断せよ

「会社の状況が変化しても動じないために、『仕事観と人生観』を日頃から整理しておくことが重要です。つまりどのような人生を歩みたいか、その人生の中でどのような仕事をしたいか、といったことです。なぜ仕事をするか、というと経済的なこと、つまりお金のため、ということが最初に出てきますが、それだけではないはずです。仕事を通して人の役に立つことに喜びを見いだすことはもちろん、自身の成長や存在意義を実感することもあるでしょう」。

このような仕事観や人生観の確立は、就職活動の際に「自己分析」として行うケースも多いが、社会人になってから改めて向き合うことこそが大切なのだという。

会社からの評価だけではなく、仕事に対する自分自身の「軸」を持つことで、そもそも転職すべき状況なのか、もし転職するとなったら、どのような転職先がよいのか、といった判断材料にもなるからだ。

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漠然とした不安で動くのはNG。転職でうまくいくパターンとは?

転職判断に際して、最もよくないのは「このままでは、会社が危ないのではないか、待遇が悪くなるのではないか」といった漠然とした不安から転職を決めることだという。弓代表は転職で失敗しがちな人の傾向を次のように説明する。

「なんとなくマズイな、という周囲の雰囲気に流されて、真っ先に条件のよいと言われる会社に転職する人は、うまくいかない傾向があります。同時に、転職で失敗する人は自分のキャリアは会社がどうにかしてくれる、とどこが他人任せの傾向があると思います」。

逆に、転職でうまくいく人の傾向はどのようなものだろうか。「M&Aという社内環境の変化を、よい『きっかけ』と捉えている人は、その後のキャリアも順調なことが多いと感じます。例えばM&Aを機会に独立したり、やりたいことにチャレンジする人などです。前提として仕事観や人生観がしっかりあり、人生を自分の責任で歩んでいるということです」(弓代表)。

つまり、自分自身の価値観を軸にした仕事観を持ち、条件に流されずに転職するのであればよいが、雰囲気に流されたり隣の芝生が青く見えて、転職する人は失敗しがちだということらしい。

真の満足を得るためには「外的キャリア」にとらわれるな

さらに弓代表は、企業名や役職といった外部から見た「外的キャリア」とは別に、自分の価値観によって捉えるキャリアを「内的キャリア」として、転職判断の際に見つめ直すことを勧める。

「『内的キャリア』を軸にキャリアを考えるほうが仕事へのモチベーションが維持しやすいはずです。『外的キャリア』にばかり目を奪われていると、自分が満足する本当のキャリア形成にはつながらないケースも多いのです。転職すると一見、外的キャリアがアップするように見えますが、本当に自身が望むキャリアなのか、周囲の変化にさらされた時こそ、改めて考えてみる必要があります」。

これらのアドバイスは、M&Aだけでなく、転職に迷っているという人にも共通のものとなりそうだ。なんとなくこのまままではマズいという漠然とした不安感や、条件面の優劣のみで転職を考えている人は、もう1度踏みとどまって、自分の仕事観や人生観を整理してみるのもよいかもしれない。

次回は、M&Aで起こりがちな、新会社における旧組織間の対立についての処方箋をお届けする。

取材・文:M&A Online編集部

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