岡山にある駄菓子と玩具の卸売店、小売販売店「みやけがんぐ」は1917年創業。店内には所狭しと子どもが喜ぶようなお菓子やおもちゃ、大人の方も思わず「なつかしい!」と感じる昔なつかしの駄菓子が並べられています。
もともと「三宅玩具」の名で100年以上続いていましたが、前オーナーである3代目の三宅さんがご高齢を理由に引退。現在はバルーンドレス&バルーンフラワーギフトを提供する「WHEE!」代表の小田弥生さんが後を継ぎ、再スタートをきりました。
100年続く駄菓子屋を引き継いだものの、コロナ禍の影響で売上が減少。順風満帆な状況ではない中、お店を続けるために小田さんが取り組んでいることを伺いました。
前オーナーの三宅さんと小田さんとの出会いは、イベント関係者からの紹介でした。小田さんは2003年ごろからバルーンパフォーマーとして活躍されており、岡山市やイベント会社の主催するイベントで頻繁にパフォーマンスをされていました。
一方で前オーナーの三宅さんも、子どもの集まるイベントでお菓子やおもちゃを出しており、去年、小田さんの元に事業承継の話が届いたのです。
小田さん「三宅さんはご高齢になり、後継もいないので店を畳もうかと悩まれていました。しかし、これまで100年以上続いてきたお店だけあり、取引先も多数抱えています。イベント関係者の間で『なんとか三宅さんのお店を残したい』という話になり、私に依頼が来ました。
ちょうど私も、子育てが終わり自分自身のキャリアを見つめ直すタイミングでした。バルーンパフォーマー1本でこの先やっていくのは心許ないですし、だからといって風船を売る仕事をしたいわけでもない。
新型コロナウイルスの影響でイベントができないこともあり『これはよいチャンスかもしれない』と思って後を継ぐことを決意しました。もともとバルーンパフォーマーとしての活動と、みやけがんぐに同じクライアントが多く、三宅さんは満面の笑みで 『いやー!嬉しい!!』と安心して引き継ぎを承諾してくださいました」
小田さんの手によって引き継がれた新しいみやけがんぐは、2021年1月12日より新住所でリスタート。前オーナーの三宅さんは、取引先1件1件ていねいに事情を説明し、引継ぎ作業を行ってくれました。どの取引先も、担当変更を嫌がるどころか「引き継いでくれてありがとう」という言葉をかけてくれました。
小田さん「三宅さんは取引先の問屋さんとの決め事や発注ルールなどを特に細かく教えてくださりました。というのも、もう何十年も同じ方法で仕事している会社も多く、長年かけて築いたその信頼を守っていく必要があるからです。担当が変わっても安心して仕事を任せていただけるよう、1件ずつの特徴をしっかり学びました。
実際に仕事をして驚いたのは、想像以上にアナログな部分が多いこと。今でも納品書や請求書が手書きでファックスや郵送されるところがほとんどです。将来的にそれらの作業をデジタルにできればよいなと思っていましたが、駄菓子は単価が低く数が多いほか、取引先によって掛け率も異なるため、アナログ管理が一番やりやすいことに気づきました(笑)」
既存の取引先は多数あるものの、コロナ禍によって発注数は減少。継承後もその状況は変わっていません。特に駄菓子やおもちゃの場合、種類を先に揃えなければ発注してもらいにくい側面があります。そのため、先行投資をしても回収までに時間がかかってしまうのです。そのため、継承後の数ヶ月は赤字が続きました。
小田さん「駄菓子はびっくりするくらい薄利です。そのため大量発注が大切になってくるのですが、今はイベントなどもほとんどできていないため、本当に厳しい状態が続いています。生活をすることももちろんですが、何よりもこのお店を残さなければならない、そのためにいろんなことに取り組んでいます」
小田さんが新たなチャレンジとして始められたのは、小学校区に一つ駄菓子屋さんを作る「駄菓子屋参上!プロジェクト」。年々減少してしまっている駄菓子屋さんを少しでも増やしたり、残したりすることで、子どもも大人も笑顔にしたいという思いで考案しました。
小田さん「あるイベント会場で駄菓子を販売していたときに、子どもが100円を握りしめていろんなお菓子を見つめながら『うーん』と悩んでいて、『うわあ、懐かしいなこの感じ』と思ったんです。昔は子どもが一人で行っても安心な駄菓子屋さんが家の近くにたくさんありましたし、店先でおじいちゃんやおばあちゃんと話したり、決まったお金の中でどのお菓子を買うか悩んだりしましたよね。
私はあの子どもを見て、たかがお菓子選びでも、小さい時から自分で考えて行動する経験はすごく大切なのではないかと気づきました。『駄菓子屋参上!プロジェクト』は美容室や道の駅などすでにある店舗にお菓子を卸すことで今抱えている在庫を少しでも減らすことだけではなく、自分で考えて行動する子どもを増やすことを目的としています」
儲けを目的としない、子どもが好き、ときに子どもに叱れる、など条件を満たしたお店に駄菓子を卸しており、始めて3ヶ月で6店舗という好調なスタートを切っています。
小田さん「駄菓子の魅力は、コミュニケーションが生まれるところだと思っています。駄菓子屋さんって、『このお菓子おいしいの?』『うわ、これ懐かしい!』なんて、知らない人とでも会話しやすいんですよね。スーパーやコンビニではまずそんな会話しないじゃないですか(笑)。だから最近は駄菓子バーなども増えているんだと思います。
『駄菓子屋参上!プロジェクト』では定年退職した元気なおじいちゃんなども参加してくださっていて、小さな子どもと話せる機会が増えたと喜んでくれていますし、地域のコミュニケーションの輪をもっと増やしていきたいと思います」
さらに、まとまった数の駄菓子販売のため、今後は企業への販売なども検討。月に2000円など、要望に合わせて駄菓子の積み合わせを発送し、オフィスで楽しんでもらいたいと考えています。月額コースや定期コースなどで、定期的な販売先を開拓していく予定です。
みやけがんぐのこれからの展望について、小田さんは「お店の存続」を第一に考えていると言います。
小田さん「まず何よりも大切なのは、経営がどんなに大変でもお店を守っていくことです。これまで三宅さんが続けてきたお店を、私の代で絶やすことなくバトンを繋ぐ。これが私の使命だと思っています。
もちろん、食べていくことだけ考えるならアルバイトをすればよいのかもしれませんが、そんなことをしても現状は変わりません。子どものため、地域のため、そしてメーカーのため、動き続けることが結果として数字で返ってくると信じています」
事業承継をやってよかったと話される小田さん。そう思えるのは、数えきれない数の多くの人からの「引き継いでくれてありがとう」という言葉があったからだそう。それだけ多くの人に愛されるお店を守る小田さんの新たな挑戦に期待です。