のっけから、「MBS(モーゲージ債/Mortgage Backed Security)」「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ/Credit Default Swap)」といった金融用語が次々と出てくるので、ストーリーについていくのが大変かと思いきや、金融や経済に疎い観客を考慮した演出がなされている。一般的に聞きなれない金融用語が出てくると、実在のセレブリティたちが本人役として登場し、観客に向かって各用語を分かりやすく解説してくれるのだ。
例えば、MBSについては女優のマーゴット・ロビー(映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の主人公のセクシーな後妻役を演じた女優。金はやはり美女を引き寄せるのか!?)がラグジュアリーなバブルバスにつかりながら解説したり、有名シェフのアンソニー・ボーディンがCDO(債務担保証券/Collateralized Debt Obligation)を古くなった魚になぞらえたりと、見ている側は飽きることなく、理解を深めることができる。コメディ映画が得意な監督ならではのポップでユーモアを交えた演出だ。
もともとは政府保証付きのAAAの住宅ローン債権をまとめて証券化したMBS(モーゲージ債)。ところが、MBSの中身がAAAのローン債権だけではなくなっていく。政府保証なしのB、BBといったリスキーな住宅ローンも織り交ぜた「トランシェ構造」(リスクや利回り別など特定の条件で切り分けた構造)となっていた。当時、MBSの65%がAAAと言われていたが、それは全くの嘘で、その実態は95%が低所得者向けのサブプライム・ローンという状態。このサブプライム・ローンの貸付がもはや審査なしで横行していたというから、MBSはとんだ金融商品と化していたのだ。さらに銀行は、売れ残ったBランクのMBSをパッケージし直して、世界的経済破綻の元凶であるCDO(債務担保証券)という形で売り続けた。このからくりについては、ライアン・ゴズリング演じる銀行マン、ジャレド・ベネットによるジェンガのような積み木を使った解説が非常に分かりやすくなっているので必見だ。
結局、MBS、そしてCDOを取り巻く全体像に目を向けた人がいなかった、真の意味で理解しようとしなかったことがこの大惨事の原因なのではないだろうか。映画冒頭のマーク・トウェインの言葉「厄介なのは知らないことじゃない。知らないのに知ってると思い込むことだ」が胸に刺さる。
銀行、住宅ローンの仲介業者らが各々の業務範囲、舞台上だけで利益を追求することで、資本主義のほころびが出たともいえる。それでも恐ろしいことに、映画の終わりは大手銀行がハイリスクなデリバティブ商品を新たに売り出したという字幕で締めくくられる。ブルームバーグによれば、「CDO」の看板を「Bespoke Tranche Opportunity」に変えただけの商品とのことだが、新たな経済危機の火種にならないことを願う。
文:M&A Online編集部