経済や金融業界のリアルな姿を垣間見たいのなら、映画がおすすめ! 特に本を読むのが苦手な人や異業種で働く人には、映像で見るのは分かりやすく、2時間程度なので手っ取り早い。実話をベースにした作品もあるので、世の中の経済事件を理解するのにも一役買ってくれる。多少専門用語も出てくるものもあるが、映画をきっかけに勉強してみるのもおすすめだ。エンターテインメントとしても楽しめる、おすすめの1本を紹介する。
マイケル・ルイスによるノンフィクション「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」が原作。いわゆる「リーマン・ショック」の背景にあった問題をウォール街のアウトローたちの視点で描いた。コメディ映画で知られるアダム・マッケイ監督が手掛けただけに、世界的金融危機が題材ではあるが、分かりやすくかみ砕かれている。アカデミー賞脚色賞受賞。
住宅バブル真っただ中のアメリカ。「住宅市場は安定」という神話の下、住宅ローン債権の金融商品が次から次へと売られていた。そんな中、ヘビメタ好きの変わり者トレーダー、マイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)は、返済の見込みが低い住宅ローンを含むサブプライム・ローンが数年のうちに債務不履行に陥る可能性があることに気付き、住宅ローン担保証券(MBS)を空売りしようと画策する。そして同じようにこの住宅バブル崩壊の兆しを察知した銀行家ジャレド・ベネット(ライアン・ゴズリング)やヘッジファンド・マネージャーのマーク・バウム(スティーブ・カレル)、若き投資家らも独自の調査を進めながら、住宅バブル崩壊を確信し、ウォール街を出し抜く大きな勝負へと打って出る。
のっけから、「MBS(モーゲージ債/Mortgage Backed Security)」「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ/Credit Default Swap)」といった金融用語が次々と出てくるので、ストーリーについていくのが大変かと思いきや、金融や経済に疎い観客を考慮した演出がなされている。一般的に聞きなれない金融用語が出てくると、実在のセレブリティたちが本人役として登場し、観客に向かって各用語を分かりやすく解説してくれるのだ。
例えば、MBSについては女優のマーゴット・ロビー(映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の主人公のセクシーな後妻役を演じた女優。金はやはり美女を引き寄せるのか!?)がラグジュアリーなバブルバスにつかりながら解説したり、有名シェフのアンソニー・ボーディンがCDO(債務担保証券/Collateralized Debt Obligation)を古くなった魚になぞらえたりと、見ている側は飽きることなく、理解を深めることができる。コメディ映画が得意な監督ならではのポップでユーモアを交えた演出だ。
もともとは政府保証付きのAAAの住宅ローン債権をまとめて証券化したMBS(モーゲージ債)。ところが、MBSの中身がAAAのローン債権だけではなくなっていく。政府保証なしのB、BBといったリスキーな住宅ローンも織り交ぜた「トランシェ構造」(リスクや利回り別など特定の条件で切り分けた構造)となっていた。当時、MBSの65%がAAAと言われていたが、それは全くの嘘で、その実態は95%が低所得者向けのサブプライム・ローンという状態。このサブプライム・ローンの貸付がもはや審査なしで横行していたというから、MBSはとんだ金融商品と化していたのだ。さらに銀行は、売れ残ったBランクのMBSをパッケージし直して、世界的経済破綻の元凶であるCDO(債務担保証券)という形で売り続けた。このからくりについては、ライアン・ゴズリング演じる銀行マン、ジャレド・ベネットによるジェンガのような積み木を使った解説が非常に分かりやすくなっているので必見だ。
結局、MBS、そしてCDOを取り巻く全体像に目を向けた人がいなかった、真の意味で理解しようとしなかったことがこの大惨事の原因なのではないだろうか。映画冒頭のマーク・トウェインの言葉「厄介なのは知らないことじゃない。知らないのに知ってると思い込むことだ」が胸に刺さる。
銀行、住宅ローンの仲介業者らが各々の業務範囲、舞台上だけで利益を追求することで、資本主義のほころびが出たともいえる。それでも恐ろしいことに、映画の終わりは大手銀行がハイリスクなデリバティブ商品を新たに売り出したという字幕で締めくくられる。ブルームバーグによれば、「CDO」の看板を「Bespoke Tranche Opportunity」に変えただけの商品とのことだが、新たな経済危機の火種にならないことを願う。
文:M&A Online編集部