M&Aが成立し、経営する会社の株式全部を5億円で譲渡しようとしています。株式のうち2割は親戚が持っていますが、買い手の要望で株を集約することになりました。親戚には5000万円で売却してもらうことになり、次のように株式の取得価額はバラバラの状態です。できるだけ税金を抑えたいと考えているのですが、どうすれば良いのでしょうか?(相談者:オーナー社長・70歳)
回答者:税理士・畑中孝介
【株の持ち分と、取得価額】
・社長:株の持ち分=80%、取得価額=800万円
・親戚::株の持ち分=20%、取得価額(社長への売却価格)=5000万円
みなし取得価額+取引日またぎの合わせワザを使う方法があります。
できるだけ税金を安くしたい、ということは、取得価額が高ければ高いほど都合が良いことになります。譲渡所得税の課税対象(譲渡所得)は「譲渡価額-取得価額」だからです。
そこでまず、「みなし取得価額」はいくらか計算してみましょう。みなし取得価額とは、取得価額を推定する制度で、譲渡額の5%として計算します。
すると、各持ち分に対して以下のように計算できます。
【株の価格とみなし取得価額】
・社長分:譲渡価額=5億円×80%=4億円 みなし取得価額=4億円×5%=2000万円
・親戚分:譲渡価額=5億円×20%=1億円 みなし取得価額=1億円×5%=500万円
こう見ると、社長分はみなし取得価額より実際の取得価額のほうが下回っています。ですから、みなし取得価額を利用して税金を払った方がお得になります。逆に、親戚から購入した分は実際の価格の方が高いですから、実額での算定がお得になります。
別々に計算してみると次(ケース1)のようになります。
【譲渡所得(課税対象)】
(ケース1)別々に計算
・社長分:4億円(譲渡額)-2000万円(みなし取得価額)=3億8000万円
・親戚分:1億円(譲渡額)-5000万円(実際の取得価額)=5000万円
・譲渡所得の計:4億3,000万円
しかし税法上は、1つの取引において同一銘柄にバラバラの取得価額を適用することはできないことになっています。そのため、みなし取得価額か、実際の取得価格のどちらかを用いる必要があり、その場合次のようになります。
【譲渡所得(課税対象)】
(ケース2)みなし取得価額で計算:5億円-(2000万円+500万円)=4億7500万円
(ケース3)実際の取得価額で計算:5億円-(800万円+5000万円)=4億4200万円
こう見ると、実際の取得価額(ケース2)で計算した方がよさそうです。でも本当は(ケース1)で計算したいと思いませんか?
ビジネス・ブレイン税理士事務所 所長・税理士
1974年北海道生まれ。横浜国立大学経営学部会計情報学科卒業。 企業の連結納税や組織再編に関する知見を持ち、上場企業の子会社から中小企業・公益法人・独立行政法人・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務を行う。また、近年では種類株や信託、持株会社を活用した事業承継戦略の立案に注力している。戦略的税務・事業承継・税制改正などに関するセミナーや、「旬刊・経理情報」「税務弘報」「日刊工業新聞」「日経産業新聞」「銀行実務」など新聞・雑誌への執筆も精力的に行っている。