コーポレートガバナンスを考える MBOや上場子会社の完全子会社化における特別委員会の役割

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特別委員会設置と買収プレミアムとの関係

米国では、このような構造的な利益相反構造の問題があるM&Aの場合には、対象会社の取締役会が独立取締役を構成員とする特別委員会を設置するケースが多い(「M&A法制を考える マーケット・チェック」参照)。なぜなら、かかる特別委員会の独立性が認められ、特別委員会が自らアドバイザリーを選任し、取引を拒絶する権限を有し、注意義務を尽くせば、受託者責任訴訟において経営判断の原則が適用され、少数株主による攻撃をほぼ免れるという法理が確立しているからである(2014年のMFW事件)。

経済産業省が2019年に策定・公表した「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」(M&A指針)でも、特別委員会の設置は、「M&Aの公正性を担保する上で有効性の高い公正性担保措置」であり、「手続の公正性を担保する上での基点」と指摘され、東京証券取引所が2020年より毎年公表している「「公正なM&Aの在り方に関する指針」を踏まえた開示状況」によると、特別委員会を設置するケースは着実に増加している。

では、特別委員会の設置は、買収価格の最大化に関係しているのか。M&A指針公表前のケースをサンプルとした研究は、以下のように、特別委員会の設置などの公正性担保措置が買収プレミアム((買収価格-市場価格)÷市場価格)へ及ぼす影響を実証したものがある。

井上・小澤(2016:東京工業大学工学院経営工学系教授・東京工業大学大学院社会理工学研究科):2006年12月13日から2013年12月末までに公表されたTOB487件をサンプルとした結果、社外取締役比率の高い対象会社は、株主利益の最大化の視点で交渉を行い、買収プレミアムの最大化を図ると予測したが、有意な効果は確認できず、特別委員会の設置も、買収プレミアムを高める効果は確認できなかった。

中村(2019:慶應義塾大学大学院経営管理研究科):2005年7月15日から2019年8月15日までに公表された非公開型MBO137件および上場子会社の完全子会社化130件をサンプルとした結果、公正性担保措置の効果については、当初の予想に反して、買収プレミアムへの明確なプラスの効果を確認することはできず、特別委員会の設置も、プラスに有意な影響は確認できなかった。もっとも、設置事例に限れば、少なくとも開催期間または開催回数が長いまたは多いことは買収プレミアムに対してプラスの効果を持つ傾向があることが確認された。

川本(2022:南山大学経済学部教授):2007年11月1日から2019年末までに公表されたMBO100件をサンプルとした結果、MBO前の株価収益率が良好な会社では、特別委員会に社外取締役を選任している一方、アンダーバリュエーションに陥っている会社では、特別委員会に交渉権限を付与していることが明らかとなったが、社外取締役の選任は買収プレミアムに負の影響を与えていることが確認された。もっとも、特定の利益相反構造下(ファミリーなどの支配株主が存在する場合やファンドがMBOに関与する場合)では、少数株主の富の引き上げに寄与していることが確認された。

このように、筆者の知り得る限り、特別委員会の設置と買収プレミアムとの間の明確な相関が実証された研究は存在しない。

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