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【TSR情報】2016年を振り返って

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マイナス金利導入、不動産向け融資が拡大

2016年2月、マイナス金利が導入された。量的緩和政策からさらに踏み込んだ施策は、とりわけロットが大きく金利も稼げる不動産業向け融資に拍車をかけた。2020年東京五輪を控えた首都圏の開発案件などで活況をみせる不動産市況だが、低金利の資金がさらに不動産へと流れ込む構図が浮かぶ。

だが、過熱を帯びる不動産市況へのバブル懸念は拭えない。日銀は10月に発表した金融システムレポートで、「大都市圏では一部で投資利回りが低水準となる高値取引がみられ、利回りの過度な低下や高値取引の地方圏への拡がりを注意深く点検していく必要がある」と警戒感を強めている。今後、不動産向け融資への対策が注目される。

一方、金融機関の貸家業向け貸出も注目される。個人の貸家業向け貸出は2015年3月末の20兆8,941億円(前年同月比0.33%増)から、2016年9月末は22兆224億円(同4.47%増)と急増した。背景には2015年1月施行の相続税改正による賃貸住宅の供給増がある。団塊世代からの資産相続が増え、相続税対策として貸家ビジネスが人気を集めているからだ。オーナーは低金利で資金調達を活用し、業者側も30年一括借上げ(家賃保証)のサブリース形式などを提案し、専業大手を中心に好調な業績をみせる。貸出先探しに苦慮する金融機関にも「渡りに船」で、アパートローンは絶好の融資ターゲットとなっている。オーナー、不動産業者、金融機関がWin・Winの関係のようにみえるが、過剰供給による将来的な空き家リスクも付きまとう。少子高齢化、未婚化が過剰供給に拍車をかけるとの警鐘もある。

マイナス金利の導入で収益悪化が危惧される金融機関には、不動産業と個人の貸家業は千載一隅の救世主でもあった。だが、不動産バブルや空き家リスクと背中合わせの危うさも見え隠れする。

今後の金融機関の動き

金融庁は2016年9月、地域金融機関の貸出姿勢などを客観的に評価する指標「金融仲介機能のベンチマーク」を公表した。経済産業省や商工会議所でも、税理士、公認会計士への周知を図るなど中小企業のサポートを図っている。ベンチマークでは、金融機関がこれまで行ってきた物的担保や人的担保による「与信」から、中小企業の「事業性」(稼ぐ力)に着目した新たな貸出姿勢への転換を強く求められている。

金融の現場では、事業性評価に基づく貸出が動き出しているが、潜在的な倒産予備軍は減っていない。倒産を抑制している要因の1つに、信用保証協会の保証がある。中小企業への貸出が焦げ付いた場合、保証協会付き融資は保証協会が代位弁済するがこれは国民の税金だ。現状は、倒産企業の債務の80%を信用保証協会、20%を金融機関が負担する責任共有制度がある。だが、実際の保証付き貸出は不況対策で100%保全されているケースもある。このため金融機関が経営支援に動かないことにもつながっている。金融庁のベンチマークでは、「中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資の割合」という項目が盛り込まれ、保証協会保証に依存しすぎる警戒感が表れている。

2016年11月、経済産業省と自民党は、信用保証制度の見直し案をまとめた。保証する際には金融機関に一定額の無保証の融資を求め、セーフティネット保証制度(不況業種への全額保証)の保証割合を80%に下げ、規律のある制度に戻すという。経済産業省は2017年の通常国会に中小企業信用保険法の改正案を出し、18年度からの実施を目指しているが、金融機関がどれだけ中小企業への貸出にリスクを負い、中小企業への助言など積極的に経営に関与するかことを求められている。ただ、体力が疲弊した中小金融機関もあり、金融機関の足並みがそろうか注目される。金融機関の行動に地域格差が出ることは大きな問題であり、今後の動向に目を離せない。

東京商工リサーチ会員向け情報誌「TSR情報(2016.12.22発行)」より転載