近江兄弟社グループは、近江商人の知恵の賜物か?

「近江商人の里」の1つ、近江八幡にある近江兄弟社本社

ここでは近江八幡市に本社を構える近江兄弟社を中心に、「メンソレータム(現メンターム)」、ヴォーリズとヴォーリズの建築設計によるヴォーリズ建築についてまとめたが、実は近江兄弟社とは近江兄弟社グループのなかで、企業活動を行う1つの組織と位置づけられている(以下、グループ体系は近江兄弟社ホームページをもとに記述)。

近江兄弟社グループにあって文化伝道奉仕活動を行う組織には、管財・伝道・出版・病院等の事業を経営する公益財団法人 近江兄弟社がある。創業者や社員たちが眠る墓地「恒春園」の管理のほか、「ヴォーリズ記念館」の運営・管理などを行っている。

教育活動を行う組織としては、学校法人ヴォーリズ学園がある。ヴォーリズの妻・満喜子が、1922年に「清友園幼稚園」を創設したことに始まり、現在では、保育園・こども園・小学校・中学校・高等学校まで拡充し、社会に奉仕する自由人の育成、交換留学生などによる国際人の育成に貢献している。

医療保健福祉活動としては、前述の公益財団法人ヴォーリズ記念病院がある。1918年、結核療養所「近江療養院」として開設され、現在は内科・外科・呼吸器科・循環器科・消化器科・成人病検診・人間ドックなどの総合病院として、地域医療に貢献する。また、高齢社会に対応したヴォーリズ居宅介護支援事業所や訪問看護ステーションヴォーリズなどを併設している。なお、介護老人保健施設ヴォーリズ老健センターや社会福祉法人 地塩会ケアハウス信愛館という軽費老人ホームも医療保健福祉活動として運営している。

企業活動は近江兄弟社グループにおいて、株式会社近江兄弟社の関連会社という位置づけである。近江兄弟社の工業用脱臭専門部門として1962年に設立され、株式会社化した近江オドエアーサービス、1910年にヴォーリズ合名会社として設立された一粒社ヴォーリズ建築事務所がある。

このような近江兄弟社グループの事業領域の統廃合や再編を現在のM&Aのスキームで捉えるとどうなるかは即断できないが、その底流には、神仏への信仰が篤く、規律道徳や陰徳善事を重んじ、それらを家訓として各商家に伝えたとされる近江商人の意気を感じる人もいるはずだ。そして、そういわれると「近江兄弟社の理念は、キリスト教に根ざしたもっと崇高なもの」と反論する人がいてもおかしくはない。

いずれにせよ、45年ほど前にいったんは破綻した近江兄弟社の経営は、現在、全国に出張所を開設し、海外進出するまでに再興した。それも経営陣にヴォーリズ建築など「遺すべきもの」に重きを置いた不屈の事業家魂、大げさにいえば「キリスト教と近代日本資本主義の精神」があったればこそではないだろうか。

取材・文/M&A online編集部