仮想通貨取引所のコインチェックからネム(NEM)が流失した事件が世間を騒がせた。日常の少額決済に使用しない仮想通貨の保管には、ネットワークから遮断されたコールドウォレットや物理的な形態を有するハードウォレット、ペーパーウォレットなどを併用して自己防衛すべきことは仮想通貨について学ぶeラーニングでも基礎的な事項として教えられている。
海外では複数の大学が仮想通貨やブロックチェーンに関するオンライン学習コースを提供している。その中でも、早くからデジタル通貨に関する修士号(マスター)すなわち大学院課程を提供してきたのが地中海東部・キプロス共和国にあるニコシア大学だ。
専門家だけでなく、フィンテック(FinTech)分野への関心やビットコインなど仮想通貨への投資熱が高まるにつれ、基礎となる技術や知識を身に付けようという一般ユーザーの需要も高まっている。
以下では、筆者が受講したニコシア大学のeラーニングを中心に、仮想通貨に関する学習課程を概観してみたい。
読者にとって一番気になるのは、「仮想通貨について何を学ぶのか?それは投資に役立つのか?」という点ではないだろうか。
仮想通貨は新しい決済手段および送金手段として有望であるとともに、その基礎技術となっているブロックチェーンの応用にも期待が寄せられている。技術的な仕組みや理論を学習したい人向けの内容となっているが、仮想通貨に関する基礎を学ぶことは、投資にも有益と考えられる。なぜならどのようなコインが将来有望であるのかを判断するためには、技術的な知識が有用となるからだ。
ニコシア大学のデジタル通貨に関する修士課程は18か月コースとなっている。「デジタル通貨入門」、「通貨と銀行」、「国際通貨マーケット」など必修6科目に加え、「暗号理論とセキュリティ」、「デジタル通貨プログラミング」、「分散型システム」などの選択科目8科目のうち3科目を履修することでコースを修了することができるようになっている。選択科目を1科目にして、残り2科目に相当する単位を論文やプロジェクトの課題にして履修することも可能だ。
科目名から想像できるようにコースの内容は学術的なものとなっている。ただし、経済学や法学のようにすでに確立された学問分野ではないため、講学的な内容にとどまらず、現在進行形で変化し続ける仮想通貨の技術やビジネス環境を取り扱うことになる。したがって、講師陣も仮想通貨などの分野で活躍する実務家が中心となっている。
注目すべきは、上記の修士課程で必修科目となっている「デジタル通貨入門」が無料のMOOC(ムーク)として公開されている点だ。MOOCというのは「Massive Open Online Course」の略であり、一般に、大学などの教育機関がオンラインで公開している科目履修コースを意味する。
つまり、修士課程の一部がオンラインで無料受講できるというわけだ。このようなオンラインコースを提供している大学は米国プリンストン大学などいくつか存在するが、ニコシア大学の場合、無料コースであるにもかかわらず、正式な修了証(Certificate)まで発行してくれるという力の入れ様である。
しかも、この修了証の画像データのハッシュ値を大学側がビットコインのブロックチェーンに書き込んでくれるので、修了者は自分の修了証が正真正銘のものであることをいつでも対外的に証明することができる。デジタル通貨コースらしい粋な計らいと言えるのではないだろうか。
「デジタル通貨入門」は12コマのセッションと最終試験から構成されている。また、1つのセッションは、数十ページのPDF教材の学習、1時間程度の質疑応答レクチャーの視聴、学習内容についての小テストから構成される。
学習内容は「通貨の歴史」、「ビザンティン将軍問題」、「ビットコイン演習」、「ブロックチェーンの応用分野」、「ビットコイン以外の仮想通貨(アルトコイン)」、「デジタル通貨と中央銀行」、「デジタル通貨の規制と税金」など多岐にわたる。デジタル通貨全般に関するコースではあるものの、やはり仮想通貨の代名詞とも言うべきビットコインについての解説は多くの部分を占めるとともに、他のアルトコインの技術や各国の規制についてもビットコインとの対比やビットコインを念頭に置いた解説がなされている。
これから開講されるMOOCとしては2018年2月にスタートし、5月中旬に最終試験を迎えるコースがある。もし、仮想通貨に関する修士課程や無料のオンラインコースに興味がある方はこのMOOCにエントリーしてみるのも良いかもしれない。
・MOOCについてはこちら(英文サイト)https://digitalcurrency.unic.ac.cy
ニコシア大学の修士課程を修了するための費用合計は12,080ユーロ(1ユーロ=130円とすると、約157万円)。1コース当たり1,510ユーロ(約20万円)で個別に受講することも可能だ。このうち「デジタル通貨入門」コースだけは、無料公開されている。
ニコシア大学では授業料をビットコインでも支払える。近年、ビットコイン決済を採用する店舗や企業は増えたが、授業料をビットコインで受領する教育機関はまだまだ多いとはいえない。そのような中でニコシア大学は早くからビットコインで授業料を受領する大学としても注目されている。これもデジタル通貨に関する教育を提供する大学らしい発想といえるだろう。
また、受講者にとってもビットコイン決済にすることにより5%の割引を受けられるほか、授業料を一括で前払した場合、さらに7.5%の割引が受けられるようだ。
文:北川ワタル(公認会計士・税理士)