事業承継において、単に株式を取得するだけでなく、長期にわたり経営を支え続ける買い手でなければ安心して未来を託せないと考える経営者は少なくない。株式会社事業承継機構(本社所在地:東京都千代田区)は、そうした課題に“永久保有”の独自モデルで向き合い、経営人材のプール、精緻なバリュエーションなどを中核とした「事業承継プラットフォーム®」を武器に、5000社の承継という目標を掲げている。事業会社への売却でもファンドによる投資でもない“第三の選択肢”、その独自モデルを体現する直近の事例として、 2026年3月末には、株式会社カネコ・コーポレーション(本社所在地:東京都北区)の事業承継を実施。オーナーの想いと会社の独立性を守る同機構の考え方について、代表取締役の吉川明氏に話を伺った。
―まず、御社の事業内容と特徴を教えてください。
事業承継機構は事業承継を専門とする事業会社で、「引き受けた会社を永久に保有し続け、雇用と事業を残していく」という考え方を基本にしています。いわゆる永久保有型の承継モデルです。短期売却を前提としないため、従業員や取引先との関係を維持しながら経営改善に集中することができます。日本の事業承継問題を、個別の案件対応ではなく、仕組みで解決していきたいと考えています。
特徴の一つは、金融商品取引業の登録を受け、個人投資家からも機関投資家からも資金を集められる体制を整えていることです。5000社を承継しようとすると、必要資金は非常に大きくなります。しかし、短期で高い利回りを求める資金ばかりでは、このモデルは成り立ちません。ですから、設立当初から時間をかけて、資金調達と運用の基盤をつくってきました。
もう一つの強みは人材です。社内には約60人の人員がおり、国内のファンドの中でも最大規模の人員体制を構築しています。そのうち相当数が社長や役員の経験者で、知見もネットワークも豊富です。事業承継は、引き受けた後にどう経営するかが本質です。その意味で、経営経験のある厚い人材層を持っていることは大きな強みだといえます。

―巨大な機関投資家マネーだけでなく、あえて個人投資家の資金をも巻き込み、ソーシャルビジネスとしての形を目指すのはなぜでしょうか。
生保やメガバンクのような大きな金融機関からすると、中小企業はどうしても距離ができやすい存在です。そこで私は、社会課題の解決を目的としたソーシャルビジネスとして、寄付ではないが過度な利益追求でもない形を考えました。極端に高くはないが一定のリターンを返していく仕組みを金融庁の監督下で運営することで、一般個人でも資産運用しながら社会課題の解決に安心して貢献できるようにする狙いがあります。
―どのような会社が、「永久保有型」の承継モデルに向いているのでしょうか。
すべての会社に向いているわけではありません。資本主義のルールの中で、より大きな企業グループに入った方が従業員にとっても、顧客にとっても幸せになるケースはあります。たとえば人手不足が深刻な業界では、大手に入ることで待遇や労働環境が改善し、事業の継続性も高まることがあります。
一方で、どこかの系列に入ってしまうと価値が損なわれる会社もあります。高い専門性を持ち、複数の大手企業と中立的に付き合うことで成り立っている会社です。そうした会社は、独立性そのものが競争力ですから、永久保有型の承継と相性がいい。業種や規模だけで一律に線引きはできませんが、「社会に残す意味があるか」「引き受けることで、その価値を守り、高めていけるか」を丁寧に見ています。

―御社のバリュエーションの考え方を教えてください。将来の売却益を見込まないので、相場より安くなるのでしょうか?
永久保有を前提としているため、「承継後10年間、無理なく経営できるか」をまず見ます。具体的には、10年間の資金繰り表を精緻に作成し、売上や利益の見通しだけではなく、為替が動いたらどうなるか、原材料価格が急騰したらどうなるか、感染症や災害が起きたらどうなるか、といったストレスもかけます。そのうえで、それでも資金繰りを維持できる価格を算出します。これが当機構のバリュエーションの土台です。
さらに、「承継後に何を支援できるか」も織り込みます。商流の見直し、人材の補強、調達の支援、管理体制の強化など、実際に提供できる改善余地を数字に落とし込んでいきます。現状の会社の値段を見るだけでなく、「承継後にどう支えられるか」まで含めて評価しているのです。
以前は市場価格よりバリュエーションが安いと言われることもありましたが、最近は必ずしもそうではありません。支援機能が厚くなってきたからです。たとえば、原材料の調達が難しい局面でも、グループ内の人材ネットワークや商社出身者の知見を使って対応できることがあります。そうした支援力が高まると、企業の持続可能性も高まるので、結果として提示できる価格も高くなってきます。
―引き受けた後の経営を現実にする、人材支援の仕組みについて教えてください。
当機構では、社長になりたい方、あるいは中小企業の経営に貢献したい方を、常時面談してプールしています。これまで面談した人数は3000人超で、常時500~600人ほどの候補者がいます。その中から、業種などによって商社的なビジネスへの理解、機械分野への知見、営業力などを軸に候補者を絞り込んでいます。
特徴は、案件ごとに人材を探すのではなく、先に人材のプラットフォームをつくっていることです。大企業で経営経験を積んだ人材や、社会的意義ある仕事を志向するシニア人材、キャリア転機にある女性人材など、多様な人材がプールされています。大企業で役員や子会社社長まで務め、十分な収入や地位を得たあとで、「次は社会の役に立つ形で働きたい」と考えるシニア人材は多いです。結婚や出産でキャリアが途切れてしまった優秀な女性人材も含め、埋もれている力は日本にまだあります。その力を中小企業につなぎ、活かすことには大きな意義があると考えています。
―新たに派遣した社長には、どのようなことを求めますか。
最初の3カ月は、とにかく話を聞くことです。社員の声、お客様の声、仕入先の声、販売先の声を聞いて、現状を正確につかむ。経営には「二度測って一度切る」という姿勢が必要です。事実を十分につかまずに動くと、取り返しがつかないことがあります。ですから、新社長一人に任せきりにはしません。当機構のメンバーも伴走し、多面的に状況を確認しながら、一歩ずつ進めます。
―前半で「独立性が競争力になる会社は永久保有と相性がいい」というお話がありましたが、まさにそのケースとして、2026年3月末に発表されたカネコ・コーポレーションの事業承継について伺います。今回、同社の承継を決めた理由は何でしょうか。
大きく二つあります。一つは、会社そのものの独自性です。同社は昭和4年(1929年)の創業以来、工作機械や測定機器などの販売を通じてモノづくりの現場を支えてきた老舗企業です。メーカーの直販化が進む中でも、特定の製品に縛られない幅広い提案力を持ち、機械の販売商社として長く収益を上げてきました。これは簡単なことではありません。特定系列に入らずに残っていること自体に意味があり、その独立性を守る価値があると感じました。
もう一つは、グループ会社とのシナジーです。当機構は現在、20社を超える事業会社を抱えており、毎年相応の機械設備投資があります。各社は中小企業なので、必ずしも調達条件を十分に比較できていないことがあります。そこを見直せるだけでも、グループ全体にとって大きな改善余地があります。逆に、カネコ・コーポレーションにとっても、中小企業の現場の本音に触れられる機会が増えます。その声は、仕入先の機械メーカーへの提案力にもつながります。単なる売り買いではなく、プラットフォームの一部となることで、付加価値を生み出せる可能性があると見ました。

―目標に向けた、今後の成長戦略や現状の課題についてお聞かせください。
5000社承継が目標で、現在は28社です。率直に言えば、計画比では大幅未達ですし、全く満足していません。ただ、件数を追うあまり、無理な価格で引き受けてしまうと、3年後、5年後に「永久保有します」「雇用と経済を守ります」という約束が守れなくなります。ですから、スピードと規律の両立が必要です。
直近では年20社強の承継を目標にしています。そのためには、カネコ・コーポレーションのような“第三の選択肢”を必要としている企業と、もっと出会わなければなりません。仲介会社や金融機関との連携を深めながら、その機会を増やしていきます。
―最後に、後継者不在に悩む経営者の方々へメッセージをお願いします。
後継者不在に悩む経営者の方には、事業会社に売るか、ファンドに売るか、という二択だけではなく、「転売なし、統合なし、移転なしで、そのまま会社を残す」という当機構の選択肢があることを知っていただきたいです。会社を売って終わりではなく、会社を残すための承継もあります。その選択肢が必要だと感じたら、提携する仲介会社や金融機関を通じて相談していただければと思います。当機構はこれからも、社会に必要とされる企業を、「日本の宝」として次の世代へつないでいきます。
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