従来型の銀行融資では限界も

ここで、日本でまだVCによるリスクマネーの供給が極めて限られていた時代に、プロダクト開発に成功した先駆者の事例をご紹介しましょう。

グローバルな視点で見れば規模はとても小さく、数も少ないとはいえ、日本発のプロダクトサービスというのは確かに存在しました。例えば、古くはジャストシステムの一太郎などです。こうした会社は、効率的な受託(高単価、高効率、適切な開発管理)と銀行融資で資金を回しながら、確保した資金をプロダクト開発とマーケティングに思い切って投下し、規模は小さいながらもプロダクトビジネスを展開することに成功しています。

しかし、日本型プロダクトサービスの現時点での成功度合を鑑みるに、このような投資サイクルでは時間もかかり、大胆な構想による壮大なプロダクトの展開は難しいと感じます。将来的にGAFAのような企業を目指すのなら、多額のリスクマネーを供給し、大ホームランを狙うVCのリスクマネーは「受託の罠」脱出ルート2を抜け出すための重要な足掛かりになるといえるでしょう。

受託ビジネスでもVCを意識する必要性とは

今回のコラムでは、「受託の罠」の脱出ルート2について、VCの資金活用は王道のひとつになり得るという、いわば当たり前のことを丁寧に説明してみました。 

受託ビジネスでしっかり食べていける堅実かつ優良な会社は、VCなどからエクイティーを調達することに抵抗感を持つ経営者が多いと感じます。またVCにとってみれば、このような企業は商売の相手になりませんので、基本的には「お好きにどうぞ」というスタンスになります。

しかし、今は受託に近いビジネスモデルでプライベートカンパニーの自由を謳歌している会社も、何かのきっかけで大きなプロダクトの着想を得て、大きく調達して勝負したいと思うタイミングが来るかも知れません。 その際に「受託の罠」の様々な脱出ルートを知っているか知らないかでは、その後の展開に大きな違いがあります。

本コラムで分析の土台としているCJMのマトリックス上を、起業家や経営者が自社のビジネスモデルの変化に応じて移動していく様(ジャーニー、旅)は、その変化に対応したファイナンス戦略を講じていくプロセスでもあります。

ファイナンスは起業家が掲げるビジョンと事業戦略の実現のための道具にすぎません。しかし、自分が今いる象限の道具だけ知っていればよい(他の象限の論理を理解しない)という考えは、時に事業の可能性と幅を狭めることになると感じます。

一方で、ファイナンスのプロ(ここではVC)の立場も、自分の商売相手にならないからといって無関心でいては、将来の相手の変化や発展に対応できない可能性があります。こうした双方の断絶をなくしていくことが、日本のスタートアップエコシステムの発展と拡大には必要ではないかと感じます。

次回は、「受託の罠」を超えた後に来る、「死の谷(デスバレー)」について書いてみたいと思います。この領域はまさにVCをはじめとする多くの先達が、いかにして成功確率を上げるか、あらゆる知恵とノウハウを共有して、エコサイクルの発展に貢献している領域です。ここで先達の言葉をなぞることに、さしたる価値があるとは思えません。そこで、本コラムではもう少し違った視点から、アプローチしてみたいと思います。(次回へ続く

文:西澤 龍(IGNiTE PARTNERS株式会社代表取締役/パートナー)

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