さて、その「三菱」にも紛らわしい社名がある。大手文房具メーカーの三菱鉛筆<7976>だ。社名に「三菱」を冠しているうえに、ロゴマークも三菱グループのシンボルであるスリーダイヤを使用している。それにもかかわらず、創業時から三菱グループに属していない。
「よく三菱グループが、関係のない企業に三菱の社名とロゴの使用を許しているものだ」と不思議に思うかもしれないが、現実は逆。実は「三菱」もスリーダイヤのロゴも、三菱鉛筆の方が先に商標登録しているのだ。
三菱鉛筆は1887年に「眞崎鉛筆製造所」として東京で創業。1901年に国産初の量産型鉛筆3種類を、当時の逓信省(現・総務省、日本郵政、NTTグループ)に「局用鉛筆」として納品。これを記念して1903年に「3種」や創業家の家紋「三鱗(みつのうろこ)」などを表す三つのひし形を模した「三菱」マークを商標登録した。
ちなみに三菱財閥による商標登録は10年以上後の1914年だ。その後、1918年に創業した横浜市の色鉛筆メーカー「大和鉛筆」と1925年に合併して「眞崎大和鉛筆」なった。戦後の1952年に現在の「三菱鉛筆」に社名変更している。
今でも三菱グループの企業と間違われる三菱鉛筆だが、この誤解がとんでもないトラブルを招いたことがあった。戦後の財閥解体でGHQが同社を三菱財閥系の企業だと勘違いし、「三菱」とスリーダイヤの商標の使用禁止を命じたのである。
三菱鉛筆側が「三菱財閥とは何ら関係ない」と反論して継続使用は認められたものの、商標が「非財閥」であることを社告で公告し、製品にも明記するとの条件をつけられた。そのため当時の製品には三菱財閥とは無関係であることを示す「NON財閥」「非財閥」と表記されていたという。