この会社ってあそことは他人だったの? 「社名の空似」企業3選

alt

「他人の空似」とはよく聞く話だが、企業にもまぎらわしい「空似」がある。不祥事を起こした企業と偶然にも同じ社名の別会社に、間違って抗議の電話が殺到したとのニュースも珍しくない。そこで今回は社名で誤解されやすい有名企業3社を紹介する。「この会社って、あそことは無関係だったの?」と驚く企業はあるだろうか。

旭硝子と旭化成

板ガラス世界最大手メーカーの旭硝子<5201>。化学、繊維、住宅、建材、エレクトロニクス、医薬品、医療等などを幅広く手掛ける旭化成<3407>グループの一員と思いきや、実は全くの他人。共通点といえば、どちらも財閥系企業ということ。旭硝子は三菱グループだだが、旭化成は第一勧業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ<8411>)グループだ。

「三菱はわかるけど、戦後できた第一勧銀がなぜ財閥?」と思われるかもしれない。実は財閥解体後のグループ再編には2つのやり方があった。1つは旧財閥をそのままグループとして再結集したケース。三井・三菱・住友の三大財閥系グループが該当する。しかし、4位以下の財閥は銀行を中心とした金融系列を軸に新たな企業グループを形成した。

いわば財閥のM&Aで、旧渋沢財閥と旧古河財閥・旧神戸川崎財閥、旧日窒コンツェルンなどを集約した「第一勧銀グループ」、旧安田財閥、旧浅野財閥、旧森コンツェルン、旧日産コンツェルンなどを統合した「芙蓉グループ」、旧鴻池財閥と旧山口財閥などを統合した「三和グループ」が誕生している。戦前、旭化成は積水化学工業<4204>や信越化学工業<4063>などと同じ旧日窒コンツェルンに属していた。

さて、1907年の設立当初から「旭硝子」だった同社だが、三菱財閥のガラスメーカーなのだから「三菱ガラス」が自然なはずだ。なぜ、財閥名とは全く関係ない「旭」の名を冠することになったのか?当時、国産のガラス製造はどこも難航を極めており、「三菱ガラス」が失敗に終わったら三菱の名を汚すとの配慮があったとの説がある。この他にも創業日が9月9日だったのをもじって「旭」にした説や、朝日が昇るごとく事業を伸ばしていきたいから「旭」にした説もあり、当の旭硝子にもはっきり分からないという。

始業当時の旭硝子鶴見工場の職員たち
「三菱ガラス」にならなかった理由には諸説ある−始業当時の旭硝子鶴見工場の職員たち(同社ホームページより)

一方、旭化成の終戦時の社名は「日窒化学工業」で、旭硝子と違って所属する財閥名を冠していたが、1946年に社名を「旭化成工業」に改称した。現在の「旭化成」になったのは、21世紀に入った2001年だ。 

三菱鉛筆と三菱グループ

さて、その「三菱」にも紛らわしい社名がある。大手文房具メーカーの三菱鉛筆<7976>だ。社名に「三菱」を冠しているうえに、ロゴマークも三菱グループのシンボルであるスリーダイヤを使用している。それにもかかわらず、創業時から三菱グループに属していない。

「よく三菱グループが、関係のない企業に三菱の社名とロゴの使用を許しているものだ」と不思議に思うかもしれないが、現実は逆。実は「三菱」もスリーダイヤのロゴも、三菱鉛筆の方が先に商標登録しているのだ。

三菱鉛筆は1887年に「眞崎鉛筆製造所」として東京で創業。1901年に国産初の量産型鉛筆3種類を、当時の逓信省(現・総務省、日本郵政、NTTグループ)に「局用鉛筆」として納品。これを記念して1903年に「3種」や創業家の家紋「三鱗(みつのうろこ)」などを表す三つのひし形を模した「三菱」マークを商標登録した。

三菱鉛筆
三菱グループのシンボル・スリーダイヤがあしらわれている三菱鉛筆。実は商標登録はこちらが先だった(同社ホームページより)

ちなみに三菱財閥による商標登録は10年以上後の1914年だ。その後、1918年に創業した横浜市の色鉛筆メーカー「大和鉛筆」と1925年に合併して「眞崎大和鉛筆」なった。戦後の1952年に現在の「三菱鉛筆」に社名変更している。

今でも三菱グループの企業と間違われる三菱鉛筆だが、この誤解がとんでもないトラブルを招いたことがあった。戦後の財閥解体でGHQが同社を三菱財閥系の企業だと勘違いし、「三菱」とスリーダイヤの商標の使用禁止を命じたのである。

三菱鉛筆側が「三菱財閥とは何ら関係ない」と反論して継続使用は認められたものの、商標が「非財閥」であることを社告で公告し、製品にも明記するとの条件をつけられた。そのため当時の製品には三菱財閥とは無関係であることを示す「NON財閥」「非財閥」と表記されていたという。

ジョンソン・エンド・ジョンソンとジョンソン

ジョンソン・エンド・ジョンソン(東京都千代田区)は、米ニュージャージー州ニューブランズウィックに本社を置くグローバル企業の日本法人。日本では救急絆創膏の「バンドエイド」や綿棒、最近では使い捨てコンタクトレンズ「アキュビュー」などで知られているが、医療機器では世界トップ、製薬でも同7位の巨大ヘルスケア企業である。

バンドエイド
日本では「定番」となっている両社の製品(両社ホームページより)









そのジョンソン・エンド・ジョンソンの関係会社ではないか?と思われがちなのがジョンソン(横浜市西区)。家庭用洗剤や清掃用ワックスなどを製造・販売する化学メーカーである。

実はこの両社、全くの無関係だ。ジョンソンの親会社の名称は「SC Johnson&Son, Inc. (SCジョンソン社)」。米国でも「まぎらわしい」と認知されているようで、ウィキペディア米国版の両社記事の冒頭には「Not to be confused with Johnson&Johnson(S. C. Johnson&Son)」すなわち「ジョンソン・エンド・ジョンソン(SCジョンソン社)と混同しないように」と、わざわざ明記している。

SCジョンソン社は米ウィスコンシン州ラシーンに本社を置き、「サランラップ」や「ジップロック」などのメーカーとして知られる…というと驚かれるかもしれない。それもそのはず、こうした有名商品は国内では日本法人のジョンソンではなく、最初に登場した旭化成の子会社である旭化成ホームプロダクツが販売しているからだ。ジョンソンは「カビキラー」をはじめとする洗剤や防虫剤の販売に特化している。このあたりは社名以上にややこしい。

両社の共通点は社名に創業者の名前を冠していること。ジョンソン・エンド・ジョンソンはバート・ウッド・ジョンソン、ジェームス・ウッド・ジョンソン、エドワード・ミード・ジョンソンの3兄弟が設立したのが社名の由来。一方、SCジョンソン社は、創業者であるサミュエル・カーティス・ジョンソン・シニア(Samuel Curtis Johnson, Sr.)の名を社名に採った。「SC」は「サミュエル・カーティス」の頭文字だ。

この両社、米国企業の日本法人であることや社名が似ていることから、非公式ながら交流もあるという。両社のコールセンターでは社名を取り違えて電話をかけて来た人に互いのコールセンターの電話番号を知らせるなど、ユーザー対応でも協力関係があるようだ。

文:M&A Online編集部