数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本も紹介する。
気鋭の経営学者によるケースで学べる経営学の入門書だ。
登場する企業はストライプインターナショナル、すかいらーく、TOTO、幸楽苑など11社。経営戦略の概念やフレームワークを事例を通して記述しており、経営学の知識がない人でも頭に入りやすい。
例えば、幸楽苑の事例では、「スパン・オブ・コントロール」という考え方を紹介している。上司が1人で管理できる部下の数はおおよそ4~8人が限界という考え方である。
今でこそ、全国で500店舗以上を運営する大手ラーメン・チェーンに成長した幸楽苑だが、創業当初は福島県会津市で中華料理店、カレー専門店、喫茶店など業態の異なる6店舗を運営していた。しかし、創業者の新井田は大きな経営上の壁にぶつかる。タイプの異なる顧客や原材料、従業員の管理に手間がかかり、それ以上手に負えなくなったのだ。
そこで新井田はやみくもに多様な業態に手を出すのではなく、絞られた業態で店舗数を増やし、そこで販売されるものを自社内のセントラル・キッチンで大量生産するやり方に気づいた。「彼の頭の中で飲食業が『サービス業』から、『製造直販業』に転換した瞬間だった」。幸楽苑の事例は個人事業主が経営者に脱皮するにはどうしたらよいかを考えるうえで示唆に富んでいる。
TOTOの事例では、製品のライフサイクルの変化に応じて経営戦略を変えることの重要性を説いている。主力製品のトイレは約40年という長いサイクルのなかで、リモデル(リフォーム)の需要が生まれることを発見。ゆっくり長い時間をかけてブランドを築き、ショールームなどを通じて適切に新製品への買い替えを提案することで、業績回復につながったという。さらにTOTOは新興国の進出でも、まず高級感のある場所にトイレを設置し、ゆっくりと中間層に浸透させブランドを成長させる戦略を取る。
一方、競合のLIXILグループはM&Aによって海外の販売チャネルを押さえ、時間を戦略を取っているのとは対照的だ。著者である沼上幹・一橋大学大学院商学研究科教授は「1つの産業には1つの戦略しか存在しないのではない。存続可能な戦略は複数存在する」と指摘する。
経営戦略というと、「経営者だけが読めばいいもの。自分とは関係ない」と思われがちだが、経営学を支える様々なロジックや考え方を知ることは一般のビジネスパーソンにも有益だ。本書を読めば、ビジネスに欠かせない戦略的な思考が頭に入るだろう。
沼上教授は「常識を疑い、考え抜くクセをつけること」「目の前で起きている事象の表層にとらわれることなく、その背景にあるメカニズムを掘り下げて考えること」が重要と指摘する。巻末には「さらに学びたい人のための図書案内」があるのも便利。タイトル通り、ゼロから経営戦略を学ぶのにうってつけの一冊と言える。
文:M&A Online編集部
数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。今回は、黒木亮による本格派国際金融小説「国家とハイエナ」を取り上げる。