バブルがはじけた頃、新聞記事を読んでいて「不良債権」が英語で bad debt と言うことを知りました。なんだ、「悪い借金」って意味じゃないか、と思われるでしょう。実際、私もそう思いました。もっとも、品のよい人はマイルドに「Non-performing loan (NPL)」と言ったりするのだそうですが。

西洋の言葉というのは、どうしても日本人にはピンと来ないことがあります。大学のころ、ベルグソンというフランスの哲学者の著作が哲学の授業の課題に出て、岩波文庫か何かで訳を読んでいるうちに13ページぐらいで眠くなって寝てしまいました。10年ぐらい経って同じ本をフランス語の原文で読んだら、今度は書いてあることがよくわかったのを覚えています。いっそ金融用語もこの調子でやさしく言い換えたらとてもわかりやすくなるのではないでしょうか。「ノンバンクの不良債権」と言わずに「銀行じゃない金貸し会社のタチの悪い借金」といわれるとすっとわかります。

冗談はさておき、この「借金」という語ですが、元はやはりラテン語で、de- (離れて) -habere (持つ)が原義で、「他人から(必ずしもお金だけではなく)与えられた状態であること」を意味したものです。

イタリア語を少しでもかじった方は averedovere の活用を比較してみてください。類似した感じがするのはdovereaverede- をつけてできた動詞だからです。というわけで「債務者」は debtor (「債権者」は creditor) と言います。

debt に in- をつけると「借金に巻き込まれた」という感じで、indebted (負債がある、恩義がある) というよく使う形容詞がになります。

会計用語で正式に「借方」を言うときは debit を使います。「デビットカード」 debit card の「デビット」は、このことです。

証券用語で「社債」のことを debenture と言いますが、これもラテン語の動詞 debere から派生した語です。

英語の must にあたる助動詞は、イタリア語で dovere 、スペイン語で deber 、フランス語で devoir と言い、いずれもラテン語の debere の子孫で、「~ねばならない」という意味の他に「義務」の意味の名詞としても用いられます。

フランス語の devoir の過去分詞は という形で、その女性形は due です。これが英語に入って due to という表現でよく知られる形容詞になりました。

実際 due には、名詞で「当然支払われるべきもの」ということから「会費、分担金」などの意味もあります。そして、これに抽象名詞を作る語尾 -ty がついたのが duty (義務) です。 duty は免税店でよくみかける「デューティーフリー(Duty Free)」という言葉からもわかるように「関税」の意味もあります。また、duly  (正に確かに)という副詞も、ビジネスレターを書きなれた方にはお馴染みの語でしょう。duly to hand は「正に入手」という決まり文句です。

さて、さきほど debt という綴りを見て、doubt は何か関連があるのかな、と思った方はいらっしゃいますか。その方はだいぶこのコラムの「パズル遊び」に毒されてきましたね。

残念ながら、この単語は別のルーツの言葉です。ただ、いずれもラテン語の影響で、読まない -b- が綴りに反映している点は類似しています。

文:猪浦道夫・天宮徹也(共同執筆)/編集:M&A Online編集部