金融庁が「仮想通貨(virtual currency;バーチャルカレンシー)」から「暗号資産(crypto asset;クリプトアセット)」に呼称を改める検討に入りました。連載第2回は、その「Asset(アセット)」を取り上げます。

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逆形成で創造されたAssets

会計分野では基本語のひとつである assets(資産)という言葉はいささか不思議な運命を経てきた言葉です。

この単語は asset として辞書に出ていますが、実は先に複数が存在した語です。その源はラテン語の「充分に」という意味の ad satis という副詞句表現で、昔のフランス人が古形 asetz という綴りを複数形と勘違いしたことから、後になって、逆に-sをとって「単数形」が創造されたのでした。このようなことは歴史上よく起こることで、言語学では「逆形成(back formation)」と言われる現象です。

「逆形成」の例としては pea (エンドウ豆)という語がよく知られています。これはもともと pease と言ったのですが、いつのまにか ·sの音が複数形と間違えられて、-sをとった語形が単数とされてしまったのです。

同じような例で、イタリア語には日本語の「柿」という言葉が外来語として入っているのですが、複数の柿は cachi と言い「カキ」と読み、ひとつですと caco 「カコ」と読みます。これはイタリア語の男性名詞の大半が単数では -o、複数では -i という語尾をとるため、 cachi を複数形と勘違いしたことから起きたのです。こちらは言語学で「過剰訂正(hypercorrection)」といわれる現象例です。

ともあれ、古くは have assets というと「充分に支払える」というような意味になり、asset という語が生まれたのでした。

Satisfactionを分解してみると・・・

ところで、先ほどの satis という綴りは、どこかで見たことがありませんか。そうです。英語で有名な単語に satisfaction (満足)がありますね。

私はローリングストーンズの「サティスファクション」が大好きでよく聴いていましたが、この単語はラテン語の satisfacere という動詞から出たものです。facere は「する、つくる」という意味の重要な動詞で、この動詞が satisfy(充分に作る -> 満足させる)となったのです。

satisfaction は名詞で、形容詞は satisfactory(満足な)ですね。副詞の satisfactorily(充分に)も大変使用頻度の高い語です。

形容詞の形を見て「工場」の factory を思い出した方は、もうこの「言葉のパズル」に慣れてきましたね。「(ものを)つくる場所」と考えれば当然といえます。

さらにこの単語とにらめっこすると、中に fact(事実)という語が隠れているのに気付きましたか。これは先ほどのラテン語 facere の過去分詞 factum の子孫なのです。だとすると「行為者」を示す or がついたのが factor(作るもの語尾 -> 要因)となります。動詞の方は、おおむね -ify という語尾をもって英語化しています。signify(意義をもつ)、beautify (美化する)、pacify(鎮める)などがそうです。

マイクロソフト社のWindowsのような「事実上の標準」を意味する「デファクト·スタンダード」de facto standard の de facto はラテン語です。facere一族の話をしていると、それだけでこの連載のページがなくなってしまいますので、この辺にしておきましょう。

さて形容詞 satis の方はどうなったかと申しますと、これがダイレクトに動詞化した語の過去分詞が satiate(満腹させる、うんざりさせる)です。ビジネスの分野では「商品を過剰供給する」という意味でも使われます。化学の分野でよく使う saturate(しみ込ませる -> 飽和させる)もそうです。

面白いところでは「風刺」の satire という語もこの仲間で、「寄せ集めて満腹にしたもの」が原義です。

この satis は非常に古い段階では英語の sad とルーツが一緒で、元は「満足した」という意味から「うんざりした」、ついには「悲しい」とまるで反対とも思えるような意味に変化していきます。

これに似た語で sate(d)(食べ飽きた)という語が現代英語に生き残っています。一度でいいからうんざりして「悲しく」なるほど assets を持ってみたいものです。

文:猪浦道夫・天宮徹也(共同執筆)/編集:M&A Online編集部