昨年にフランスを視察、在宅医療の関係者にヒアリングし、日本の医療・介護業界と似たような問題を抱えていることに気付かされたという。高齢者住宅新聞社の網谷敏数社長に伺う、連載最終回。前回の記事はこちら

ゆっくり高齢化が進む欧米と急激に進んだ日本が取るべき道とは?

 近年、同業同士や異業種によるM&Aが加速している介護業界。介護報酬のマイナス改定などが経営に響き、売却を選択する事業者が少なくないという。そんな業界の経営をめぐる最新の動向、M&Aの実態について、『高齢者住宅新聞社』の網谷敏数社長に伺ってみた。

――昨年(2015年)、フランスに視察に行かれたと聞いています。諸外国と比較して、日本の医療や介護・高齢者住宅の特徴はどのようなものでしょうか。

 毎年ヨーロッパを中心に視察に行っています。15年はフランスで在宅ケアを見てきました。在宅医療の関係者にヒアリングし、現場にも足を運んだのですが、フランスも日本と似たような問題を抱えていることに気付かされました。

 医療費、社会保障費が少子高齢化のために膨らんでいるのは言うまでもありません。日本はこの20年で急速に高齢化が進み、一気に諸外国を抜き、世界でも類を見ない高齢社会になりましたが、欧州は日本が高齢化になるよりもはるか以前から、ゆっくりと、しかし確実に高齢化への道を辿ってきました。

 一般的に65歳以上の人口が全人口に占める割合を高齢化率と呼び、7~14%が「高齢化社会」、14~21%は「高齢社会」、21%以上を「超高齢社会」と分類します。フランスは高齢化から高齢社会への移行は日本より時期的に早いのですが、それでも数十年はかかっています。ところが日本は高齢化から超高齢までごぼう抜き、あまりにもスピードが速くて追いつけないのが現状です。むしろそのような急激な変化に対して、短期間で介護保険の制度をつくり上げ、よくやっていると感じます。

 イギリスはフランスともども高騰する社会保障費の財源に困っていて、両国とも病院ではなく自宅でケアしようという発想が生まれています。現地で見たのは、人生の最期を病院ではなく自宅で迎えられるよう介護や医療に関わる人が努力している姿でした。

 フランス訪問看護師が中心となり環境づくりを推進しており、在宅で入院環境と同じサービスを提供する「在宅入院連盟」という組織があるのも印象的でした。こうした組織がフランス全土で300ほどあり、今後、倍増を検討しているそうです。対して日本は病院で最期を迎える人が多く、それが医療費の高騰を招いています。この点は、深く考えさせられました。

 欧州はかかりつけ医が浸透していて、ケガでも風邪でも、まずはかかりつけ医に診てもらい、必要なら専門医を紹介してもらいます。かかりつけ医はゲートキーパーの役割を担っていて、専門医との分担がはっきりしているのです。日本にはそういった仕組みがなくフリーアクセスです。自分が自ら選んだ病院に診察してもらえる利点があるようにも思えますが、結果的には3時間待ちで3分診療という悪循環につながっています。かかりつけ医が良いことばかりではなく、両者ともメリット・デメリットがあるかとは思いますが、考えさせられました。

 驚いたのは、パリの人口は郊外も合わせて300万人なのですが、救急車の台数は20台程度しかないということです。それでまかなえているのは、かかりつけ医の制度もありますが、救急車のコールセンターに医師と看護師が待機していて、振り分けを行うからだと知りました。実際はコールがあったうちの1割程度しか救急車は出動しないそうです。

 このように、見習うべき点、日本が優れている点など、多くの発見ができたフランス視察でした。印象的だったのは、フランスも日本同様、地域包括ケアのような仕組みを検討しているということです。

 ただ、フランスが優れていると感じたのは、看護師の現場での裁量が大きいことです。日本も介護福祉士にいろいろな役割を集約しようという動きがありますが、ある程度の医療行為もできるようにしないと、医療と介護の間にどうしても抜け落ちてしまう部分ができてしまいますし、慢性的な人材不足を解消できないでしょう。

 こうした介護業界の構造変革には既存のプレーヤーばかりでなく、M&Aを活用などによって新しい業界の参入を促進し、これまでにない発想が必要だと思います。(了)

取材・文:M&A Online編集部

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