安倍首相が掲げるアベノミクス「新3本の矢」で、介護離職をゼロにするため施設を増やし、50万人分の受け皿を創出するという方針がある。ところが実態は、特養や有料老人ホームの整備数がはっきりと示されていないなど実現に向けて課題があると言う。高齢者住宅新聞社の網谷敏数社長に伺う、第2回目。前回の記事はこちら

今後の鍵を握る地域包括ケアを 介護サービスの複雑さが阻む

――介護の現場における今日的な課題や、新たな問題になり始めていることはあるのでしょうか。

 介護サービスには多岐にわたる形態があります。代表的な施設では、「特別養護老人ホーム(特養)」や「介護老人保健施設(老健)」、病院に近い性格の「療養病床」があります。また、特定施設と呼ばれるジャンルには、老人福祉法の管轄下にある「介護付き有料老人ホーム」、国交省と厚労省の共同所管で高齢者住まい法の管轄下にある「サービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)」があります。サービスが包括されているものもあれば、入居者にサービスを選択する余地があるものもあり、規制や基準、受けられるサービス、費用負担、報酬が異なり、非常に複雑であり、理解するのは簡単ではありません。

 安倍首相が掲げるアベノミクス「新3本の矢」の中で、介護離職をゼロにするため施設を増やし、50万人分の受け皿を創出するという方針があります。ところが、特養や有料老人ホームの整備数がはっきりと示されておらず、20年代前半までに施設整備を行うと言いますが、期限もあいまいです。政府は、これらを明確にする必要があると思います。

 また、今までにいろいろな施設が整備され、ケアハウスを含めると10種類以上の施設が存在しています。利用者にとって違いが分かりづらく、どの施設がどれだけ必要なのか、それぞれの役割は何なのかを明確化することも求められています。現状のままでは事業者、利用者双方に混乱をもたらすだけです。

 例えば特養であれば重度者が入居し、さらに補足給付という家賃補助のようなサポートも受けられます。これを低所得者や重度者に特化するというように明示すればいいのだと思います。

 一方、サ高住は賃貸住宅の延長で自由な空間があることが特徴ですから、そういったライフスタイルを望む高齢者の受け皿というように、他の特定施設もそれぞれの特徴を明確にすべきです。そうすれば、自宅で限界点を迎えるまでは自宅で受けられる訪問介護や訪問看護、通所介護から小規模多機能、定期巡回サービスといった在宅系の介護サービスを利用し、限界点を迎えたらニーズに即して施設に移り住むというスムーズな流れも生まれるでしょう。

 ただ、地域包括ケアを実践するための仕組みづくりは、例えばNPO団体やボランティアがどれだけ協力してくれるのかなど、地区ごとに異なる環境に合わせて考える必要があります。人口が100万人の都市と3万人の都市では、提供できるサービスがおのずと違ってくるはずです。それを現時点では、「自分たちで考えて欲しい」とばかりに丸投げしている感があり、自治体の混乱に拍車を掛けています。地域の事情を鑑みた策を果たして実行できるのか、自治体の力量が問われていると思います。

 地域包括ケアの課題を具体例に挙げてみますと、医療と介護の連携があります。これまでは高齢期になっても病気やケガで病院に通い長期入院もできましたが、今は病床再編により在院日数が短縮され、急性期病床自体も減らされる状況です。そのため、いかに入院期間を短くして地域に戻るのか、誰がそれをコントロールするのかが課題になってきます。

 病院にいる地域医療連携室のソーシャルワーカー、介護側のケアマネジャーなどいろんな立場の人が連携し、患者目線で、各人に合った住まい、サービスを突き詰めて考えないといけません。自宅に戻るならそれに適したサービスを受けられるようにし、施設に入らなければならないのであれば、適切な施設を紹介するというように。しかし、現時点ではその連携はうまくできていないのです。

 とりわけお互いの顔が見えない大都市ほどその傾向は顕著で、むしろ中小病院や診療所、介護事業所がそこそこあり、お互いの顔が見えやすい地方都市や小都市の方が連携が図りやすいように思います。いずれにしろ重要なのは、もう少し政府が道筋をしっかり示すことが求められます。それができれば、うまく循環する地域包括ケアが実現するのです。

 繰り返しになりますが、中小零細の事業所を中心に介護業界の経営は厳しく、今後も、地域包括ケアが実現しない限り役割分担も明確にならず、業界全体が混迷を迎えてしまうということになりかねないという危機感を持っています。(次回に続く

取材・文:M&A Online編集部