エンジニア出身起業家が陥りがちな点

冒頭で述べた「エンジニア出身起業家」のが陥りがちな点は、このSCNが示す2つの関係性のうち「縦の関係性」に思いが至らないということに尽きます。エンジニア出身起業家は、自身の技術について絶対的な自信を持っています。このことは本当に素晴らしいことです。

しかし、ともすればそれが盲目的な技術価値信仰になり、それがどういう価値を生み、だれのどのような悩みを解決するか、いくら聞いてもよくわからない、ということがあります。これは少なくなくともビジネスをやろうとするのであればあり得ないことです。ビジネスとは、どのような領域であっても、誰かの課題や悩みを解決して、それによって対価を得る活動だからです。

そんなばかな、最近の起業家でそんな人いない、という指摘も聞こえそうです。しかし、実はこれは起業家側だけで見られる現象ではありません。「ブロックチェーン」しかり「AI」しかり、優れた技術はいつの時代も過剰な期待を生み、それがもたらす価値がよくわからないまま、注目度ばかりが先行することはいまでもよくあります。そして、数年してその期待値が修正されるということが社会全体で繰り返されています。

このような現象は、よく「ハイプカーブ」という考え方で表現されます。私は技術とそれが実現する価値の間に生じる期待ギャップとその修正の繰り返しを表すものと理解しています。もちろん期待外れで終わるものもありますが、クラウドのようにハイプカーブを経てキャズムを大きく超え、地殻変動をもたらす技術もあります。

まんぺいさんは80枚の鉄板を見て塩をつくることを思いついた(ネタバレ注意)

SCNの考え方をより端的に説明するために、ひとつの事例として、日清食品を一代で築いた天才起業家、安藤百福氏をモデルとした朝ドラ「まんぷく」のエピソードを取り上げてみます。私も「マッサン」以来、久しぶりにこの「まんぷく」に夢中です。最初は安藤サクラさん演じる「ふくちゃん」の個性的な魅力に取りつかれていました。しかし最近は夫のまんぺいさんのあじわい深さにもドはまりしています。

先日の放送で、大阪の泉大津に引っ越したまんぺいさんは、中になにがあるかもわからずに買い取った倉庫の中で80枚の鉄板を発見します。そして、これでなにができるかと悩みます。そして、家族との外出がきっかけでその鉄板を使って塩をつくることをおもいたちます。

これは、SCNの考え方でいうなら、鉄板という「実現手段」が先にあって「世間で足りない塩をつくる」という提供価値を結び付けたケースといえます。SCNの関係性のひとつとして前述した、「実現手段と提供価値の因果関係」が、彼の中で結びついたといえます。

このように、「実現手段」からビジネスを思いつくこと自体はよくあること(というよりむしろそちらの方が一般的かも知れません )です。本コラムの趣旨も「技術からビジネスを発想することが間違い」ということでは決してありません。しかし、まんぺいさんが起業家として偉大なのは技術的知見や能力がありつつも、常に「ヨノナカの課題を解決する」ことが発明家としての前提にあるところです。逆に、どんな優れた技術者でも「社会課題やヨノナカに対する関心」が本質的にないのであれば、起業家になるべきではないと私は考えます。