厚労省、金融機関の「M&Aアドバイザー」に裁量労働制適用か

※この記事は公開から1年以上経っています。
alt
厚生労働省

銀行と証券会社で働く「M&Aアドバイザー」に裁量労働制を適用すべきか

M&A活発化を受け経団連が要望

厚生労働省は近く、銀行と証券会社で働く「M&Aアドバイザー」に裁量労働制を適用すべきかどうかの方針を取りまとめる。コロナ禍の長期化などに伴う経営環境の悪化で事業再編などが進み、M&Aアドバイザーのニーズも増す中、経済団体連合会(経団連)が「業務を適切に遂行するには、労働者の裁量にゆだねる必要がある」として適用を求めている。

M&A戦略策定支援や対象企業・事業選定などに従事

M&Aの目的達成に向けては対象企業・事業の選定から交渉、契約締結までのプロセスの進捗を適切に管理する必要がある。M&Aアドバイザーは他社のM&Aの補佐や進捗管理を請け負う立場で、M&Aを検討する企業への相談対応やM&A戦略などの策定支援、M&A対象企業・事業の選定が主な業務となる。

裁量労働制の範囲拡大は今夏から、厚労省が所管する労働政策審議会の労働条件分科会で論議されている。金融機関のM&Aアドバイザーへの適用を要望する理由について、経団連の委員は「M&Aの戦略づくりや取引スキーム考案、売り手企業のデューデリジェンスを行う工程などでは基本的に裁量をもって働いている」などと説明している。

M&Aアドバイザーは狭き門 有効求人倍率は東京で0.21倍

厚労省によると、M&AアドバイザーとM&Aマネージャー/コンサルタントが属する「その他の経営・金融・保険の専門的職業」の就業者数は6万3,810人(2015年国勢調査)に上る。2021年賃金構造基本統計調査に基づく平均年収は1029.5万円(平均年齢40.4歳)だが、2021年度の有効求人倍率は全国で0.47倍、東京都では0.21倍の狭き門となっている。

その他の経営・金融・保険の専門的職業」の就業者統計データ(M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント/M&Aアドバイザーが属する主な職業分類)
厚生労働省 職業情報提供サイトよりM&A Online編集部作成

経営側は雇用環境の向上に期待

原材料価格の高騰や急激な円安のダメージを負った企業がM&Aでの売却を模索する動きは加速するとみられる。こうした中、経営者側にとって人件費のコスト管理をしやすい裁量労働制がM&Aアドバイザーに適用されれば、雇用環境が向上して採用が活発化することも期待される。裁量労働制の対象業種を追加する場合は、省令改正のみで対応できる。

労働者側は「正確な労働時間が把握されない」と反対

ただ、分科会では労働者側の委員から「正確な労働時間が把握されない事案が増えるのではないか」との懸念も上がっている。「労働時間と成果が必ずしも連関しないM&Aアドバイザーの業務は、スキル・専門性や成果に対して賃金を支払う考え方が検討されるべき」とする経営者側の主張と真っ向から対立しており、厚労省の判断が注目される。

裁量労働制の対象はシステムエンジニアやデザイナー、建築士など19業種。厚労省の実態調査データの不備で、対象拡大は2018年成立の働き方改革関連法案から全面削除されたが、厚労省が2022年7月に公表した「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書に対象範囲の検討が明記されたのを機に、分科会での議論が活発化した。

<裁量労働制>労働基準法に基づくみなし労働時間制のひとつ。実働時間に関係なく、あらかじめ労使間で定めた時間分が労働時間とみなされる。事業内容の例を示した「企画業務型」と19業種の「専門業務型」があり、業務遂行の手段や方法、時間配分などを労働者の裁量にゆだねる必要があるとされた業務に適用されている。

文:M&A Online編集部

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5