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スマートシティは実装段階へ——データ活用によるスマートな街づくり

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スマートシティの必要性が高まる背景

国土交通省は、スマートシティを「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義しています。世界共通の都市の問題として、交通、エネルギー、環境、治安、衛生、災害などが挙げられますが、日本では少子高齢化と人口減少、インフラ設備の老朽化なども加わります。2010年代からビッグデータ解析による実証が行われてきましたが、テクノロジーの進展とともにスマートシティの取り組みは加速しており、現在では実装を目指す段階に入ったといえます。

スマートシティのタイプと日本の事例

スマートシティは「グリーンフィールド型」「ブラウンフィールド型」の2つのタイプに分けられます。グリーンフィールド型は未整備の土地に新たな街を築くこと、ブラウンフィールド型は既存の街をアップデートしてスマートシティ化することを指します。

グリーンフィールド型は、海外では中国などでゼロから街を作り上げる事例も見られますが、国内ではトヨタ自動車が静岡県裾野市で建設しているWoven City、大阪の夢洲地区などが該当します。日本では今ある街の課題解決を目指すブラウンフィールド型が主流です。デロイト トーマツグループが支援する東京都や前橋市のスマートシティの取り組みはブラウンフィールド型に相当します。

さらに、対象地域が行政区画単位/東京の大丸有(大手町・丸の内・有楽町)のようなエリア単位、実施主体が自治体/企業などの違いもありますが、総称してスマートシティと呼ばれています。

スマートシティ実現のカギを握るデータ活用と実装に向けた課題

上述のように解決すべき課題は多岐にわたり、データ活用が都市のスマート化と運営のカギを握ります。行政データ、交通データ、水位や気象などの災害関連データ、購買や人流といった地域経済関連データなどを横断的に収集・分析し、都市計画や整備において新たなサービスの創出や既存サービスの向上を目指す構想です。

データ利活用型スマートシティの基本構想
出所:令和2年版情報通信白書(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/index.html)、p455、総務省、2020年8月

ただし、スマートシティをビジネスの観点で見たときに考慮すべきはマネタイズです。公共的な街だけあって課金しにくい領域が多く、また日本は人口減少が進み財政が厳しい中で、イニシャルコスト、ランニングコストを補助金と住民らが負担するサービス料で賄うのが難しいのです。特に地方のスマートシティ化においては、維持困難な公共交通に替わる交通手段の提供などモビリティ領域のニーズが多い傾向が見られますが、モビリティサービス(MaaS)の事業者がビジネスモデルの構築に苦戦しているのが実態です。

本稿では、期待が高まる一方で一筋縄ではいかないスマートシティに取り組む意欲的なスタートアップ、scheme verge株式会社を紹介します。同社はデロイト トーマツ ベンチャーサポートが主催するピッチイベントMorning Pitchに登壇しました。

scheme verge:データに基づく意思決定で都市の価値を引き上げる

嶂南 達貴氏

Scheme verge株式会社
CEO

2015年に東京大学工学部を卒業後、同大学院で先端技術を活用した都市計画を研究。2016年より内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP-adus)における社会受容性調査に参画し、自動運転及びプラットフォーム戦略の展開を踏まえた自律分散型都市を構想。多様な知の結集が必要と考え、各分野から創業メンバーを集め、scheme verge株式会社を設立。

scheme verge(スキーム バージ)は、2018年に嶂南(やまなみ)達貴氏が設立しました。代表的なソリューションは、アプリでの交通の予約や決済、AIによるレコメンド、周遊パス、クーポン配布、アプリ利用者のデータ収集・分析などを行えるデータ連携基盤Horaiです。2019年の瀬戸内国際芸術祭に併せてスタートし、各地で利用されている実績を有します。

嶂南氏は「魅力的な街づくりを支援したいのです。病院とスーパーなど最低限のインフラだけでは十分ではありません。若者が楽しく生活できる場所があるか、外国人を受け入れる土壌があるかなど、様々な機能が必要になります。自動運転車の実証実験などスポットの技術導入ではなく、街の価値創出をビジネスモデルまで含めて構築する必要があります。そこに参画したい」と意気込みを語ります。

街の主要な構成要素は交通と建物です。データの取得しやすさなどからまず交通に着目しました。Horaiは陸(車、鉄道)、空(航空)、海(フェリー、海上タクシー)をまたがって予約や決済が可能で、利用や移動のデータを蓄積するプラットフォームへと進化しています。近年は建設会社やデベロッパーとの連携を強化し、都市開発領域への貢献を強化しています。一例として、2023年にはスマートビルを中心に行動履歴や人流データ解析を行うNEDOの検証事業に採択されました。モビリティと建物の双方のデータに対応可能な基盤を整備したうえで、それらのデータを掛け合わせてスマートシティにアプローチする計画とのことです。

マネタイズを前提として持続可能なビジネスを構築

嶂南氏は、「地方自治体の財源や補助金に依存するのでは持続可能性が乏しい」と指摘します。そのため、リゾート開発やエンターテイメント施設運営などエリア開発を行っている企業と連携し、利用者からのサービス料金徴収や施設の共益費への上乗せなどで、事業者がマネタイズできる仕組みを構築したい考えです。「例えばモビリティであれば、地方は生活費が安くなるかと思えば1人1台の自家用車やその維持費が高くつくこともあります。便利な交通サービスで住民も観光客も便利で事業者も儲かる、そういったモデルを作りたい」と言います。観光客や別荘地の居住者が夜食事などに出かける目的であれば、利益が得られる利用料金額を設定できるでしょう。マイナンバーカードで認証することで住民向けには低価格にすることも可能です。

国内外のグリーンフィールド型スマートシティへの参画に意欲

scheme vergeは、今年SusHi Tech Tokyo 2024 Global Startup Programに出展しました。嶂南氏は、「海外からの来場者からも街づくりの相談を受けたことに手応えを感じました。展示ブースでは、海外に向けて『2030年以降、東京を超える都市になりませんか』というメッセージを打ち出しました。ASEANやインド、アフリカなどに東京と並ぶ規模のメガシティ型スマートシティの機会が生まれるかもしれません」とイベントを振り返ります。創業当時から、自由度が高いグリーンフィールド型スマートシティに関心を持っており、新興国にはそのチャンスが多いと見ています。瀬戸内芸術祭での実績もグローバルな観光地・リゾート地での経験と位置付け、世界の街づくりを視野に入れて事業を進めていく考えです。

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