関西鉄道網の競争激化でうごめくJR包囲網

 しかし、阪急、阪神の経営統合には、もう一つ重要な要因があるように思われる。

 バブル経済崩壊後の景気の低迷と沿線人口の減少、さらにJR西日本の参入によって、京阪神地区の私鉄の競争は激化していた。とりわけ、JR西日本は京阪神地区をアーバンネットワークと位置づけ、新快速電車の整備、新製車両の投入などによって競争力を強化した。

 その結果、京阪・阪急・阪神・南海・近鉄の五大私鉄が軒並みシェアを低下させ、JR西日本のシェアだけが拡大していた。ちなみに、JR西日本が誕生した1987年度と2006年度とを比較すると、JR西日本のシェアは25.0%から33.6%へと拡大しているのに対して、阪急は23.5%から21.0%、阪神は6.7%から5.7%へとシェアを低下させている。京阪神地区での都市圏輸送では、JR西日本の一人勝ちという状況が続いていたのである。

 阪急電鉄と阪神電鉄は、大阪~神戸間でJR西日本と競合していたが、神戸電鉄は阪急HDの関連会社であり、山陽電気鉄道は阪神電鉄の関連会社である。したがって、これら4社も出資をしている神戸高速鉄道(神戸市は、2009年に同市が保有する神戸高速鉄道の株式を阪急・阪神HDに譲渡した)を含めると、阪急と阪神の経営統合によって京都から姫路までの5社を関連会社化することができ、JR西日本に対する強力な対抗軸になると考えられたのである。

 また、2009年3月20日には阪神難波線の西九条~大阪難波間が開通し、近鉄や南海電鉄とも路線がつながり、私鉄のネットワークが拡大した。

 このように、阪神と阪急の経営統合にはJR包囲網の構築という意図があったように思われる。その意味では、JRの誕生が長年のライバルであった阪急と阪神の経営統合を促したともいえる。

 不動産、百貨店、ホテルなどの事業でも経営統合の効果は考えられる。それらを含めた統合の成果や課題は追々振り返ってみたい。今回は鉄道事業に焦点をあててみた。

文:老川 慶喜(跡見学園女子大学教授)