ご注意ください
この記事は公開から1年以上経っています。掲載されている情報は、公開当時のものです。

間違いだらけのコーポレートガバナンス(企業統治)

alt

議論の出発点を正しく設定する

それは、私の考えでは以下のようになる。

「会社が株主のものであるという現行制度が、社会の経済的便益の最適化と最大化につながっているのか。」

法制度として、株式会社は株主のものであるという大前提に立った上で、この制度が社会の経済的便益の最適化や最大化に本当につながっているのか、これを考えることがコーポレートガバナンス論の正しい課題設定であるように思う。従って本稿では、これを前提として議論を進めたい。

さて、この課題設定をした場合、次に定義すべきは、「社会経済便益の最適化、最大化」とはなにか、という点である。ここでは、経済学の命題を一部援用しつつ、次のような要素が、社会経済便益を構成すると定義したい。

1.  経営者の不正防止と業務推進への動機づけ
2.  最適な経済資源配分と分配(所得格差、地域格差の最小化)
3.  成長とイノベーション(革新の推進と富の総量の拡大)

最初に結論を書こう。

1.「コーポレートガバナンスの強化は、経営者の不正防止と事業への忠実な貢献(善管注意義務と忠実義務の遂行)につながるか。」

コーポレートガバナンスが達成すべき最も重要な目的のひとつは、経営者の監視である。この点において、1株1議決権を基本とする現代の企業統治構造は一定程度有効に機能するし、所有と経営が高度に分離した大企業においては特に重要であることは言うまでもない。「人の金を使って事業をする。」以上、忠実に励み、報告することはある意味当然だ。本稿はこの点において既存のコーポレートガバナンス論に異を唱えるものでは全くない。しかし、強いていうならば、株主の利益と経営者の利益を無理に一致させようとする取り組みが過度に進むと、逆に経営者の不正を生む温床になり得ることもあると考える。

2.「コーポレートガバナンスを突き詰めたら最適な資源配分と分配は実現できるか」

一株1議決権の精神を突き詰めて、コーポレートガバナンスコードの徹底をしたら、社会の所得格差や地域格差、世代間格差は縮小するだろうか。答えは当然NOだ。これは、ある意味あたり前だ。そもそも、社員(株主)の利益を最大化するために作られた株式会社という仕組みは、16世紀に宗主国が植民地から効率的に富を集積させるために作られたツールである。社員(株主)に富(植民地からのアガリ)を効率的に集積させるために作った制度が、富や資源の社会的な最適配分を実現するなどというのはそれ自体が論理矛盾であり、あり得ない。しかし、なぜか世間ではしばしばそのような議論が散見される。これは「使用人」のことを「社員」と呼ぶような誤魔化しのひとつにすぎない。

3.「株式会社は成長とイノベーションを生むのか。」

株式会社の仕組みこそ、社会の成長とイノベーションを生む原動力であると、皆が固く信じている。では、1株1議決権の精神に基づいてコーポレートガバナンスをどんどん強化したらイノベーションは促進されるのか。一部には真剣にそう信じている人もいる。しかし、はっきりいってこれも間違いだ。

但し、ここでいう株式会社とは、東証一部上場企業に代表されるような、所有と経営が高度に分離した大企業を想定している。つまり、コーポレートガバナンスを強化したところで、その効果で大企業が驚異的な急成長をしたり、驚くようなイノベーションを生むことはない、というのが本稿の主張だ。 

このように書くと、GAFAのような真にイノベーティブな株式会社もあるではないか、という反論が即座にくるだろう。しかし、GAFAに代表されるような真に破壊的でイノベーティブな米国の新興企業は、伝統的な一株1議決権ロジックに公然と反旗を翻している。具体的な制度としてはDual Class(複数議決権株式)の議論になるが、これは今後のコラムで詳細を述べてみたい。

文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)

西澤 龍 (にしざわ・りゅう)

IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー

投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員

コラムに関する質問・問い合わせ・弊社サービスに関するご相談は、以下にご連絡ください。
ignite.info@ignitepartners.jp


NEXT STORY

経済産業省「グループガバナンスガイドライン」に見る 事業ポートフォリオマネジメントの考え方