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アップルカーの開発中止で「EVから撤退」と考えるのは早計

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EV開発の中止を決めたアップルのティム・クックCEO(Photo By Reuters)

米アップルが10年にわたって取り組んできた電気自動車(EV)開発が中止になったと、米メディアが伝えている。市場が急拡大している人工知能(AI)に注力するための「選択と集中」に伴う措置という。だが、これでアップルがEVから撤退すると見るのは早計だ。

EV普及にブレーキ、本当に「撤退」なのか?

EV開発にかかわる約2000人の従業員の大半がAI部門に移ることから、アップルがEVに見切りをつけたとの見方がもっぱら。米EV最大手のテスラを率いるイーロン・マスクCEOは直接言及はしていないものの、X(旧ツイッター)で米メディアの報道を引用して「敬礼」を表す絵文字を添えるなど、早くも「歓迎モード」だ。

アップルはEV撤退についてコメントしていないが、現地報道はその背景にEV市場の鈍化があると見ている。ブルームバーグ・インテリジェンスの予測によると、EVの販売台数は過去3年間で年率65%も急成長したが、2024年は9%の伸びにとどまりそうだという。

販売をテコ入れするため、テスラは25%もの大幅値下げを断行。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなどの大手自動車メーカーも、EV生産に向けた投資を軒並み先送りしている。アップルでも、こうした「逆風」がEV開発のブレーキになったというわけだ。

しかし、アップルがEVから撤退したと判断するに足る材料がないのも事実。2014年の「プロジェクト・タイタン」の開始以来、一般に「アップルカー」と呼ばれていたEVの開発は何度も「中止」と「再開」が報じられてきた。いずれも今回同様、アップルはコメントしていない。つまり今回のプロジェクト解散も、これまでのような一時的な「休止」なのか、完全な「撤退」なのか、現段階では不明だ。

アップルと自動車メーカーではビジネスモデルが違う

もう一つ注意したいのは、アップルは既存製品だけでなくEVも自社工場を持たないファブレスで対応する点だ。2021年に韓国現代自動車とアップルカーの生産委託に向けて協議中だと報道されたほか、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン、ホンダ、フォード、中国・吉利汽車などとも交渉していると伝えられた。

自前の巨額設備投資は必要なく、アップルが思い立てば直ちにEV開発が再開できることに留意しておくべきだ。アップルのEV開発も自動車メーカーとは違うはずだ。ボディーやモーター、バッテリーといったハードウエアは外注で、自社で手がけるのはデザインやソフトウエアとなる。iPhoneやiPad、Macなどの開発と同じことだ。

EV開発者の大半がAI部門に異動することからも、ソフトウエア開発が中心だったことが分かる。AI開発が一段落したら、EV開発に復帰することも十分に有り得る。

アップルカー最大の障壁は一時的な事業撤退ではなく、組み立てを請け負ってくれる自動車メーカー探しだろう。アップルは自社のデザインやスペックに徹底的にこだわる。アップルと取り引きがあるエレクトロニクス企業と違い、下請け経験のない「一国一城の主」の自動車メーカーには「無理難題」と受け取られかねない。事実、アップルカーの生産委託先探しは難航したと伝えられていた。

だが、それも大した問題ではないかもしれない。アップルは610億ドル(約9兆2000億円)もの手元資金がある。例えば中国の高級EVメーカーとして知られる上海蔚来汽車(NIO)の時価総額は119億5610万ドル(1兆8000億円)なので、子会社化するのに十分な資金力を持つ。自動車メーカーの協力を得られないのであれば、買収すれば良いのだ。アップルカーが再起動する可能性は十分にある。

文:M&A Online

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