災害大国ニッポンと事業継続計画

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Image by Dirk Wouters from Pixabay

ビズサプリの辻です。

9月1日は関東大震災から100年の節目の日でした。そして9月6日は全道停電となった「ブラックアウト」の記憶も新しい北海道胆振東部地震からは5年という日でした。

日本は地震だけでなく大変自然災害が多い国です。国土は世界の0.3%ですが、活火山の1割は日本にあり、マグニチュード6以上の地震は全体の6%(2012年~2021年の10年間)、台風の26%は日本に影響を与える。(2012年~2021年の10年間)という状況だそうです。(出典:関西電力株式会社 You‘s「レジリエントな日本」を考えるより抜粋)また、気候変動の影響でこの夏もゲリラ豪雨や線状降水帯などの発生により水害が多発しました。

自然災害が生じることはコントロールできるものでないため致し方がないことですので、私たちができる事は危機意識をもって備えることと、実際に災害が起きた際には正しく行動することぐらいです。

今日は、自然災害も含めた危機発生時の対応を定めた事業継続計画(BCP)について書きたいと思います。

1.BCPとは

BCPはBusiness Continuity Planの略で、日本語では事業継続計画のことです。企業などの組織が地震や水害などの自然災害、パンデミックやテロ、戦争などの緊急事態が生じた際に事業を早期復旧・継続するための計画のことで、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降に広く普及をしました。

日本では、経済産業省から「事業継続計画策定ガイドライン」が、内閣府から「事業継続ガイドライン」が公表されると共に、小売業、金融機関、商社、建設業、不動産業など業種別のガイドが数多く公表されています。また国際規格としてもISO22301があります。

このように作成に関しての参考となるフレームワークは多くありますが、実際に計画という「文書」を作っただけではなかなか機能をしない場合も多いのではないでしょうか。例えば東日本大震災の際は、多くの帰宅困難者に対して適切な指示を出せた会社は少なかったのではないでしょうか。

現に主要企業の9割が東日本大震災の際にBCPが使いづらかったということで見直しをしたとのことです。大混乱の中では難しい計画はとても機能せず、シンプルでわかりやすい、誰がいつ、何をするかが明確になっているものに変更するといった動きが多かったようです。

2.BCPの構成要素

BCP(事業継続計画)は、事業資産の損害を最小にとどめつつ、中核となる事業の継続と早期復旧を可能にするための
・平常時に行う活動
・緊急時における事業継続の方法や手段
を定めて置く計画です。(出典:中小企業庁 中小企業BCP策定指針)

平常時に行う活動とは、例えば普段から調達先を複数持っておくこと、本社機能のバックアップ機能をもっておくこと、業務を属人化させないことなどが考えられます。また緊急時における事業継続の方法や手段とは、緊急連絡網を整理することや、実際に避難をしたり復旧作業をしたりすることなどが考えられます。

BCPの特徴としては下記が挙げられます。
すべての事業ではなく、優先して継続・復旧すべき中核事業を特定すること
中核事業となったものについては、復旧時間の目標値を定めた上で、その阻害要因を洗い出し対応策を設定していき、緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客と予め協議するといったことが求められます。

中核業務については、自社(グループ)だけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰し、生産設備や仕入調達等の代替策を用意しておくこと
定期的に訓練を行ったり、実際に危機が発生した場合にはその収束後に改めてBCPの見直しを行ったりしてPDCAを回す必要があること
このように危機が生じる前の対策を中心とするような「防災計画」より広い概念で、防災計画も含む「危機後」の計画が含まれます。

3.BCPは何個も必要?

災害が生じると、「想定外」といった言葉がよく使われます。事業継続計画にも「想定外」が起こらないよう、一生懸命様々なリスクを考え、そのリスク毎に計画を立てていく必要があるのでしょうか。

そもそも事業継続計画はめったに起こることがない事象に対する計画のため、思いつくリスクのまま計画をたてて「地震用」「水害用」「火災用」「パンデミック用」とBCPが増えていくのは有効ではありません。

危機が起きるリスク要因は、台風、地震、パンデミック、戦争、テロ、サイバー攻撃、ストライキ、火災と様々ですが、その結果起こる事象はそれほどバリエーションがあるわけではありません。

・人員が不足する
・施設、設備が使えない
・ITが使えない
・重要な取引先が影響をうけた
・社会インフラが使えない(電力、水道など)
といったことに大まかに整理がつくと思います。

リスク要因となるシナリオ側からではなく、シナリオの結果生じる事象に基づいて計画を考えていくことで想定外を減らすことができます。(出典:有限責任監査法人トーマツ・デロイトトーマツリスクサービス著リスクインテリジェンスカンパニー/池田悦博著本当に使えるBCPはシンプルだった)

4.個人の行動も大切

多くのBCPの中で書かれることが「従業員や家族の安全が最優先」ということです。まずは自分自身や家族の安全が確保されてからこそ、企業のBCPが有効に実践できることになります。ところが最近水害や土砂災害で問題になるのが、警報などの情報が非難などの安全行動につながらないということです。人間には正常性バイアスがあるので、どうしても目の前で生じている状況を「大丈夫」と思ってしまいがちです。

これについては、「率先避難者を作る」「率先避難者になる」といったことが効果的だと言われています。率先避難者とは、東日本大震災の際に釜石東中学校の生徒を始め普段から訓練をしている子どもたちが率先して高台に逃げたことで、周囲の人にも同様の避難行動を促し、結果的に多くの命が救われたということで有名になった概念で、危険を察知して率先して動く人のことになります。

ただ、これも普段から意識していないとなかなか難しいものです。このための訓練方法として防災アドバイザーの方が推奨しているのが「ファースト拍手」だそうです。会議やイベントなどで「拍手したほうがよいかな」と思ったときに真っ先に拍手するということだそうです。(高荷智也氏「今日から始める災害対策」より)

文:辻さちえ(公認会計士・公認不正検査士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.179 2023.9.7)より転載

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