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「のれん」を考える

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3.自己創設のれん

「のれん」はM&Aの時しか計上しません。自社で自社の価値を算定して計上する「自己創設のれん」は、会計上は認められていません。なぜでしょうか。

「のれん」の金額を自ら見積るということは、自社の将来の収益力を金額換算することと同じです。これでは経営者のお手盛りが避けられません。算定方法も複数あるため、どの数字が正しいのか分からなくなります。これが自己創設のれんが禁じられる一般的な理由とされています。

 でも、それ以上に重要な理由は、会社と投資家の役割分担にあると私は思っています。

 上場企業であれば、企業の収益力は株価総額という形で市場が評価します。この場合、自己創設のれんは株価総額と純資産の差額になります。

 つまり、財務諸表から企業の将来の収益力を予測するのは投資家の役割であり、自己創設のれんの価値をどう考えるかは、財務諸表の作り手ではなく、使い手の役割と言えるのではないでしょうか。

 このように考えると、自己創設のれんは「載せても意味が無いし、そもそも財務諸表の作り手のやることではない」ために計上しないという理屈になります。

4.開示の充実と自己創設のれん

 自己創設のれんは、財務諸表に載っていないものの、非常に重要性のあるものです。企業が自社のブランドをどう育て、それをもって将来どれくらい収益を獲得するかは、投資家の最大の関心事とさえ言えます。

 そこで、会計上では自己創設のれんを計上できなくても、会計以外の情報も交えて有用な情報を提供することは盛んに行われています。

 有価証券報告書には財務情報以外にも従業員や設備など多様な情報が記載されています。IFRSでは財務諸表の本表以上に注記情報が充実する傾向があります。

 ある意味で究極の形が統合報告といわれるもので、企業の収益性や成長性を様々なステークホルダーとの関係からアピールしていきます。環境への対応や社会的責任をきちんと果たす企業は長期に渡って成長でき、自己創設のれんも大きいというわけです。

 このように、自己創設のれんが計上できないことと非財務情報の開示の充実はある意味で表裏の関係にあると言えます。財務諸表には計上できない、けれども重要な自己創設のれんをどう表現するか、今も試行錯誤が続いています。

文:株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.006 2015.06.17)より転載

三木 孝則

株式会社ビズサプリ CEO 公認会計士
学歴:1998年 東京大学経済学部経営学科卒業
職歴:1997年10月より青山監査法人に5年勤務。多様な業種(製造業、サービス業、ホテル業、保険業等)における財務諸表監査(日本基準、米国基準、IAS(現IFRS)等)を経験する。
その他、システム監査やデューデリジェンスにも従事。 その後、2003年1月から監査法人トーマツに転職し、エンタープライズリスクサービス部にて7年9カ月勤務。国内外の企業の内部監査や内部統制の導入コンサルティングやコソーシング、リスクマネジメント、システムに関わる業務改善等に主任として従事。また、一連のテーマに関する社内外のセミナー講師や機関紙の執筆等に関わる。専門家としてのコンサルテーションのみならず、複雑な環境下でのプロジェクトマネジメントや改善策の導入支援に強みを持つ。
2010年10月より独立し、株式会社ビズサプリを設立。IFRS導入支援やIPO支援等のコンサルティングを展開しつつ、現在に至る。
資格:公認会計士、公認内部監査人(CIA)、公認情報システム監査人(CISA)、TOEIC900点
著書:•統制環境読本(翔泳社)•IFRS決算書分析術(阪急コミュニケーションズ)•ビジネスモデル分析術(阪急コミュニケーションズ)


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