本気で変えたいなら、制度(会社法)を変えるべき

このコラムは、「どのような成果の分配が社会的に最適なのか」について述べることを目的としたものではない。筆者自身に関して言えば「独立」という大きなリスクを取って挑戦しているのに、サラリーマン時代の給与水準程度の成果しか得られないなら、それはやはり残念ながら失敗だと捉える。

しかし、日本でも深刻化している貧困問題や行き過ぎた格差が、社会をより本質的に不安定にするものであるならば、その解決策は「ポエム的」株式会社論ではなく、会社法及びそれに関連する法律(税法を含む)の改正でなくてはならない。

例えば、非正規労働者の低賃金はやはり非常に深刻な問題だろう。これを制度的に手当てするならば、税引き前当期純利益の10%を、その企業の非正規労働者に分配する制度はどうだろうか。「経営資源の最適配分」ではなく「成果の分配」について制度変更するアイデアである。もちろんこの10%は損金算入されるし、配当可能利益からも控除される。「利益は100%株主のもの」という制度を変更するのである。

もちろんこれはただのアイデアにすぎない。メキシコにはPTU(労働者利益分配金)という類似する制度があるが、同制度がメキシコ経済の安定化に本当に貢献しているかは不明である。利益を源泉として分配するといっても、そもそも日本の法人はほとんどが未上場の中小零細であり、利益が出ている法人そのものが少ない。あくまでこれは考え方の一つに過ぎない。本稿の趣旨は「本気で変えたいならポエム的議論ではなくて制度(会社法)を変えるべき」ということだ。

株式会社に関する現行制度の中で、このような成果の分配について、うまく機能しているもののひとつは、スタートアップの役職員向けのストックオプションである。スタートアップというリスクの高い環境に、「使用人」または「雇われ経営者」としてその人生をコミットしてくれる人に対して、将来の株式に対する権利という形で株主と利害が一致するような報酬制度を設計するのは合理的である。

起業家は、こうした制度を最大限有効活用して、信頼できるチームと共に大きな冒険をするべきだと思う。(ただし、前回のコラムでも述べたように、上場会社の株価連動型の様々な報酬にはスタートアップ向けの税制適格ストックオプションとはまた異なるリスクも多いと感じている)

今回のコラムでは、株式会社は、経営資源の最適配分は実現し得るが、成果の最適分配はそもそも目的としていないということを書いた。あえて言ってしまうなら、株主が発行体(資金調達する主体、ここでは企業)をより適正に「ガバナンス」する仕組みを強化していけば、格差は広がることはあっても縮まることはない。

次回は、今回の連載コラムでも中心となるテーマ「株式会社は成長やイノベーションを実現するのか」について書いてみたい。これについて考えるためには、株式会社の歴史について少しひも解く必要があると考えている。

文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)