『言志四録』の魅力は、心にすっと届くような短い文章にある。そこで、1巻目から比較的短い言葉を中心に選んでみた。佐藤一斎の言葉は説教くさく感じることもあるが、江戸末期の困難な時代に、これだけの言葉を後世に残そうとした強い気持ちを感じる。
コロナ禍をはじめ、現在起きていることを見ると、人類史上でも大きな節目となる転換期なのかもしれない。このような節目は一種の苦だが、同時に貴重な体験であり、自らもこの変化に積極的に関わっていく姿勢も必要である。その時、求められる心のあり方とは?
佐藤一斎の『言志耋録』のはしがきに「私は今年で80歳…中略…息をしている限り学ぶことをやめてはいけない。一条ずつ執筆して本書を編んだ。これを耋録とする」と記した。その死生観に『言志四録』を愛読し、49歳で早逝した西郷隆盛は何を見たのか。
佐藤一斎は難しい仕事に向かうとき、正しい判断をするために心を整えておくことを重視した。そのとき、忘れてはならないのは「不安」。リーダーの勇気として不安にどう対峙し、克己しなければならないか。西郷隆盛が選んだ言葉とともに、勇気のあり方を探る。
『言志四録』から101条を抜き出し、「南州手抄言志録」として活用した西郷隆盛。その101条の内訳は『言志晩録』が最も多く、政治家だけではなく、経営者、起業家などにも好まれる言葉が多い。その中から、今回は「克己」という言葉を見ていこう。