ペット可物件でもマーケティングリサーチが十分でないものが多いと、木津氏は指摘する。
「多くの大家さんや不動産業者は、『ペット=犬』と思い込みがち。一人暮らしのペット可物件は20㎡ほどの広さで小型犬1匹までというところが多く、ネコの場合も同じように1匹までとされるケースがほとんどです。ですが、ネコは多産なため、1匹で飼っているという人はほとんどいなく、2匹以上で飼っているという人が60%以上です」(木津氏)
色々とネコやネコを飼っている人たちについて調べていくうちに、日本でネコを飼っている人は圧倒的に40代以上女性が多いということが分かった。
「そもそもネコをペットショップで買う人は少ないんです。ネコは多産で野良猫も多いので、拾ったり、保護したり、もらい受けたりするケースが一番多い。なぜネコを飼っている人に40代以上の女性が多いのかというと、子どもが捨て猫を拾ってくるからです。そういう人たちはほぼ一軒家に住んでいます。」(木津氏)
一方で、賃貸物件を借りてくれるような20代、30代の女性でネコを飼っている人は全体の4%ほどしかいないそうだ。そのパイの少なさからネコ専用アパートには企業は手を出しにくかったのだろうと考察する。では、なぜ若い女性はネコを飼わないのか。その大きな理由は次の2つだと木津氏は分析する。
【1】現在住んでいる物件がペット不可
【2】旅行に行けない
2011年に完成したマイホーム「Gatos Apartment」は、この2つのネガティブ要素に加え、自身が一人暮らしをしていた頃に感じていた不満も解消できる物件にしたいと考えたという。
「一人暮らしをしていた時、隣人や上下のフロアの人たちがどんな人なのか知らないし、挨拶もほとんどなく、殺伐とした雰囲気でした。しかも、オーナーの顔もわからないことが多かったですね」(木津氏)
そこで、「Gatos Apartment」ではネコという共通項があることもあり、大家である木津氏の家で入居者のウェルカムパーティーやフェアウェルパーティーをしているという。パーティーで入居者同士が顔を合わせることで、防犯的にも安心感につながるとともに、お互いに対して寛容になれる。さらには信頼関係を構築し、隣人にネコの世話を頼んで旅行にも行けるという嬉しい効果もあるという。
「ネコを預ける方は、信頼できてネコの扱いがよくわかっている“ネコリテラシー”の高い人に安心して預けられる。でも実はこれ、Win-Winの関係なんです。ネコ好きは突き詰めるとどんなネコでも好きという人が多い。お世話をお願いされると、義務感というよりは自分のネコ以外のネコと遊べるチャンスとばかりに積極的にお世話しています(笑)」(木津氏)
2階が自宅、1階の2部屋が賃貸という「Gatos Apartment」は現在20人待ちだという。その99%が20~40代の一人暮らしの女性で、中には3年も待っている人も。
「ネコが飼える物件を増やしたというハードウェア的な側面と、20代、30代の女性がネコを飼えない理由を払拭したというソフトウェア的側面の2つが、ネコ専用アパートがビジネスとして成立したキーポイントだと思います」(木津氏)
「ネコを飼っている・飼いたい」という人が抱えている問題の認識と、それらを解決する策を考えることで、ビジネスが創出された。木津氏が「ネコを飼っている・飼いたい」という当事者であったという部分も大きいが、人々が抱える困りごとを知るところに何かしらのビジネスチャンスが転がっているかもしれない。(次回につづく)
取材・文:M&A Online編集部
レコード会社でディレクターとして12年間従事したのち、IT系企業ヘ転職。2011年、保護した野良猫たちのためにネコ専用デザイナーズ・アパートメント「Gatos Apartment」を東京・杉並区高井戸に竣工。現在は、同アパートの経営だけでなく、ネコ専用賃貸物件のコンサルティング業務のほか、ネコに関する商品やWebサービスの開発、コラム執筆など多方面で活動している。