冒頭で申し上げたとおり、規模の大小問わず、会計事務所(税理士事務所)のM&Aは活発に行われています。しかし水面下で行われるため、一般的に公表されているM&A件数には反映されません。
会計事務所(税理士事務所)がM&Aを行う理由は、主に以下の4パターンに分類されます。
後継者不在型 | 後継者不在を理由に第三者へ譲渡 | |
救済型 | 経営再建を目的にグループ傘下に入る、あるいは救済合併される | |
人材獲得型 | 人材不足の解消を目的に買収・売却する。「アクハイアリング」ともいう | |
業界再編型 | 中堅どころの第2グループ群を中心とした業界再編 |
事業会社の手法(スキーム)で最も多いのは株式譲渡ですが、会計事務所(税理士事務所)のM&Aでは行いません。会計事務所(税理士事務所)は法人格ではないため、株式譲渡ではなく事業譲渡になります。また税理士法人は持分譲渡となります。
次に多いのが、合併です。合併とは2つ以上の法人を一つにまとめるM&Aの手法で、会計事務所(税理士事務所)の場合、3つの事務所が合併する場合などに採用されます。合併には、吸収合併と新設合併がありますが、既存の法人を主として合併する吸収合併の方が比較的よく行われます。しかしM&Aの現場では、企業文化や経営手法が異なる3つ以上の組織が一緒になることは難易度が高く、失敗するケースが多いともいわれています。
会計事務所(税理士事務所)のM&Aスキーム
売り手 | 買い手 | 対象 | 手法(スキーム) | 売り手の課税 | 買い手の課税 |
---|---|---|---|---|---|
個人 | 個人 | 事業 | 事業譲渡 | 雑所得 | 経費 |
個人 | 法人 | 事業 | 事業譲渡 | 雑所得 | 損金 |
法人 | 個人 | 出資持分 | 持分譲渡 | 譲渡分離課税 | 取得価額 |
法人 | 個人 | 事業 | 事業譲渡 | 損金または益金 | 経費 |
法人 | 法人 | 法人格 | 合併 | 損金または益金 | 損金 |
契約内容にもよりますが、競業避止義務違反となるため売却後新たに個人事務所を開いて税務業務を行うことができない場合があります。一部特定の顧問先を引き継ぐ予定(希望)がある場合は、M&A実行前に取り決めをするなど、譲渡先と相談しましょう。
M&Aを進めるにあたって、当事務所がいくらで売却できるか、買収できるかは最も気になるところでしょう。
会計事務所(税理士事務所)の取引相場は、一般的に8掛け(売上高×0.8)が目安と言われていますが、実際の取引では売上高の2倍で売却されたケースもあります。
拠点や従業員数、提供するサービスの内容などによっても異なるため一概にいくらとは言えず、会計事務所(税理士事務所)のM&A相場はインターネットにも載っていない情報です。一般的にいくらで売買されていのるか、取引相場を知りたい方は、会計事務所(税理士事務所)のM&A実績が豊富な仲介会社やアドバイザーに聞いてみるとよいでしょう。
M&A仲介会社やアドバイザリー会社では、M&Aを検討される方向けに簡易版の企業価値算定をサービスで行っています。興味があれば一度算定してもらうとよいでしょう。ただし算定結果はあくまで譲渡対価の基準となる評価(目安)です。実際には売り手と買い手の双方が納得する価額で取引が成立します。
できるだけ高く売りたいと考える主観的な評価による売却希望価額と、事業活動の一環として行う客観的・合理的な評価に基づく買収希望価額の落としどころが、最終的な売買価額となるのは、税理士業界も同じです。
税理士業界はM&Aに対する抵抗感が強く、M&A件数は増加傾向にあるものの、取り組む余地はまだ十分にあるといえます。その理由が合併や買収により自身の看板が消えるのではないかという点です。地域で代々、税理士事務所を営んできた事業所も多く、顧客に不安を与えたくないと考える所長さんが多いようです。
しかし、結局のところ廃業を選択しても顧客に対する負荷は同じです。M&Aでは「看板を残す」ことを条件に交渉することができます。その結果、従業員の雇用も守られ、Win-Winを実現することが可能となります。
M&Aの要諦はたったひとつ、「タイミングを逃さないこと」につきます。
・手書きの申告書を作成している
・売上が落ち始めている
・体調に不安を感じている
・廃業する予定である
このような会計事務所・税理士事務所は、直ぐにM&Aを検討することをお勧めします。
文:M&A Online
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