会計事務所・税理士事務所の業務内容、公認会計士・税理士のM&Aでの役割を解説
会計事務所とは、公認会計士や税理士の資格を持つ専門家が、企業や個人の税務・会計に関するサービスを提供している事務所のことです。英語では「Accounting Firm(アカウンティングファーム)」といいます。
仕事内容は幅広く、税理士だけが行える税務代理業務に加え、中小企業の経理部の仕事を兼ねた会計代行、また株式公開支援・企業再編支援などのコンサルティング業務も含まれます。
会計事務所のトップは、会計の専門家である「公認会計士・税理士」の有資格者と税務の専門家である「税理士」の有資格者に分かれますが、ここでは税理士事務所も含めて扱います。
まるわかり業界研究では、最近増えている会計事務所(税理士事務所)のM&Aや業界再編が進む背景、M&Aディールで公認会計士・税理士が果たす役割などについて解説します。
少子高齢化が加速するなかで、経営者の多くが事業承継問題に頭を悩ませています。2017年に中小企業庁が公表した資料によると、中小企業の廃業急増により2025年頃までの10年間累計で、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると試算しました。
そこで国は事業承継を重要な政策課題と位置づけ、税制改正や第三者承継への支援を手厚く行った結果、現在は後継者問題が解消されつつあります。
2023年版中小企業白書(帝国データバンク調査)によると、2019年から2022年における後継者不在率の変化において、2021年以降、50歳代・60歳代における後継者不在率が低下し、一概にはいえないものの同年代において事業承継が進み、後継者不在による休廃業の動きを鈍らせた可能性があると分析しています。
事業承継を目的としたM&Aが広く認知されることで、第三者への承継は製造業などの業界・分野に限らず、これまであまり注目されてこなかった税理士業界でも増えています。
税理士事務所(会計事務所)のM&Aが増えている背景には、事業承継のほかに業界再編が活発になっているという側面もあります。
例えば国内最大手の辻・本郷税理士法人と税理士法人山田&パートナーズは、個人事務所が一般的だった2000年代に率先して買収・統合を繰り返し、規模拡大を進めました。
再編のきっかけとなったのは、平成13(2001)年の税理士法改正で事務所の法人化が可能となったことが背景にあります。というのも、税理士事務所は1カ所しか設置できないという規定があるのですが、法人化することで会計事務所も支店を設けるなど全国展開が可能となりました。
また、税理士業界は改正前には厳しい広告規制が行われていましたが、インターネット広告をはじめ、一定の制限を設けているものの広告内容も以前より自由に表現できるようになりました。従来は口コミや紹介に頼っていた税理士事務所(会計事務所)のビジネスモデルが変わり、顧客獲得をめぐるし烈な競争にさらされるようになります。その結果として生き残りをかけた業界再編が進み、合併や買収などのM&Aが活発に行われるようになりました。
税理士業界はIT化やDX化の流れを受けて、現在も再編が続いています。辻・本郷、山田&パートナーズに続く従業員数100人~300人規模の「準大手」と呼ばれる中堅の税理士法人がM&Aを積極的に行っており、税理士事務所(会計事務所)はまさに今が売り時となっています。
ここから先はしばらく、「会計事務所とは」「税理士事務所とは」について解説します。業界関係者の方は読み飛ばして「→リンク先」へお進みください。
日本標準産業分類によると、税理士事務所は「サービス業」の「学術研究、専門・技術サービス業」に分類されます。現在は調査区分が変更となったため、2017年と少し古い情報になりますが、「公認会計士事務所、税理士事務所」の市場規模は1.7兆円でした(総務省統計局、2018年)。
「公認会計士事務所、税理士事務所」とは、公認会計士や税理士の資格を持つ専門家が企業や個人の税務・会計に関するサービスを提供している事務所のことで、ひとまとめに「会計事務所」という場合もあります。
公認会計士事務所と税理士事務所を合計した事業所数は2016年時点で26,733と、2001年の33,717からの15年間で集約が進んでいることが見て取れます(経済センサスより)。なお会計事務所の数は、全国の郵便局の数(24,251、2023年3月31日時点)とほぼ同程度です。
会計事務所の所長(トップ)は、会計の専門家である公認会計士の有資格者と税務の専門家である税理士の有資格者に分かれます。公認会計士は税理士試験の免除制度を利用することで所定の研修を受ければ税理士の登録ができますが、税理士には公認会計士の免除制度はありません。
税理士法第40条2項は、「税理士が設けなければならない事務所は、税理士事務所と称する」と定めています。したがって、税理士が設立するすべての事務所の正式名称は「税理士事務所」であり、「会計事務所」はあくまで屋号であって俗称です。
つまり、税理士事務所と会計事務所は、名称が違っているだけで実質的な違いはなく、業務の性質は基本的に同じと考えてよいでしょう。
税理士がわざわざ「会計事務所」と名乗るのは、自分の事務所が税金関係以外の業務も担い、「会計・税務」両方の専門家であることを対外的に示し、他の純粋な税理士事務所とは異なることを強調するためと考えられます。
実際に税理士の事務所の多くは、税金に関する業務以外に、中小企業や小規模事業者の会計処理や決算書の作成、会計・経営のコンサルティングなどを請け負っています。自社サービスの門戸の広さをアピールするには、「税理士事務所」より「会計事務所」と名乗る方が得との計算意識が働いているようです。
会計事務所は、会計監査や関連コンサルティングサービスを展開する「監査法人」、主要都市などを拠点に税務業務を担う「税理士法人」、公認会計士や税理士が個人事業主として独立開業する地域密着型の「税理士事務所・個人事務所/監査事務所」、経理や人事業務を受託してサービスを提供する「アウトソーシング」の4種類に大別されます。
監査法人とは、公認会計士法に基づき、会計監査を目的として設立される法人です。設立には社員となる5人以上の公認会計士が必要ですが、監査法人でいう「社員」とは、株式会社でいえば取締役にあたり、業務執行についての権利と義務を負う立場です。なお「職員」は、従業員にあたります。
監査法人数は増加傾向にあり、2022年8月時点の法人数は全国で277、そのうち178が東京に立地しており、地域偏在の傾向がみられます。
監査法人の業務内容としてまずあげられるのが、公認会計士の独占業務である「監査業務」です。これは、公認会計士が企業の財務諸表の適正性を公正な立場からチェックし、内容に誤りや粉飾が無いことを保証する仕事です。
国内で上場する企業の監査の大半を引き受けているのは有限責任あずさ監査法人、EY新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、PwCあらた有限責任監査法人の4大監査法人で、BIG4(ビッグ・フォー)とも呼ばれます。
あずさ | EY | トーマツ | PwCあらた | |
人員数 | 6,295 | 5,154 | 7,534 | 2,892 |
公認会計士数 | 3,000 | 3,034 | 3,072 | 877 |
会計士比率 | 47.7% | 58.9% | 40.8% | 30.3% |
(各社公式ウェブサイトの公表値より作成 2023年5月12日時点)
ただし近年では、監査法人の交代件数の増加が続いており、大手を離れて準大手や中小の監査法人に乗り換える傾向が顕著です。
監査法人は監査業務のほかに、情報開示(ディスクロージャー)業務やアドバイザリー、コンサルティングなどの非監査業務も監査法人の大きな仕事です。公認会計士・監査審査会によると、準大手や中小監査法人では非監査業務収入の割合は約10%ですが、大手監査法人では25%程度で推移しています(モニタリングレポートより)。
税理士法人は、納税者の利便性のために税理士業務を組織的に行う、2人以上の税理士が共同で設立する法人です。主な業務は、税務代理、税務書類作成、納税相談です。
日本税理士会連合会(日税連)によると、税理士法人数は4,844で(2023年3月末)で、東京に1,448、近畿に837など全国展開している傾向が見られます。一方で、税理士法人の数は大小合わせても、開業税理士数(80,692)に比べて1割以下にとどまっています。
税理士法人の組織形態は、無限連帯責任社員で構成される会社法上の合名会社に準ずる特別法人にあたります。
図表 株式会社と持分会社の違い
株式会社 | 持分会社 | |
所有と経営 | 分離 | 一致 |
出資 | 株式 | 持分 |
出資者 | 株主 | 社員 |
出資者責任 | 有限責任 | 合同会社:有限責任 合資会社:有限責任と無限責任 合名会社:無限責任 |
かつて税理士は、「個人事務所を独立開業」もしくは「勤務税理士」という個人単位のみでした。しかし、税理士の業務が高度化・複雑化されたことに伴い、平成13(2001)年の第4次税理士法改正をきっかけとして、「税理士法人」の開業が許可されました。
税理士法人には、個人事務所に比べ、支店開設により事業を拡大したり、所得税ではなく法人税が課されることで上限税率が抑えられ節税効果を期待できるといったメリットがあります。また税理士法人は法人組織なので、代表税理士が死亡しても法人は存続します。デメリットは、登記など事務手続きの煩雑さやパートナーとの関係悪化のリスクなどです。
図表 税理士法人と税理士事務所の違い
税理士法人 |
税理士事務所 |
|
税金 | 法人税 |
所得税 |
数 | 4,844法人* |
26,695カ所** |
支店 | 展開可能 ○ |
展開不可 × |
代表者死亡時 | 継続可能 ○ |
継続不可 × |
業務 | 同一 |
*日税連(2023年)、**経済センサス(2016年)を基に作成
税理士事務所は、税理士が個人事業主として開業した個人事務所です。税理士免許を持つ者しか開業できず、「税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない。」という規定があります(税理士法40条3項)。
事務所は自分1人でも小回りが利く規模で開業コストも低いため、税理士法人に比べ全国各地に幅広く点在します。事業所数は約26,695で、約9割は従業員規模9人以下の零細事務所です(2016年経済センサスより)。
仕事内容は税務の代行である「税務代理」「税務書類作成」「納税相談」が中心になります。事務所所長が税理士資格を持っていれば、人を雇う必要もなく開業できるため、経営者の個性や得意領域を打ち出しやすいのも特徴です。
なお税理士の顧客は主に中小企業や個人事業主ですが、日本税理士会連合会によると税理士登録者数は80,692人(2023年3月末日)とこの20年間で約20%増加しました。さらに税理士法人の数も増加傾向が続いており、同じマーケットの顧客を奪い合う構図で、競争が激化しています。
ちなみに監査を実施する公認会計士の監査事務所も「個人事務所」に分類されます。なお公認会計士は、弁護士や税理士など他の士業と比べて組織に所属する傾向が強く、個人で開業している人の割合は小さいことがわかっています。
アウトソーシングとは、経理業務(会計データ入力、月次・年次決算など)をクライアントから受託してサービスを展開する業務です。アウトソーシング会社には、派遣型とリモート型の形態がありますが、どちらも発注側にとっては人件費や時間のコストを削減できたり、業務の見える化による作業効率が向上したり、プロによる高品質の確証が期待されるといったメリットがあります。
請負会社側も、海外への事業展開に強みを持ったり、AIやロボットを活用するなど、独自の強みと個性を打ち出しています。
税理士に経理をアウトソーシングすると、客観的な経営アドバイスを受けることができたり、節税につながる税務相談も可能です。特に企業の経理業務はデジタル化で大幅な効率化と自動化が進んでおり、発注側も請負側に対して、単なるアウトソーシングにとどまらず、より多様で高度な役割を期待するようになっています。
一般的な会計事務所では、「会計業務」「監査業務」「税務申告書の作成」を手がけています。
会計業務としては、事業所に代わって記帳を行うサービス「記帳代行」を主に行います。また、クライアントを定期巡回して「監査」を行います。さらに、公認会計士の有資格者であれば、会計事務所でも税務業務を行うことができます。その1つが税務申告で、決算書をもとに税務申告書を作成し、税務署に提出します。
「税務代理」は、税理士のみが行える独占業務の1つです。納税者の申告や税務調査などに関し、税務署に対して納税者の代理で主張や陳述をする仕事です。他方、「記帳代行」は、個人や会社が提出した領収書、請求書、伝票などに基づき、帳簿の記帳を代行する業務です。「記帳代行」は、独占業務以外の業務なので、税理士でなくても行うことができます。
しかし会計や経営は税務と深く関係しています。たとえば支出が交際費に該当するか否か、消費税の課税取引か否かなど、税務申告を想定して記帳する必要がある項目も多いのです。このような場面で、会計事務所に記帳代行を依頼していれば、延長上にある税務申告をふまえ、ワンストップでの記帳が期待できます。したがって記帳代行やコンサルティングも税理士が行うことが多いのが現状です。
所得税や法人税について、日本では「申告納税制度」を採用しており、税金を納税者自身が申告することで税額を確定し、そのうえで納税する仕組みです。これらの税務申告が正しく行われているかを調べるのが「税務調査」です。
税務調査は、原則として顧問税理士や会社に事前に連絡があり、日程調整をしてから行われます。納税者から依頼された税理士は、税務代理業務として、納税者の代理人を務め、税務署に申告したり税務調査の現場で税務署と折衝することができます。このときの税理士の折衝は、通常、実地調査の場に立ち会って行われるので、「税務調査の立ち会い」とよばれます。
税務署からの指摘を受けたら修正申告を行いますが、根拠や正当性があるという認識の時には、調査官に対して自分たちの申告内容の正当性を主張することが可能です。
「税務相談」は税理士の独占業務の1つです。税務官公署に対して申告や主張、陳述、申告書の作成を行うにあたり、税金についての計算の相談に乗る仕事です。
月に1度など決まった時期に行う月次決算においても、依頼を受けた税理士は、税理士業務に付随して、会計に関する様々な業務を行うことができます。例えば、財務諸表の作成、会計帳簿の作成や記帳代行、さらに経営コンサルティングや財務分析などです。
また、売上請求書、仕入や外注請求書、領収書など、事業内容に応じて必要な書類の作成、整理・保管についてアドバイスすることもできます。これらの申告書類は、会計ソフトの導入により、ほぼ自動的に仕訳や作成ができますが、専門的な税務知識が必要なことも多いので、税理士の助言を受ける方が、節税効果などを期待できる可能性が高く、効率的でもあります。
公認会計士は会計や監査の専門家で、税理士は税金計算や申告の専門家といえます。公認会計士は、監査した書類の内容の適正を公に証明する「監査業務」を独占業務とするのに対し、税理士の独占業務は、「税務代理業務」「税務書類の作成業務」「税務相談業務」です。
なお公認会計士登録人数は33,861人(2022年8月末日)ですが、税理士登録人数は80,692人(2023年3月末日)で、他の士業である弁護士数44,050人(2022年9月末日)、司法書士数22,907人(2022年4月1日)などに比べて突出しています。
公認会計士 | 33,861人(2022年8月) |
税理士 | 80,692人(2023年3月) |
弁護士 | 44,050人(2022年9月) |
司法書士 | 22,907人(2022年4月) |
行政書士 | 51,218人(2022年8月) |
公認会計士は会計と監査の専門家として、企業の財務諸表が適正に作成されているかを、有資格者として公正な立場でチェックし、内容に誤りや粉飾がないとのお墨付きを与えます。
また監査業務以外にも、コンサルティング業務として、クライアントが抱える悩みや問題点に対して、会計の専門知識を駆使して相談、助言を行います。その内訳としては、コンサルティング業務、M&Aアドバイザリー業務、企業再生アドバイザリー業務などで、民間企業から公的機関まで依頼の場面は広がっています。
なお公認会計士は、税理士資格も無試験で取得することが可能で、登録すれば税務業務を行うことができます。
日本公認会計士協会の登録者数は33,861人(2022年8月末日)で、20年前から約2.5倍増加しましたが、約58%を「東京」の会員が占めています。
公認会計士でBIG4の監査法人に勤務する者は10,000人程度ですが、会計士白書2019年度版によると、5年以内に約50%、10年以内に87%が退職し、コンサルティング会社や上場企業の経理部門に転職するか独立または起業しています。
税理士の独占業務として、「税務代理業務」「税務書類の作成業務」「税務相談業務」の3つが挙げられます。
税務代理業務とは、法律で定められた書類を期限までに税務署に提出する必要がある場合に、この書類を税理士が納税者に代わって提出する業務です。納税者が税務調査の対象となった際に、代理で税務署に主張する業務も含まれます。なお納税者の税務書類の作成は、納税者以外では税理士でなければ行えません。
税務署等に提出する申告書等を作成する場合には、納税額を計算する必要がありますが、算出のため納税者からの相談に対応できるのは、税理士に限られています。
これら独占業務のほかに任意で手がける業務には、記帳代行、経理指導(会計ソフト導入支援)、月次決算・月次コンサルティング、節税対策の提案、資金調達や事業承継のサポートなど多様です。
登録税理士数は約80,000人ですが、最も多い税理士の年齢層は60代となっており、25%近くが70代と80代を占めています。また税理士試験受験者数は、10年間で半減しました(日本税理士会連合会より)。
高齢化と後継者不足に加え、顧客ニーズの変化、AIやクラウドの普及など税理士をとりまく環境の変化は激しく、柔軟な対応が求められています。
米国公認会計士(USCPA, U.S. Certified Public Accountant)は、米国各州が認定する公認会計士資格です。400,000人を超える有資格者のうち、監査・税務業務に関わっているのは半数以下にとどまり、30%以上は一般企業などさまざまな職業で活躍しています。
米国公認会計士の国籍は世界150カ国以上に及び、アジア圏では、日本をはじめ韓国、香港、シンガポール、インドなど多くの国の受験生がチャレンジしています。試験内容は4科目で、すべての科目試験に合格する必要があります。
米国公認会計士協会の公表データによると、2022年の科目別合格率は50%前後となっています。なお同年の日本の公認会計士試験合格率は、7.7%(公認会計士・監査会)ですから、日本の公認会計士資格に比べると難易度も低く、取得しやすいと言われています。
表 2022年米国公認会計士試験の平均合格率 米国公認会計士協会 AICPA Annual Reportより
科目 |
第一四半期 |
第二四半期 |
第三四半期 |
第四四半期 |
期間平均 |
AUD(監査・証明) |
46.35% |
49.13% |
48.67% |
47.21% |
47.90% |
BEC(ビジネス) |
57.33% |
61.53% |
59.91% |
60.30% |
59.85% |
FAR(財務会計) |
44.95% |
45.66% |
44.30% |
40.67% |
43.76% |
REG(諸法規) |
60.03% |
61.25% |
61.78% |
56.41% |
59.85% |
米国公認会計士の試験はすべて英語で国際会計やITの知識も問われるため、ビジネスパーソンに必須の能力を証明することができます。このため、海外進出や合併、再編に積極的な企業にとっては即戦力となります。
さらに、企業のグローバル化に伴う国際財務報告基準(IFRS)導入、上場企業に対する内部統制監査の義務化などが進む中、語学力のある米国公認会計士の活躍は期待を集めています。
表 公認会計士と米国公認会計士の比較
公認会計士 |
米国公認会計士 |
|
勤務可能地 |
日本国内、日系企業の現地法人など |
取得したライセンスの州において会計業務が可能。加えて国際相互承認協定MRAの参加国であれば、米国以外でも業務が行える |
日本国内で可能な業務 |
日本の公認会計士は、日本の国家資格であり、資格取得後は監査法人などで監査や会計といった独占業務に携わることができる。将来的には独立開業も可能 |
日本の監査法人において監査業務や会計業務を行うことは可能。ただし、最終的な監査報告書へのサイン業務を行うには、日本の公認会計士資格が必要 |
受験資格 |
年齢や性別、学歴不問。誰でも受験できる |
受験する州によって受験資格やライセンス取得要件が決められており、多くの州では、「大学の学位」取得や、会計学科やビジネス学科で一定の「単位の取得」が条件 |
主な就職・転職先 |
・監査法人 |
・監査法人 |
メリット |
・公認会計士だけが従事できる独占業務がある |
・国籍を問わず、会計・経理業務ができる証明となる |
大手と小規模の会計事務所の違いとしては、大手になればなるほど大企業のクライアントが多く、小規模から中規模では一般企業や個人を扱うケースが多い点が挙げられます。大手では案件ごとに部門別の縦割り制をとるため、スタッフは、全体的な知識を広げるより専門性を磨きやすいのも特徴です。
4大税理士法人とは、「KPMG税理士法人」「PwC税理士法人」「EY税理士法人」「デロイトトーマツ税理士法人」を指します。いずれも全国に拠点を持ち、クライアントは上場企業や外資系企業などの大手企業が中心です。税務顧問サービス以外に、グローバルに展開する大手企業向けに国際税務や組織再編、M&Aや企業再生に関するコンサルティングなども行っています。
KPMG | PwC | EY | デロイトトーマツ | |
人員数 | 750人 | 660人 | 826人 | 1032名 |
クライアント数 | 3300社 | 非公開 | 非公開 | 非公開 |
拠点 | 東京、大阪、名古屋、京都、広島、福岡 | 東京、大阪、名古屋、福岡 | 東京、大阪、名古屋、福岡、沖縄 | 東京、札幌、仙台、新潟、長野、高崎、さいたま、北陸(金沢)、静岡、浜松、名古屋、大阪、広島、高松、松山、今治、福岡、鹿児島 |
各社ウェブサイトを参考に作成
これらの税理士法人は、世界的な会計事務所であるKPMG、PwC、EY、Deloitteとそれぞれパートナーシップを結んでおり、その海外ネットワークも活用して、国際税務や外国居住者の確定申告サービスといった専門知識が問われる分野を展開しています。
BIG4に次ぐ1000名規模の税理士法人は「大手税理士法人」に分類されます。クライアントはBIG4と比較すると未上場の中小企業が多く、同時に個人の税務相談も受ける「税のデパート」として知られます。
業界最大手の辻・本郷税理士法人と税理士法人山田&パートナーズは、個人事務所が一般的だった2000年代に率先して買収・統合を繰り返し、規模拡大を進めました。なお山田&パートナーズは世界5位のグラントソントン・インターナショナルと提携しており、国際税務などのサービスも提供しています。
監査法人から派生した会計事務所には、中央青山監査法人から分離独立した税理士法人みらいコンサルティングや朝日監査法人から分離独立した朝日税理士法人などがあります。
今、最も再編が激しいのが100人~400人規模の「準大手」と呼ばれる税理士法人です。
太陽グラントソントン税理士法人
BDO税理士法人
税理士法人AGS
東京税理士法人(東京コンサルティンググループ)
日本クレアス税理士法人
コンパッソ税理士法人
RSM汐留パートナーズ税理士法人
アクタス税理士法人
税理士法人高野総合会計事務所
TOMA税理士法人
税理士法人エスネットワークス
南青山税理士法人
クリフィックス税理士法人
東京共同会計事務所
青山綜合会計事務所
サービスラインを広く、全方位に展開する準大手がある一方で、準大手のなかには特化型の会計事務所(税理士事務所)も存在します。
例えば相続の場合、国税庁によると、令和2(2020)年に亡くなった方(被相続人数)は137万2,000人、そのうち相続税の課税対象は12万人で、課税割合は8.8%でした。また被相続人1人当たりの相続税額は1,737万円でした。
相続発生はいわばレアケースです。そこで、以下のように手続きが煩雑な相続税を専門に手掛ける税理士事務所が存在します。また、地域に根差した地域特化型の税理士法人など、特定の分野を対象とすることで、他との差別化を図る会計事務所(税理士事務所)もあります。
税理士法人チェスター(相続税専門)
税理士法人レガシィ(即続税専門)
税理士法人古田土会計(中小企業対象)
アタックス税理士法人(中小企業対象)
税理士法人名南経営(主に名古屋)
税理士法人ゆびすい(大阪)
税理士法人池脇会計事務所(北海道)
税理士資格を有する所長と少人数のスタッフのみで運営している零細な会計事務所では、対応できる案件数や業務内容にも限界があります。一般的な仕事は、中小企業の「かかりつけ医」の役割で、年に一度の決算業務と税務申告の代行、税に関するアドバイス、毎月の売上高や経費などお金の流れを整理して帳簿を作成する記帳代行が中心となります。
小規模の会計事務所は、その地域に根づいた企業にとって最も身近な士業であり、二代三代と長いつき合いが多いのが特徴です。1人で税務の業務を丸ごと担当することが多いため、法人関係の税務のみならず、要望があれば相続や贈与などの案件も引き受けるため、幅広い税務知識が必要とされます。このため、最近では社会保険労務士や行政書士などほかの士業と連携を図りながら、税務業務を行う事務所も出てきています。
また、税理士試験受験者数の減少や税理士の高齢化を背景に、従来のいわゆる「中小企業や個人の駆け込み寺」から脱皮を図り、業務や業界特化型に転身する事務所も見られます。たとえば相続税・贈与税を専門としたり、富裕層を対象に絞ったり、病院や介護業界に特化したりし、生き残りに賭ける傾向が現れています。
令和4年度のモニタリングレポートによると、準大手監査法人(5法人)のうち4法人が将来の業務運営戦略の一つとして合併を検討しており、中小監査法人(34法人を対象)のうち約3割が具体的に合併を検討しているか、良い合併先が見つかれば検討したいと回答しています。
国内にある会計事務所は、スタッフ数が9人以下の小規模会計事務所が約9割を占めています。個人事業主である事務所所長の考えが、そのまま事務所運営に色濃く反映されやすいのが特徴です。したがって、今の事務所のまま成長を目指すのか、自身は引退したり廃業に向かうか、他の組織と合併を図るのか、代表税理士の選択肢次第で、採用したい人物像も変わってきます。
コロナ禍でリモート化が進み、経理業務の多くがリモートワークで対応できるようになりました。記帳代行などは出社の必要がなくなり、地方在住者や時短勤務を希望する者も就業しやすい環境となりました。
人材不足の会計事務所(税理士事務所)は完全に売り手市場であり、再就職先、転職先として就職あっせんも活発に行われています。
また成長を目指す事務所は採用にも前向きで、税理士試験合格や将来の開業を目指す若手の就業先として大手や準大手を希望する者も少なくありません。他方、経営者が高齢の小規模会計事務所では、業務を今のまま継続するか検討する曲がり角にあるといえます。
なお採用したい人物とマッチングできないことが理由で、経営統合や事務所売却に乗り出すケースも増えています。