2016年、M&A注目の案件とは……

「世界の企業による昨年のM&A(合併・買収)の総額は5兆300億ドル(約590兆円)となり、8年ぶりに過去最高をぬりかえた」(朝日新聞デジタル 2016年1月15日)とあるように、主要メディアは15年がM&Aにとって特別な一年だったことを報じています。

 世界的な低成長の中で、投資家のプレッシャーなどから手早くトップラインをたたき出すためにM&Aを実行する……。M&Aの動機はさまざまですが、そういったディールが多かったことが、昨年のM&Aを記録的なものにまで押し上げたと映ります。M&Aで売り上げを増加させることは、もちろん虚飾でも違法でもありません。ただ、売り上げの増加ばかりを目的としたM&Aは、ややドーピング的な印象を受けます。実力以上の数値を、特別な大会(決算)の時だけ“秘策”で記録する、そんなイメージを受けるからです。言い過ぎでしょうか。一部報道では16年は昨年の記録を塗り替えるだろうと伝えていますが、果たしてどうなるのでしょうか?

 それはともかく。今回は昨年のトピックから、今年M&Aのツボとなるのはどのようなものかを考えてみました。みなさんはどうお考えでしょうか。

(1)国内の事業承継型M&Aさらに加速

 昨年、中小企業庁もM&Aを一手法として推奨。全国に「事業引継ぎ支援センター」設置も急ピッチで進む事業承継支援に本腰。(参考:中小企業庁「事業承継ガイドライン 20問20答」)

 背景にあるのはもちろん企業経営者の高齢化です。合理的な手法としてM&Aも積極活用して日本を支える中小企業の世代交代や集約を促すトレンドはまだ継続しそうです。


(2)世界の大型ディール第2幕に注目

 昨年の大型ディールの余波が今年も業界をにぎわせるでしょう。ビール最大手ABインベブ(ベルギー)の同2位SABミラー(英)買収など、巨大買収案件では、各国の反トラスト法(日本で言う独占禁止法)逃れでいくつかの事業を売却する必要が出てきます。この案件ではミラークアーズ事業を切り離すのではないかと言われ、アサヒなど日本の飲料メーカーが虎視眈々とそれを狙っていると言われています。一方でシェアなど業界地図が塗り替わることによりコンペティターを刺激、再編スイッチが入ることは間違いなく、様々な憶測が飛んでいます(日経ビジネスは、ABインベブのコカ・コーラ買収の噂があると伝えています)。

 また、これと観点は異なりますが、やはり昨年業界を騒がせた製薬大手ファイザー(アメリカ)の同アラガン(アイルランド)買収では、税金の安いアイルランドに本拠地を置くことで年間20億ドルとも言われる法人税の節減が可能と言われ、そこにM&Aの大きな目的を置いたディールでした。ただ、ロイターは、ファイザーが狙う法人税負担軽減のための本社海外移転、いわゆるインバージョンは、今年の米大統領選で政権が変わるとインバージョン禁止になりかねず、ファイザーはそれ以前に手続きを完了させる必要があります。インバージョンが完遂しなければ、このディールの意味はありません。買収額は19兆7000億円と巨額なだけに、その動向にはおのずと注目が集まります。


(3)国内の気になる業界や企業。M&Aはあるのか?

・1都道府県に1行で十分? さらに進むか、地方銀行再編

・ローソンの成城石井買収、ファミマとユニー(サークルKサンクス)の経営統合決定に続き、進むかコンビニ×スーパーの再編

・電力自由化にからんで電力会社×IT企業あるか?

・自動運転にからんで自動車×IT企業あるか?

・大量店舗閉鎖などリストラを進めて業績回復を急ぐマクドナルドになにか動きは?


(4)総合系電機3社明暗

 日立はM&Aを活用して新たな収益源開発中、東芝は後処理中。伊デルクリマ買収するなど、空調分野で欧州首位のダイキン工業追う三菱電機は?


(5)シャープ、ソニー。そして他の電機大手は?

 電機大手6社は、危機感をもって早期に体質改善、構造変革に舵を切り先行するパナソニック、NECはビッグデータ活用などによる新しい事業領域を模索、シャープ、ソニーは再生模索中、富士通は?


(6)昨年活発化の兆し。外資の介護事業者国内参入、いよいよ本格化するか?

 中国や日本の介護業界に着目する外資は少なくないと聞きます。ここにも黒船がやってくるのか。

 さて、こうして見てきましたが、個人的に注目しているのは自動車の分野です。今この業界では、自動運転がホットワードです。故意の暴走運転や飲酒運転は論外にしても、高速道路逆走、ブレーキとアクセルの踏み違え、運転中に起こる持病の発作、運転ミスなど、事故防止の観点から言えば、もはや自動車運転を人にのみ委ねておくのは危険、とさえ言えます。

 自動運転はその解決策として多くのメリットがあります。この技術を模索していく時、パワートレーンは制御しやすいEVベースで考える方が妥当です。「やっちゃえ日産」と昨年から自動運転での優位性をアピールしてきた日本のEVリーディングカンパニー日産も、一連の新技術のベース車両はリーフです。こうして先陣を切って自動運転に取り組む姿勢を示す同社ですが、年明けにあっさりと“国内自動運転初認可”を米テスラに献上。日産がこれで黙っているはずはなく、きっとなにか攻勢をかけてくると思います。

 こうした企業の開発競争が興味深いだけではありません。EVは自動運転だけでなく、いろんな技術・サービスを載せるプラットフォームになり得ます。電力自由化で新たに参入する企業と組んだ充電サービス提供など、可能性は無限です。例えば、どれだけ走っても月額エネルギー料固定のパッケージ込みで自動車を販売すれば、自動車メーカーの新たな収益源にもなりますし、新しい市場を生み出すことにもつながるでしょう。これまで自動車メーカーが燃料を販売したことはありませんから、革新的な構造変革と言えます。こうした斬新なアイディア実行に向けて、自動車メーカーが、電力会社と一緒に優れたIT企業を買収してサービスを構築するなど、将来性のある案件が出てくることを期待したいところです。

M&Aのツボは、M&A Online編集部が不定期でお送りします。