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「デロイト トーマツ イノベーションサミット 2024—Morning Pitch Special Edition」イベントレポート

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209社の中から最も活躍が期待されるスタートアップを表彰

「Morning Pitch Special Edition 2024」は、DTVSが毎週開催しているピッチイベント「Morning Pitch」の、年に一度の特別版アワードイベントです。2023年に登壇したベンチャー209社の中から選ばれたファイナリストベンチャーがピッチを行いました。

登壇順に、株式会社enechain(Climate Tech)、株式会社Space quarters(宇宙)、ソニア・セラピューティクス株式会社(医療)、株式会社Dioseve(フェムテック)、DataLabs株式会社(建設/建築)、株式会社トクイテン(農業)、RUN.EDGE株式会社(スポーツ)、それぞれ領域も異なる7社です。気候変動、宇宙開発、人手不足、DXなど様々な社会課題に対して、スタートアップならではの独創的なアプローチとスピード感をもって取り組んでいることが伝わり、審査員や来場者とのQ&Aも活発に行われ、熱気に溢れるピッチとなりました。

ピッチ終了後、イノベーション領域の有識者6名による審査員が最も活躍が期待されるスタートアップを選ぶ年間最優秀賞と、会場の参加者が選ぶオーディエンス賞が発表されました。年間最優秀賞の審査基準は以下の5点です。

  1. 解決したい課題に社会的意義があり、共感できるか
  2. 革新性・優位性があるといえるか
  3. 狙うマーケットの規模が大きいといえるか
  4. 経営チームのマインド、スキル双方の面で実現可能性は高いか
  5. 今後の躍進期待度

年間最優秀賞にはソニア・セラピューティクスとDataLabs、オーディエンス賞にはソニア・セラピューティクスが選出されました。

年間最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞:ソニア・セラピューティクス

ソニア・セラピューティクスは年間最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞しました。がんの種類の中でも治療が難しい膵臓がんの新たな治療法となる医療機器を開発しています。医療面で社会的な意義が大きいだけではなく、代表の佐藤亨氏が、創業間もない頃に家族が膵臓がんになった方からメールを受け取った経験を交え「悲しい思いをする人をなくしたい」と話し、その真摯な思いに心を揺さぶられた人は多かったことでしょう。

同社は、超音波を照射してがんを加熱、壊死させる集束超音波(HIFU:high-intensity focused ultrasound)治療装置の実用化に取り組んでいます。臓器切除や放射線治療など既存の治療方法と比べて患者の負担が小さく、治療効果は高いことが期待されており、実現すれば世界初となります。難治がんである膵臓がんの成功を足掛かりとして、超音波技術が適用しやすい肝臓がん、乳がんなどの分野に治療対象を広げていく計画です。

受賞後、佐藤氏は「日本は、医療機器を輸入に頼っています。そのような市場にスタートアップとして挑んでいるのですが、成功事例となりたい。患者は世界中にいるので海外展開が前提となります。特に、医療機器で世界的な影響力が大きい米国で評価を得ることは必須です」と同社のチャレンジについて語りました。

年間最優秀賞:DataLabs

DataLabsは、建設業向けに3次元データ技術によって配筋検査を効率化するソリューションを紹介しました。DataLabs代表の田尻大介氏は、「『配筋検査』という言葉を初めて聞いた方は多いと思います」と前置きし、コンクリート建築物の鉄筋の配置などを確認するために必ず行われる検査であり、複数名が現場に赴き、巻き尺やカメラを使って計測や撮影を行い、多量の帳票作成を行うため業務負担が大きいと説明しました。

同社のModeryは、iPadなどのLiDAR(レーザー光を使った測定技術)付きの市販のタブレット端末などを使用し1人で簡単に撮影・計測したデータを、クラウドにアップロードするだけで自動的に鉄筋を検出し、3Dデータ生成から帳票作成まで一気通貫に行えるSaaS型ソリューションです。田尻氏は、「単にデータ化するだけではDXは進みません。現場業務の効率化に貢献できるか、定量的な効果を出することにこだわって愚直に取り組んでいます」と、現場に密着して進める製品開発の苦労にも触れました。

人手不足や生産性の低さという課題を抱える建設業で、とりわけ労働集約型業務にフォーカスした取り組みであること、韓国のゼネコンから問い合わせが来るなど海外含めた需要の大きさが期待できることなどが受賞のポイントになったといえるでしょう。

気候変動、宇宙、フェムテック、農業、DX—様々な社会課題に挑む

受賞企業以外の5社も社会課題に根差した取り組みが印象的でした。各社の取り組みを紹介します(登壇順)。

enechain(エネチェーン)

enechain(エネチェーン)は2019年に創業後、エネルギーの取引所を運営します。代表の野澤遼氏を筆頭にエネルギーに思い入れの強いメンバーが集まりました。電力取引額は累積で2兆円に迫っており、国内のエネルギーマーケットプレイスとしては最大規模となります。2023年には温室効果ガスを企業間で売買するカーボンクレジットの取引所JCEX(Japan Climate Exchange、日本気候取引所)を開始しました。カーボンクレジット取引は、環境への取り組みやネットゼロを背景に世界的にニーズが急増しています。日本企業が海外からクレジットを購入するニーズに対応するためロンドンとシンガポールに拠点を設置しています。

Space quarters(スペースクオーターズ)

Space quarters(スペースクオーターズ)は宇宙に挑みます。民間企業の参入も相次ぎ宇宙ビジネスが急成長する中で、宇宙ステーションや居住モジュールなど、大型の構造物を宇宙に作るニーズが想定されますが、地上からロケットで打ち上げられるもののサイズや形状には限界があります。そこで、宇宙での建築技術、つまり宇宙空間に運んだパネルを溶接し組み立てるという独自技術によってその課題を解決しようというのです。代表の大西正悟氏は「宇宙に行けない宇宙スタートアップは多いといわれますが、我々は唯一無二の宇宙ゼネコンを目指し、人類の宇宙進出を加速させます」と意気込みを語りました。

Dioseve(ディオシーヴ)

Dioseve(ディオシーヴ)は、不妊治療に画期的技術を持ち込みます。女性のライフスタイルの変化などを背景に不妊治療を受ける人の数は増加し続けていますが、現状、体外受精や卵子凍結といった技術は時間がかかり、妊娠の成功率が低く、女性の身体負担が大きいという課題があります。Dioseveは、iPS細胞から安価かつ大量に卵子を生成するという技術開発に取り組みます。女性は血液採取のみでよく、体質や年齢に関係なく何度でも実施できる想定です。今回最年少での登壇となった代表の岸田和真氏は、審査員や会場の参加者からの同性カップルへの応用や新技術の安全性や倫理性についての質問に真剣に回答していました。

トクイテン

トクイテンはアグリテックのスタートアップです。代表の豊吉隆一郎氏はITエンジニアのビジネス向けSaaSで起業し売却後、農業の世界に飛び込んだ経験を持つ、シリアルアントレプレナーです。有機農業の完全自動化を目指すというコンセプトのもと、ロボットを使ったミニトマトの収穫などの技術開発を行っています。豊吉氏は「日本の得意技術であるロボットで自動的にトマトを選別して収穫するという難易度の高い技術はやりがいがあります」と楽しそうに語っていました。審査員には同社の技術で収穫されたミニトマトがふるまわれ、美味しいと賞賛されていました。

RUN.EDGE(ランエッジ)

RUN.EDGE(ランエッジ)はスポーツ分野で培った技術をもとに、一般企業のDXへと事業業域の拡大を図ります。映像の中から見たい箇所を特定し検索してシーン再生できる技術を保有し、野球向けアプリケーションPICHBASEは日本のプロ野球のみならず米国MLB(メジャーリーグベースボール)の球団でも多く活用されています。シーン再生技術を企業の会議動画、商談動画、研修動画などに応用する新ソリューションがレコロクです。動画は情報量が多く有益な一方で再生に時間がかかるため録画しても見られないという実態があります。代表の小口淳氏は「動画を活用するというエクスペリエンスを提供していきたい」と語りました。