これまでM&Aに関連する連結仕訳を全8回にわたるシリーズとして解説してきました。最終稿となる今回のテーマは第三者割当増資です。
第三者割当増資というと、これまで株主でなかった第三者からの増資というイメージを持たれる方がいるかもしれません。しかし、既存株主のうち特定の者に対して新株発行するケースなども含め、現状の株主構成のまま株式を割り当てる場合以外の増資はすべて第三者割当増資に該当します。
今回はそのような第三者割当増資が行われた場合の単体企業における会計処理を確認したうえで、連結仕訳への影響を検討してみたいと思います。
第三者割当増資を行う会社は、増資を引き受ける会社あるいは個人からの払い込まれた額を資本金として計上するのが原則です。ただし、払い込まれた額の2分の1を超えない範囲で資本金ではなく、資本準備金として計上することもできます。
例えば、ある会社を引受先として第三者割当増資を行い、現金100の払い込みを受けた場合の仕訳は下記のようになります(ただし、払い込み額のうち50を資本金、残りの50を資本準備金として処理するものとします)。
<第三者割当増資を行う会社の仕訳>
借方 |
貸方 |
(現金)100 |
(資本金)50 (資本準備金)50 |
第三者割当増資を引き受けるのは会社の場合も個人の場合もありますが、ここでは会社の場合を考えましょう。つまり、会社が株式を取得して法人株主となるわけですが、その議決権比率によって処理も変わってきます。
例えば、第三者割当増資を行った会社への議決権比率が50%を超え、支配力を有しているような状況では「子会社株式」という科目で処理することが考えられます。
また、議決権比率が20%以上となり、影響力を有しているような状況では「関連会社株式」という科目で処理することが考えられます。「子会社株式」にも「関連会社株式」にも該当しない場合には「投資有価証券」などの科目で処理することになります。
例えば、ある会社が行う第三者割当増資を引き受け、現金100を払い込んで議決権比率60%を有するに至った場合の仕訳は下記のようになります。
<第三者割当増資を引き受ける会社の仕訳>
借方 |
貸方 |
(子会社株式)100 |
(現金)100 |
上記のような仕訳からもわかるように、第三者割当増資は、株式を取得するという意味においては、既存の株式を購入した場合と類似しています。
それでは、上記の二つの仕訳がちょうど表裏の関係となっている場合を想定してみます。つまり、一方の会社が他方の会社の第三者割当増資(100)に応じて、議決権比率60%の親子会社関係ができた場合です。
これは連結仕訳でいうと、投資と資本の相殺消去という基本的な仕訳に関係してきます。連結財務諸表は企業グループ全体を一つの会計単位としています。そのため、グループ内の取引は相殺消去されるのが原則です。このことは資本取引についても同様です。
企業グループの観点では、親会社が有する「子会社株式」と子会社における「資本金」や「資本準備金」は、あくまでグループ内の取引により生じたものとして消去されます。具体的な連結仕訳としては下記のようになります。
<第三者割当増資が行われた場合の連結仕訳>
借方 |
貸方 |
(資本金)50 (資本準備金)50 |
(子会社株式)100 |
なお、単体の仕訳では払い込まれた現金100が登場しましたが、これは親会社側から子会社側に移動した資金であり、グループとしては現金100を保有していることに変わりはないため、連結上の仕訳を必要としません。
以上、全8回にわたって連結仕訳を紹介してきました。M&Aに関連するところでは純資産の処理が論点になることが多いといえます。シンプルな例を取り上げてきましたが、実際には段階的に株式を取得した場合はどうなるのか、累積されてきた剰余金をどのように考えるべきなのかなど多様な論点が存在します。このシリーズを機会に連結財務諸表の作成過程に興味を持っていただけたなら幸いです。
文:北川ワタル
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