【M&A仕訳】株式移転(連結会計編)

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このシリーズでは、連結会計におけるM&A仕訳を全8回にわたって解説しています。本稿はその第5回目に当たります。前回のテーマである「株式交換」も、本稿で解説する「株式移転」も、100%親子会社関係を作るための組織法上の行為という点で共通しています。

ただし「株式交換」では既存の会社を完全親会社としますが、「株式移転」では新設した会社を完全親会社とする点で異なります。このような違いが具体的な会計処理にどのような影響を与えるのでしょうか。以下では、株式移転の特徴を紹介するとともに、株式移転を行った場合の連結仕訳を確認していきたいと思います。

株式移転は完全親子会社関係を作るための手法

株式移転が行われた際の個別会計上の仕訳は「【M&A仕訳】株式移転の会計処理」ですでに紹介しています。少し復習になりますが、連結上の仕訳を考える前提として、まずは株式移転の特徴と個別会計上の処理を確認してみましょう。

・株式移転の特徴は?

株式移転とは、子会社となる株式会社がその発行済株式の全部を、親会社となる新設会社に取得させることにより、完全親子会社関係を作るための手法です。株式移転は、会社法で定められた組織再編行為であり、完全子会社となる会社における社内的な手続としては、株式移転計画の作成、書類の事前開示を経た上で株主総会の特別決議が必要となります。

株主総会の特別決議は、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による賛成が必要となるものです(会社法309条2項12号)。完全子会社となる会社の株主のうち、株式移転について反対の意思を表示する株主には株式買取請求権が認められています(会社法806条1項)。

会計基準では、親会社となる新設会社を「株式移転設立完全親会社」、子会社となる会社を「株式移転完全子会社」と呼んでいます。株式交換完全子会社の株主に対する対価は、通常、株式交換完全親会社の株式となります。株式交換では対価に柔軟性があり、金銭を対価とすることも可能ですが、株式移転では株式や社債などに限定されている点が異なります。

・株式移転の個別会計上の処理は?

株式移転には様々な活用方法が考えられます。以下では、株式移転完全子会社(B社)の株主に対する対価として株式移転設立完全親会社(A社)の株式を交付するケースを前提に会計処理を確認していくことにしましょう。

<株式移転設立完全親会社(A社)の会計処理>

(B社株式)1000

(資本金)100

(資本剰余金)900

借方の「B社株式」は、株式移転日の前日における株式移転完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額にもとづいて算定します。ただし、直前の決算日で算定した金額との間に重要な差異がない場合には直前の決算日を採用することも可能です。

貸方の「資本金」と「資本剰余金」の配分は株式移転計画で裁量により決めることができます。ここでは、株式移転設立完全親会社(A社)が1000相当の新株を発行し、そのうち100を資本金とした場合の仕訳例を示しました。

<株式移転完全子会社(B社)の会計処理>

仕訳なし

株式交換完全子会社(B社)では、特に資産や負債、純資産の変動がないため、個別会計上の仕訳はありません。B社にとっては株主が従来の株主からA社に変わっただけということができます。

株式移転を行うと連結仕訳にはどのような影響がある?

B社がA社を新設するような株式移転を単独株式移転と呼びます。単独株式移転は企業結合には該当しないものの、企業結合会計基準で共通支配下の取引等に準じて会計処理することと定められています。これはどういうことかと言うと、連結会計上、子会社の資産や負債の評価は簿価で据え置くことを意味します。

連結決算書を作成する主体は新設親会社であるA社ということになりますが、具体的な連結手続としては、子会社であるB社の貸借対照表を簿価で合算した上で下記のような資本消去仕訳を行うことになります。

<連結会計上の仕訳(資本消去仕訳)>

(純資産)1000

(B社株式)1000

前回の株式交換のケースとは異なり、資産および負債の時価評価やのれんの計上という処理は見られません。

以上のように、登場するプレイヤーが株式移転設立完全親会社と株式移転完全子会社だけのケースではシンプルな処理となりました。しかし、複数の企業が共同で株式移転を行い、持株会社を設立するようなケースでは時価評価などの論点が登場してきます。そうしたケースについては、また機会を改めてご紹介できればと思います。

文:北川ワタル

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