【M&A仕訳】株式取得(連結会計編)

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連結会計におけるM&A仕訳を全8回にわたって解説していく予定ですが、本稿はその第2回目に当たります。第1回目では「全体像」をお伝えしましたので、今回の「株式取得」が実質的に最初に取り扱うテーマとなります。

株式取得は、文字どおり、対象会社の株式を購入などにより取得するものであり、もっともシンプルなM&A形態といえます。単に「買収」といえば、基本的には現金を対価とした株式取得を指します。それでは、早速、株式取得を行った場合の連結仕訳を確認していきましょう。

1.買い手企業の会計処理

 1-1.株式取得時の会計処理

対象会社の株式を取得した場合、その対象会社に対して、どの程度の支配力や影響力を持っているかによって、買い手企業の決算書上の取扱いや連結財務諸表上の会計処理が異なってきます。

 (A)支配権を取得した場合

支配権というのは、会社の経営上の意思決定をコントロールする力を意味します。買い手企業が支配力を有しているかどうかを判定する手順は、連結財務諸表に関連する会計基準などに詳細に定められています。ただし、目安としては議決権総数の50%超が基準となります。

こうした判定方法は「支配力基準」と呼ばれています。支配力を有している場合、対象企業は「子会社」に該当し、「親会社」となった買い手企業の連結財務諸表に取り込まれるのが原則です。

連結財務諸表を作成するには、グループ各社の決算書を合算して、グループ会社間の取引などを相殺消去することが基本となります。その際、親会社の決算書に計上されている「子会社株式」などの勘定科目は連結財務諸表上では消去されます。また、連結財務諸表上の資本金は各社の資本金の合計ではなく、親会社の資本金だけが計上されます。

このような相殺消去は連結会計上の仕訳という形で表現できます。たとえば、次のような事例で連結会計上の相殺消去仕訳を考えてみましょう。

<事例>

・対象会社の株式100%を一括で取得(取得対価は150)

・対象会社の資産、負債および純資産の簿価と時価は一致(時価純資産=簿価純資産=100)

・対象会社の決算書上の資本金は60、利益剰余金は40(合計100)

この場合、親会社による投資と子会社の資本との相殺消去は下記のような仕訳となります。

(資本金)60         / (子会社株式)150

(利益剰余金)40

(のれん)50

上記の事例では、子会社の時価純資産100を上回る対価150を支払っているため、超過収益力などを意味する「のれん」が50発生しています。

なお、この事例はもっともシンプルなケースといえます。実際には、株式を100%未満の割合で取得して非支配株主(少数株主)が存在するケース、株式を一括ではなく段階的に取得するケース、不動産などの資産の時価が帳簿価額とは異なるケースなど様々なパターンが考えられます。

 (B)支配権は取得していないが、重要な影響力は取得した場合

影響力というのは、経営上の意思決定に重要な影響を与えることを意味します。買い手企業が影響力を有しているかどうかの判定方法も、連結財務諸表に関連する会計基準などで詳細に定められています。ただし、目安としては議決権総数の20%以上が基準となります。

このような判定方法は「影響力基準」と呼ばれます。影響力を有している場合、対象企業は「関連会社」に該当し、買い手企業の連結財務諸表では原則として「持分法」という処理が適用されます。

持分法では、関連会社の決算書を連結財務諸表に合算することはしません。その代わり、関連会社で発生した損益のうち買い手企業(企業グループの親会社)の持分に相当する部分を投資勘定(買い手企業の決算書に計上されている「関連会社株式」などの科目)に加減算していきます。

そのため、株式取得時点においては特に連結仕訳は発生しません。買い手企業の決算書に計上されている関連会社株式の金額がそのまま連結財務諸表に取り込まれます。

 (C)ターゲット会社の意思決定にほとんど影響力を与えられない場合(AにもBにも該当しない場合)

この場合、買い手企業の決算書では対象会社の株式が「投資有価証券」などの勘定科目で計上されますが、特に連結仕訳は発生しません。

  1-2.株式取得後の会計処理

 (A)ターゲット企業が「子会社」の場合

連結財務諸表はグループ全体の決算書ということができます。そのため、グループの内部における取引や債権債務は相殺消去する必要があります。

たとえば、親会社から子会社に対して商品100を販売し、代金は期末時点で未回収となっている場合、下記のような連結仕訳が必要となります。

(売上)100      / (仕入)100

(買掛金)100    /(売掛金)100

この連結仕訳は、親会社における「売上」と子会社における「仕入」を消去(内部取引消去)とともに、親会社における「売掛金」と子会社における「買掛金」も消去(債権債務消去)していることを意味します。

また、上記の事例において、仮に期末時点では商品がグループ外部に販売されておらず、子会社で保有している場合には、先ほどの連結仕訳に加えて、商品の帳簿価額のうち親会社が付加した利益の部分を控除するという手続(未実現利益の控除)も必要となります。

さらに、対象企業が100%子会社でない場合には、子会社の決算書で計上された損益のうち非支配株主(少数株主)の持分に相当する部分を連結財務諸表上で調整する作業なども必要となります。

 (B)ターゲット会社が「関連会社」の場合

上述のように関連会社で発生した損益のうち買い手企業の持分に相当する部分を「関連会社株式」に加減算する処理が必要となります。

例えば、議決権の30%を保有する関連会社の決算書で10の利益が計上された場合、下記のような連結仕訳が必要となります。

(関連会社株式)3   /(持分法による投資損益)3

 2.売り手株主の会計処理

それでは、仮に売り手が法人株主であり、これまで連結財務諸表の範囲に含めていた子会社を売却した場合の会計処理はどうなるでしょう。

売り手(親会社)の個別の決算書では「子会社株式売却損益」が計上されています。連結仕訳では、子会社株式を取得してから売却するまでの間に稼得した利益剰余金のうち持分相当額を調整する処理が必要となります。

たとえば、100%子会社(取得時からの利益剰余金の累計100)の株式をすべて売却して子会社株式売却益300を計上している場合、下記のような連結仕訳が必要となります。

(子会社株式売却益)100  /(利益剰余金)100

個別の決算書上では子会社株式売却益が300計上されているものの、連結財務諸表上はすでに利益剰余金100が織り込まれており、子会社株式の売却原価(連結上の簿価)もその分だけ増えていると考えるのが自然です。そのため、子会社株式売却益は利益剰余金の分だけ小さくなると考えられます。それを連結仕訳に表したものが上記の仕訳です。

上記の事例はできるだけシンプルにしていますが、実際には、一部売却して支配が継続するケース、支配は継続しないが影響力は持ち続けるケースなど様々なケースが考えられます。それぞれについて会計基準や実務指針で処理方法が定められています。

 3.買収ターゲット会社の会計処理

買収の対象となった会社にとっては単に株主が変更するだけであり、特に会計処理は必要となりません。なお、米国基準では、買収時における資産・負債の時価評価やのれんの計上を対象会社の個別決算書に反映させる「プッシュダウン会計(Pushdown Accounting)」という手続もありますが、我が国基準ではそのような手続はありません。

以上のように、連結仕訳を考える際には、企業グループから見て株式の簿価や売却損益がどのようになるのかという視点を持つことがポイントとなります。まずはシンプルな事例から確認していくことも有用といえるでしょう。

文:北川ワタル

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