【M&A仕訳】株式取得(株式譲渡)の会計処理

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こんにちは、公認会計士の岡 咲(おか・さき)です。(ペンネームです。会員検索してもこの名前では出てきませんので、悪しからず。)

前回はM&A仕訳の全体像について解説しました。今回は、「株式取得の個別会計の処理」についてご説明いたします。 

株式取得によるM&Aは、買い手企業が売り手株主から株式を購入することで行われます。買収ターゲットの会社そのものは、取引の当事者ではありません。 これを踏まえて、それぞれの立場の仕訳をご説明いたします。

1.買い手企業の会計処理

1-1.株式取得時の会計処理

 個別会計上は、買い手企業は買収ターゲット会社の株式を資産として取得する取引となります。このとき、買収ターゲット会社の支配権をどの程度確立できたかに応じて、取得した株式を計上する勘定科目が異なります。

(A)支配権を取得した場合

議決権の過半数を取得した、他の大株主と株主間協定を締結することにより、自己名義で取得した議決権は過半数には届かないが実質的に過半数の議決権を行使できる状況ができている、など、買収ターゲット会社の支配権を取得できたと認められる場合は、「子会社株式」(または「関係会社株式」)という勘定科目に計上します。

支配権を取得できたかどうかの判断基準は、「企業会計基準適用指針第 22 号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準委員会)に定められています。

詳細は連結会計に踏み込まざるを得ないので本連載では取り上げませんが、基本的な考え方としては、「自社と自社の方針に従う株主の合計で議決権の過半数を押さえたら”子会社株式”」と覚えておいてください。これだけで実務の80%以上はカバーできると思います。

(設例1)
A社はB社の創業者からB社株式の55%を購入し、対価を現金で支払った。

(借方)子会社株式 xxxx円 (貸方)現金預金 xxxx円

(B)支配権は取得していないが、重要な影響力は取得した場合

議決権の3分の1超を取得すれば、会社法上、特別決議の拒否権が確保できますし、また、より低い出資比率でも取締役の派遣やターゲット会社との出資契約締結等により、ターゲット会社を支配しているとまでは言えなくとも一定の重要な影響力を行使できる場合があります。

この場合、取得した株式は「関連会社株式」(または「関係会社株式」もしくは「投資有価証券」)という勘定科目に計上します。

影響力の判断については、支配権の判断と同様、「企業会計基準適用指針第 22 号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」に定められています。やはり本連載の取り扱い範囲を超えてしまうので詳細は省きますが、基本的な考え方としては「20%以上50%以下は”関連会社株式”」と覚えておいてください。

M&Aの局面では、将来的には子会社としたいが、現時点では難題に直面しており不確実性が高いため、いったん関連会社としておき、将来難題が解消したときに残りの株式を買い増しする、しかし難題が解決しなかった場合は買い増ししないものとする、などのケースで発生します。

(設例2)
C社はD社の創業者から株式100%の取得を検討しているが、DDの結果、多額の損害賠償請求を提起されており、敗訴すれば多額の特別損失が発生するうえに、レピュテーションに多大なダメージが発生する可能性があることが判明した。しかし、事業そのものは大きなシナジーが期待でき、非常に魅力的である。

そこで、まずは25%のみ株式を取得し、問題の訴訟で勝訴または和解できた場合に残り75%を買い取ること、また合わせてC社から取締役を派遣し、D社はこれを受け入れる、という内容の契約を締結した。25%の部分について、株式を取得し、対価を現金で支払った。

(借方)関連会社株式 xxxx円 (貸方)現金預金 xxxx円

(C)ターゲット会社の意思決定にほとんど影響力を与えられない場合(AにもBにも該当しない場合)

上記のAにもBにも該当しない場合、「投資有価証券」勘定に計上します。

そもそもM&Aに該当するのか、という問題はありますが、例えば親しい取引先がM&Aを行う時に、「単独で48%だけ取得するので、3%程度共同投資してくれないか」などと持ち掛けられて、これに応じる場合など、限定的なシチュエーションではありますが発生する可能性があります。

(設例3)
D社は親しい取引先E社からF社の買収における共同投資を持ち掛けられてこれを応諾し、F社株式5%を取得し、対価を現金で支払った。

(借方)投資有価証券 xxxx円 (貸方)現金預金 xxxx円

1-2.株式取得後の会計処理

(A)ターゲット企業が非上場会社の場合

取得後は売却するまで原則として特に会計処理は不要です。ただし、ターゲット会社の業績が悪化して一株当たり純資産が取得単価の半分以下になった場合は、評価損を計上して一株当たり純資産相当額まで評価減する必要が生じます。

(B)ターゲット会社が上場会社の場合

「子会社株式」及び「関連会社株式」であれば特に会計処理は不要です。「投資有価証券」の場合は市場株価に評価額を洗い替えし、評価差額に(1-実効税率)を乗じた額を「その他有価証券評価差額金」、評価差額に実効税率を乗じた額を「繰延税金負債」または「繰延税金資産」に計上します。

(設例4)
G社は上場会社H社の株式10%を期中に10,000百万円で取得した。
H社の決算日時価総額の10%相当額は10,500百万円、実効税率は30%であった。

(借方)投資有価証券 500百万円
 
(貸方)その他有価証券評価差額金 350百万円
    繰延税金負債       150百万円

 なお(B)の項で記載したとおり、「関連会社株式」については、「関係会社株式」のほか「投資有価証券」勘定で処理することもできますが、その場合影響力のある会社の株式と影響力のない会社の株式が「投資有価証券」勘定に混在することとなります。その場合、上記の時価評価を行うのは影響力のない会社に限られますので、注意が必要です。

2.売り手株主の会計処理

売り手は、支配権・影響力の状況に応じて計上していた勘定科目から取得原価を控除し、売却対価との差額を売買損益に計上します。

(設例5)
I社は、ノンコア事業の整理を行い、子会社株式1,000百万円を1,100百万円で、関連会社株式500百万円を480百万円で売却し、対価を現金で受け取った。

(借方)現金預金 1,100百万円
 
(貸方)子会社株式   1,000百万円
    子会社株式売却益 100百万円
(借方)現金預金      480百万円
    関連会社株式売却損 20百万円
(貸方)関連会社株式   500百万円

(設例6)
J社は上場会社K社の株式を政策保有で0.5%相当保有していたが、K社との取引上の重要性が低下したため、市場で売却した。K社株式の取得原価は800百万円、期首の時価は1,000百万円、売却時の時価は750百万円、実効税率は期首及び売却時とも30%であった。

1.前期末(期首)時価評価の取り消し

(借方)その他有価証券評価差額金 140百万円
    繰延税金負債        60百万円
(貸方)投資有価証券 200百万円

2.売却益の認識

(借方)未収入金      750百万円
    投資有価証券売却損  50百万円
(貸方) 投資有価証券 800百万円


3.買収ターゲット会社の会計処理

 株式取得の場合、買収ターゲット会社は取引の当事者ではないので、仕訳は発生しません

仕訳なし

(参考)表示科目について

貸借対照表上の表示科目としては、以下のパターンが認められています。

1 子会社株式→ 「子会社株式」または「関連会社株式」
2 関連会社株式→ 「関連会社株式」または「関係会社株式」もしくは「投資有価証券」
3 1.2以外の株式→ 「投資有価証券」(売買目的保有の場合を除く)

したがって、「関係会社株式」には子会社株式と関連会社株式が混在している可能性があり、どちらか一方しかない可能性もあります。また、「投資有価証券」には、関連会社株式と子会社株式でも関連会社株式でもない株式が混在している可能性があり、どちらか一方しかない可能性もあります。

以上が、個別会計上の株式取得(株式譲渡)取引の仕訳となります。(次回「事業譲渡のM&A仕訳」に続きます)

文:岡 咲(公認会計士)/編集:M&A Online編集部

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